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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第80話 髪を巻いて

顕現した頃から私はルーリの強さに頼ってきた。

けれど、それは貴女を縛り付けることだったかもしれない。


どうか、今からでも伝えさせて。

もう二度と貴女に寂しい思いをさせたくないの。

次の日の朝。

「畏れながら、マヤリィ様。タンザナイトが私を超えたことは皆も知っておりますよね…」

ルーリは、他の配下達の前で昨夜の話をしなかったマヤリィの気遣いに感謝しつつも、皆が今自分のことをどう思っているか気になり始めた。

皆は優しいから直接ルーリにその件について聞いてくることはないだろうが、やはり気になってしまう。

マヤリィは少し考えてから答える。

「そうね…。私が貴女を桜色の都に連れて行くと言った時点で皆も気付いたとは思うけれど、この話を玉座の間でするつもりはないわ」

…マヤリィ様、昨日はシロマに『改めて説明する』とか言ってましたよね?

女王様の言葉は時々あてにならないというか、気が進まない話は曖昧に終わらせることが多い。

しかし、ルーリ本人には改めて説明する。

「私は桜色の都と接点を持ち始めた頃から、貴女の抜きん出た強さを実感していた。だから、貴女を私の切り札として、常に流転の城に留めておくことに決めたの。桜色の都が我が國に害を成すことはなくても、他にどんな脅威があるか分からないし、どこから情報が漏れるか分からない。そんな中『ルーリ』という存在は私に安心感を与えてくれた。何があっても、貴女さえいれば流転の國は安泰だと思ってた。…けれど、その方針によって私は貴女を流転の城に縛り付けてきたのだとようやく気付いたの」

本当はずっと桜色の都に行きたかったのではないかとマヤリィは思う。常に玉座の間での待機を命じられてきたルーリはどう思っていただろうか。

配下に対してこんなにも気を遣う女王など本来は有り得ないが、流転の國の女王マヤリィはここまで考えてしまうのだ。

そんなマヤリィの前にルーリは跪く。

「…マヤリィ様のお優しいお心遣いに深く感謝致します。されど、貴女様はお優しすぎます」

ルーリは言う。

「確かに、私が桜色の都に全く興味がなかったと言えば嘘になりますが…『マヤリィ様の切り札』というポジションに縛られていたなどと思ったことは一度もございませんし、むしろ私は流転の城で自由に過ごさせて頂いております。それに、私が自由に過ごすことが出来るのは、貴女様が流転の國を『誰もが心穏やかに健やかに自由に過ごせる場所』にすると定めて下さったお陰にございます」

かつて『玉座の間で待機することしか出来ない自分が哀しくなる』と感じたルーリだが、それはマヤリィに信頼されている証だと分かっているから、少々不安定になりつつも立ち直ることが出来た。

「…マヤリィ様。いつも流転の城で自由に過ごさせて下さり、本当に感謝しております。私は貴女様のような慈悲深い御方にお仕えすることが出来て幸せにございます」

「ルーリ……」

跪いたままマヤリィを見上げ、微笑むルーリ。そんな彼女を見て少し安心したマヤリィは、その短い髪を撫でる。

「私の大切なルーリ。もう二度と貴女に寂しい思いをさせないわ」

断髪するに至った経緯を聞いた第61話の時からずっと、マヤリィはルーリのことを気にしていた。

思えば、遠ざかってしまったルーリの心を取り戻したくて必死だったのかもしれない。

「…ねぇ、ルーリ?」

「はい。マヤリィ様」

「私、貴女の短い髪も好きよ」

マヤリィは手を止めずに言う。

「けれど、この長さのまま巻いてみせて欲しいの。…いいかしら?」

「勿論にございます、マヤリィ様…!」

そして、すぐに第7会議室に『転移』する。

「本当に美しいブロンドね…」

マヤリィの言葉に応えるかのように、一段と美しく輝く金色の髪。

それを聞いたルーリは、顕現したばかりの頃にマヤリィが自分のウェーブヘアを褒めてくれたことを思い出す。

(もう一度、伸ばしてみようかな…)

鏡に映る自分を見ながら、ルーリは少し伸びた髪を愛おしそうに扱うのだった。

久々にウェーブをかけたルーリの髪は、光を受けて美しく輝いています。

短い髪も好きと言いつつ、見とれてしまうマヤリィ。


言葉で伝える。言葉を受け取る。

それを繰り返しながら、悩み傷付いていた時期を乗り越えていく二人。


運命に定められた永遠の愛が変わることは決してありません。

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