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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第75話 目論見

次の日の午後、皆が玉座の間に集まった。

「皆、昨日はご苦労でした。私が留守の間、流転の國を守ってくれてありがとう」

「はっ!勿体ないお言葉にございます、マヤリィ様…!」

女王マヤリィの前に跪いた配下達は一斉に頭を下げる。

「今日は皆にお客様を紹介するわ。桜色の都の王女にして氷系統魔術師のリッカ殿よ」

マヤリィはそう言うとリッカに目配せする。

リッカは頷いて、立ち上がる。

「只今、ご紹介にあずかりましたリッカと申します。先日は突然の書状を失礼致しました。此度はマヤリィ様のお言葉に甘えまして流転の國にお邪魔させて頂くことになりました。皆様にお会い出来て大変光栄に存じます」

緊張した面持ちで挨拶するリッカ。その言葉に一番先に答えたのはジェイだった。

「リッカ様、流転の國へようこそお越し下さいました。再びお目にかかれましたこと、とても嬉しく思っております」

次に、クラヴィスが言う。

「リッカ様、先だっては興味深いお話を聞かせて下さり、ありがとうございました。貴女様の使い魔殿はなかなかの迫力にございましたよ」

前に都で会った二人に歓迎され、リッカは安堵の表情を浮かべた。

そして、マヤリィがシロマを紹介する。

「こちらは我が國が誇る最上位白魔術師、シロマ・ウィーグラー。強大な魔力を秘めた二つの魔術具を自在に操る私の自慢の配下よ」

(ご主人様…!)

シロマはマヤリィの紹介文に感動して泣きそうになるが、ご主人様の名に恥じぬ立派な挨拶をしようと意気込んだ。

「初めまして。只今ご紹介頂いたシロマ・ウィーグラーと申します。畏れ多くもご主人様より最上位とのお言葉を賜りましたが、私自身、白魔術の発動には自信がございます。回復魔法が必要な折にはいつでもお申し付け下さいませ」

優しげな微笑みをたたえながら、シロマの声は威厳に満ちていた。

(シロマ様、素敵です…!)

(まさかシロマが…白魔術師大国である桜色の都の王族相手にこんな挨拶をするなんて…!)

(素晴らしい挨拶だな。それでこそマヤリィ様の配下に相応しい)

(さすがはシロマ。姫がハードルを上げたにもかかわらずこんなに堂々とした挨拶が出来るんだね…!)

皆は内心、シロマに拍手を送りたいと思った。

一方、シロマの気迫に圧倒されたリッカは、

「はい…!よろしくお願い申し上げます…!」

そう答えるのが精一杯だった。


その後、マヤリィは皆を連れて訓練所に『転移』する。

「私は少し席を外すから、ここを好きに使って実戦訓練でも何でもしていて頂戴。…勿論、互いに魔術を披露し合うのも有りよ」

「はっ。畏まりました、マヤリィ様」

ルーリが皆を代表して女王の命令に答える。

「それと、一応言っておくわ。訓練所を壊すような魔術は使わないで頂戴。…いいわね?」

「はっ!」

皆は当然のように返事をするが、リッカは戸惑っていた。

(この訓練所にはかなり強力な結界が張られているように感じるが…壊さないよう注意しなければならないほど強い魔術を使えると言うのか!?)

「…ルーリ。貴女は特に気を付けなさい」

「はっ。本日はシロマの手を煩わせることのないよう、殺人級魔術は控えさせて頂きます」

「ええ、そうして頂戴。…では、私が戻るまで有意義な時間を過ごしなさいね」

「はっ!」

(ル、ルーリ殿の殺人級魔術…って何だ!?)

リッカは実戦訓練をせずに逃げたくなった。

しかし、皆は自分に注目している。…特にタンザナイトが。

「畏れながら、リッカ様。僕の相手になって頂けないでしょうか?」

「えっ…」

「ぜひ貴女様の氷系統魔術を拝見したいのです。…あ、本気を出すことは致しませんのでご心配なく」

相変わらず淡々と話すタンザナイトだが、そろそろ皆も慣れてきている。

しかし、ルーリは心配そうに言う。

「おい、タンザナイト。本当に大丈夫か?訓練所を壊したらマヤリィ様からお叱りを受けるぞ?」

「大丈夫です。『Lv.5』を使うつもりはありませんから」

「…。『Lv.3』にしておけ」

ルーリは頭が痛くなる。興味深い氷系統魔術師を前に、タンザナイトはやる気満々だ。

(…成程。タンザナイト殿が格下と名乗ったのはこういうわけか)

ルーリとナイトの会話を聞いたリッカは納得する。

流転の國の最年長と最年少。…それにしては言葉遣いが違うだけで対等に見える気がしなくもないが。

「…リッカ様。タンザナイトは書物解析魔術を司る『書物の魔術師』にございます。こう見えて、私と同等の魔力を持っております。念の為『無感覚』魔術をかけさせて頂きますので…彼女の相手をお願い出来ますか?」

ルーリは仕方なくリッカに頼み込む。

「ル、ルーリ殿。その前に、無感覚魔術とは何かを教えてくれまいか…?」

「畏れながら、リッカ様。その名の通り、どんなに大きなダメージを受けても全く痛みを感じなくなる白魔術にございます。本来、実戦訓練では相手を戦闘不能にするまで戦うというルールがありますので、このような魔術が必要になるのです」

ルーリの代わりにシロマが説明する。

「戦闘不能…?攻撃魔法でか…?」

思わず普段の口調になるリッカ。

「はい。先日のルーリ様とタンザナイト様の実戦訓練は、それはもう熾烈な戦いにございました」

「えっ…」

「そうなのです。僕は危うく右腕を失くすところでした。シロマ様のお陰でこうして回復することが出来ましたが」

「えっ…」

「…タンザナイト、あの時は本当に悪かったよ」

「いえ、ルーリ様のTバックに動揺した僕がいけないんです」

「おい、詳しく説明しようとするな」

無感覚魔術のあたりからリッカの身体は震えていた。

(レベルが違いすぎて話に付いていけない…)

そこへ、

「皆、とりあえず落ち着いて。リッカ様を困らせるようなこと言わないでよ」

ジェイがリッカの様子を見て助け舟を出す。

「…タンザナイト、実戦は無しだ。代わりに、リッカ様に氷系統魔術を披露して頂くことにしよう。当然、その後は君の魔術も見せてもらう。…これでよろしいでしょうか?」

リッカはジェイの言葉を聞いてゆっくりと頷いた。

「承知した。…恐らく私の魔術ではこの訓練所を破壊することは出来ぬゆえ、安心してくれ」

そして、皆は離れた場所からリッカの氷系統魔術を見ることになった。

「あれが『スノーレイピア』…!」

タンザナイトが真顔でリッカの魔術具を注視する。

「…お前、もしかして感動しているのか?」

「はい、勿論です」

「そうは見えないが…まぁいつものことだな」

全く感情が顔に出ないタンザナイトだが、リッカの魔術を楽しみにしていたのは本当らしい。

(タンザナイト様…相変わらずですね)

隣に座っているシロマは彼女のポーカーフェイスを見て、なぜか安心していた。

(ルーリやタンザナイトが別格なだけで、リッカ様も相当な実力を有している。僕の『鑑定』が正しければシャドーレと同程度の魔力を持っているはずだ)

ジェイは初めて会った時のことを思い出しながら、訓練所の中央に立つリッカを見ていた。

(リッカ様、そのお姿もお美しいです…!)

クラヴィスはこんな調子である。

今日のリッカは先ほどマヤリィから渡されたプレートアーマーを身に付けていた。

(緊張するが…流転の國の皆様を失望させるわけにはいかないな)

リッカは気を引き締め、スノーレイピアを握ると、一気に魔力を解放した。

そして発動された氷系統魔術の数々は、ジェイの見立て通りシャドーレに匹敵するほどの強さを持っていた。…もし彼女の適性が黒魔術だったら間違いなく『クロス』を率いる存在になっていただろう。氷系統という珍しい適性持ちのせいで持て余されているだけだ。

(マヤリィ様がご覧になっていたらますますリッカ様を配下に迎えたいと思われただろうな…。っていうか、マヤリィ様は今何をなさっているのだろう?)

ルーリは『少し席を外す』と言って転移したきり戻ってこないマヤリィが心配になった。

ちょうどその時、

《こちらマヤリィ。頃合いを見計らって自由時間にするよう皆に伝えて頂戴》

タイミング良くマヤリィから『念話』が来た。

《こちらルーリにございます。マヤリィ様、今どちらにいらっしゃるのですか?》

《自分の部屋よ。もう少し寝たいから後はよろしく頼むわ》

席を外す=部屋で寝てくる、という意味だったらしい。

《あと、せっかくだからリッカ殿をカフェテラスにでも連れて行ってあげなさい。しばらく流転の國に滞在しても構わないと伝えて欲しいの》

《はっ。畏まりました、マヤリィ様》

ルーリはマヤリィの思惑が分かっているので、期待に応えられるような行動を取ろうと思った。

《頼りにしているわよ、ルーリ》

《はっ!》

そこで念話は途切れた。

気付くと、タンザナイトが先ほどの魔術についてリッカと話をしている。

(あれが落ち着いたら、マヤリィ様のお言葉を伝えるとするか)

ルーリがそう思っていると、

《…ルーリ。姫は何て言ってたの?》

隣に座っているジェイが念話を送ってきた。

何を話していたかは分からないが、ルーリが念話を受けたことくらいは感じ取れる。

《お前にだから話しておくが、実は……》

ルーリは、マヤリィがリッカを配下にしたいと思っていることをジェイに話した。

《…成程ね。だから皆を紹介したり訓練所に連れてきたりしたっていうわけか》

ジェイは特に驚かなかった。

《姫は、リッカ様がもう王宮とは連絡を取らないことを分かってるんだ。そうでなければ、隠しておきたいはずのタンザナイトを会わせたりはしないだろうね》

確かに、桜色の都ではよそゆき顔を作って自分のことを『わたくし』と言っていたタンザナイトが、流転の國に来たリッカには普段の調子で話しかけている。

《そうか。だからリッカ様が流転の國に留まろうとレイン離宮に戻ろうと、こちらの情報を明かしているわけだな》

ルーリは納得すると、この後の予定についてジェイに話した。

《私はマヤリィ様のご命令通り、リッカ様をカフェテラスに案内する。他の皆は自由時間だが、お前は…》

《うん。僕は姫が心配だから様子を見てくる。たぶん、大丈夫だとは思うけどね》

ジェイはルーリを安心させるように言う。

それを聞いたルーリは頷くと、皆にマヤリィの言葉を伝えるのだった。

疲れが取れないマヤリィ様は席を外すと言って自分の部屋に戻り寝ていました。

精神病や過労だけでなく、虚弱体質も白魔術では治らないようです。


今や王宮とは接点がなくなったに等しいリッカを流転の國に引き入れようとするマヤリィ。

彼女と仲良くなったルーリを使って、少しでも長く滞在させようとしています。


そして久々に出てきたシロマのフルネーム。

挨拶を聞いて(シロマ様、素敵です…!)と思っているあたり、実戦訓練の一件以来、タンザナイトは密かにシロマを尊敬しています。

…勿論、顔には出しませんが。

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