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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第78話 シロマの疑問

一方、自由時間を言い渡されたこちらの二人は…。

「…クラヴィス。貴方、何か知っていますか?」

「えっ?何の話ですか?」

「リッカ様のことです。ご主人様は何を考えていらっしゃるのでしょう…?」

なぜ桜色の都からの客人であるリッカを会議に呼んだのか、シロマは不思議に思っていた。

「今日の会議は、かつてシャドーレ様を配下に迎えられた日に似ていました。…しかし、リッカ様は違いますよね?何ゆえ都から来た方にナイト様の強さを思い知らせたのか、私には分からないのです」

流転の國の『国家機密』であったはずのルーリを桜色の都に行かせたということは、もはやその存在を秘匿する必要がなくなったからだとシロマは考えている。あんなにも厳重に『ルーリ』という存在を隠し続けていたのに、なぜあっさりと流転の國の方針を翻し『No.2』を公の場に連れて行ったのか…。その答えは明白である。

今現在、その実力を秘匿すべきはルーリでなくタンザナイトだから。

口には出さないが、シロマはタンザナイトの恐ろしいほどの成長を目の当たりにし、密かに(ナイト様はルーリ様を超えた)と感じている。その為、事実上の『No.2』となったタンザナイトの実力を都の人間に知らせた理由が分からない。

(ご主人様がわけもなく情報開示なさるはずはない。リッカ様は本当に桜色の都の方なのよね…?)

シロマはリッカの境遇も、レイン離宮に戻る途中で流転の國に来たことも知らない。

と、その時。

《こちらマヤリィ。シロマ、今大丈夫かしら?》

タイミング良くマヤリィから『念話』が入った。

《こちらシロマにございます。ご主人様、何かございましたか?》

《貴女とクラヴィスに話しておきたいことがあるの。今、一緒にいるでしょう?》

(なぜ私がクラヴィスと一緒にいることをご存知なのだろう?)と思いつつ、シロマは答える。

《はっ。実を申しますと、私も貴女様に伺いたいことがございました》

《ふふ、話が早くて助かるわ。私の伝えたいことと貴女の聞きたいことはたぶん同じだから》

マヤリィはそう言うと、第1会議室に来るようシロマに命じ、念話を終わらせた。

「…っていうことだから、シロマとクラヴィスにリッカ殿の件を説明してくるわ」

マヤリィはそう言うと、ベッドから起き上がり服装を整える。

…今までずっと横になったまま念話してたんですね、マヤリィ様。

「姫、僕も一緒に行きましょうか?」

その様子を見てジェイが訊ねる。

「身体の具合は大丈夫なんですか?」

「ええ。場所は第1だし、相手はシロマだし、心配ないわよ。それに、貴方には頼みたいことがあるの」

マヤリィは言う。

「書庫で氷系統魔術の本を幾つか探してきてもらえるかしら?後でリッカ殿に読んでもらいたいから」

「分かりました、姫。そういうことならすぐに行ってきます」

ジェイは(姫の役に立てる…!)と思い、笑顔で頷く。

「頼むわよ、ジェイ。私はシロマとの話が終わったら『休養室』に行くから、そこで会いましょう」

「了解です!!」

…ていうかマヤリィ様。休養室に行くってことは後でまた寝るつもりなのでは??


「待たせたわね、シロマ、クラヴィス」

「とんでもございません、ご主人様」

第1会議室には既にシロマとクラヴィスが来ていた。

マヤリィは椅子に座ると、

「早速、話に入らせてもらうわね。なぜ貴女やタンザナイトのことをリッカ殿に紹介したか、それが気になっているのでしょう?」

シロマの疑問を言い当てる。

「はっ。その通りにございます」

「結論から言うと、私はリッカ殿を配下に迎えたいと思っているの。彼女はもう王宮に戻るつもりはないようだから」

「えっ…」

驚く二人に、マヤリィは説明を続ける。

「以前、クラヴィスが予想していた通り、リッカ殿は長い間離宮で暮らしていたらしいの。けれど、ヒカル殿を心配して王宮に戻ってきたと言っていたわ」

「そうだったのですか。だから陛下に対して口煩く…というか何と言うか…」

クラヴィスはリッカとヒカルの会話を思い出す。

「ええ。ヒカル殿の補佐をしたくて離宮から出てきたはいいものの、国王の周りにはシャドーレをはじめ有能な者達が揃っていた。それに、リッカ殿が王都から遠ざかっている間に時代は変わり、結局ヒカル殿の役に立つことは出来ないと気付いてしまった。それで、離宮に戻ることになったのよ」

「そういうことでございましたか…」

クラヴィスは(気の毒な話だ…)と思うが、ヒカルとの関係がいまいちだったことを考えると、離宮に戻った方が良いのかもしれないと思った。

「都にいる間、私はリッカ殿と実戦…というか魔力を測っていただけで、その後の話し相手になっていたのはルーリよ。私は二人の会話を聞いて、リッカ殿を流転の國に連れて帰ろうと思ったの」

マヤリィはその時のことも説明する。

帰り際になって突然、レイン離宮に戻る前に流転の國に来る気はないかとリッカに提案したのだ。

「ルーリのお陰で彼女の人柄も分かったし、氷系統魔術の適性を持つ貴重な人物をそう簡単に逃すわけにはいかないわ」

マヤリィがそう言うと、

「畏れながら、ご主人様。リッカ様は離宮暮らしとはいえ桜色の都の王族でございますよね?この先、再び王宮に戻る可能性はないのでしょうか…?」

シロマは心配そうに訊ねる。ついでに一言余計に付け加えてしまう。

「それに、ナイト様の実力は機密事項にあたるのでは…?」

「分かっていたのね、シロマ…」

「申し訳ございません、ご主人様。出過ぎたことを口にしてしまいました」

「いえ、貴女の言ったことは正しいわ。今現在、我が國が秘匿すべきはタンザナイトの魔力よ。以前都へ行った時よりも格段に強くなっているもの」

マヤリィは言う。

「今はまだ明言していないけれど、ルーリを『国家機密』から外し桜色の都に連れて行ったのも、流転の國にタンザナイトという存在があるから。『女王の切り札』は二枚も必要ないのよ」

長らく『マヤリィの切り札』と呼ばれてきた実力者ルーリ。だが、シロマも感じている通り、タンザナイトはルーリを超えた。

「まぁ、流転の國の方針の変更に関してはまた改めて説明するとして、話を戻すわ。…リッカ殿はもう王宮には戻らないでしょうね」

「畏れながら、マヤリィ様。何ゆえ、そう言いきれるのでございますか…?」

クラヴィスがおずおずと訊ねる。

「それは、氷系統魔術師が国に必要とされていないからよ」

マヤリィは言う。

「ヒカル殿の改革の一環として、今の桜色の都は稀有な魔術適性を持つ者ではなく、黒魔術師を優遇して積極的に育てている。…聞くところによれば、近々『クロス』の第二部隊を作るらしいわ」

悪竜種の侵攻やゴーレムの暴走など、ヒカルが即位してからたびたび都は危機に陥っている。悪竜種の一件では都の『守護者』である流転の國が介入したことによって犠牲者を出さずに済んだが、ゴーレムが暴走した際は肝心のマヤリィが行方不明だったし国交断絶状態にあったので『クロス』だけが頼りだった。結局、都に戻っていたシャドーレのお陰でゴーレムは全て討伐されたが、当時『クロス』の隊長を務めていたダークが殉職し、ヒカルは攻撃魔法の適性を持たない己の無力さを痛感したという。

そういった出来事を経て、ヒカルは桜色の都の改革の一環として、黒魔術師養成学校を積極的に支援している。都には圧倒的に白魔術師が多いが、次に多いのが黒魔術師である為、将来的に『クロス』で活躍出来る人材を集め育てているところである。

「つまり、どんなに強大な魔力を持っていようと、魔術師部隊に属せないリッカ様はそのお力を活かせないということなのですね」

「ええ。手当たり次第に攻撃魔法使役者を動員したという『天界との戦』の頃とは違うの。今の桜色の都は白か黒。それ以外の魔術適性を活かす余裕なんてないのよ」

そんなわけでレイン離宮に戻ると決めたリッカだが、彼女とて氷系統魔術を使う機会があれば使いたいと思っている。それに、自分自身の適性に限らず、魔術そのものが好きなのだ。

「…けれど、流転の國は違う。私ならリッカ殿の強大な魔力を持て余すことなんてしないわ」

今日のマヤリィはいつになく女王様っぽい。

…いや、いつでも女王様なんだけど。

「これはリッカ殿にとっても悪い話ではないはずだし、貴方達もそのつもりでいて頂戴。私の話は以上よ」

「はっ!畏まりました!!」

二人に全ての話を聞かせたマヤリィは、他に聞きたいことがないかを確認すると、改めて自由時間を言い渡して転移していった。

「シロマ…。私は今リッカ様のことよりも、流転の國の機密事項が気になって仕方ないのですが…」

マヤリィが転移した後、クラヴィスは真っ先にそう言った。

「つまり、タンザナイト様はルーリ様を超えたということですか…?」

魔力を持たないクラヴィスにはその実感がないらしい。

この間の実戦訓練は引き分けだったのに、マヤリィ様はいつルーリ様を『国家機密』から外そうと決めたのだろうか。

そんな疑問を持つクラヴィスにシロマは言う。

「はい。これから流転の國の『国家機密』となるのは『タンザナイト様の魔力』でしょうね…」

既に『タンザナイト』という存在は、桜色の都のヒカル王やシャドーレに知られている。

しかし、彼女の魔力が日に日に強くなっていることは誰も知らない。

「女王の切り札は二枚も必要ない」と言ったり「氷系統魔術師が国に必要とされていない」と言ったり、今回は厳しいお言葉が多かったマヤリィ様です。


流転の國の『国家機密』について「今はまだ明言していない」「流転の國の方針の変更に関してはまた改めて説明する」などと言っていますが、マヤリィが皆の前でこの話をすることはないと思います。

…長らく翻弄してきたルーリの手前、言えるわけがない。

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