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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第67話 短期決戦

「私は今日こそお前を泣かせてみせる」

「今のお言葉、そのままお返ししますよ」

流転の國のNo.2にして最年長のルーリさん(51)と格下のホムンクルス・タンザナイト嬢(19)の会話。

「タンザナイト、先に言っておかなければならないことがあったわ。実戦訓練の際は白魔術を使わないで頂戴。それと…」

あくまで攻撃魔法で競う実戦訓練なので、当然白魔術の使用は認められない。

(それと…?マヤリィ様は他にもタンザナイトに言っておくことがあるのか?)

途中までしか聞けなかったルーリは不思議に思う。

(『書物の魔術師』には色々と制限が課されるのだろうか…?)

その頃、一回戦見学のジェイはクラヴィスを審判席に案内していた。

「クラヴィス、君の席はここだ。見てるだけでいいから」

「畏まりました、ジェイ様。失礼致します」

最終的には、回復役のシロマ、審判のマヤリィ、ジェイ、クラヴィスの順で席についた。

「準備は整ったみたいね…」

『無感覚』魔術をかけられた二人は広い訓練所の中で距離を取り、タンザナイトは『流転の羅針盤』を、ルーリは『流転の閃光』を発動する。

「タンザナイト、私は今日こそお前を泣かせてみせる」

「今のお言葉、そのままルーリ様にお返ししますよ」

二人は挨拶代わりに言葉を交わす。

そして、マヤリィの合図で実戦訓練は始まった。


「『複合魔術 Lv.4』発動せよ」

タンザナイトがそう言った瞬間、巨大な魔法陣が出現する。

「6属性だと…?」

羅針盤を手にしたナイトと、その周囲を取り囲むように浮かんでいる六冊の魔術書。

ミノリでさえ使えなかったレベルの複合魔術がルーリに迫る。

「っ…『シールド』!!」

跳ね返す余裕もなく、シールドを張ってやり過ごすルーリ。

(危なっ…割れるところだった…)

渾身のシールドに罅を入れるほどの威力にルーリは驚くが、そう簡単に『流転の國のNo.2』が負けるはずもなく。

「『霹靂閃電』!『強化』せよ!!」

即座に雷系統魔術を打ち込む。

「『反撃』『最大強化』」

タンザナイトがそう言うと、威力を増した『霹靂閃電』が跳ね返ってくる。

しかし『流転の閃光』がある限り、ルーリに雷系統魔術は効かない…が。

「私としたことが、油断してしまったな」

自分の魔術だからとそのまま反撃を受けた結果、ルーリは無事だがドレスが崩れかかっている。

「…姫、どうするんですか?」

「どうって、何が?」

「何が?じゃないんですよ。ルーリの服です」

審判席ではなぜかジェイが焦っていた。

「着替える時間が必要なのでは…?『魅惑』が使えない以上、一瞬で服を替える魔術も発動出来ないですよ?」

普段なら一瞬で着替えられるルーリだが、魅惑封印の今はそれも使えない。

「大丈夫よ。…まだ布は余っているもの」

マヤリィはルーリの様子を見て、戦いを止めることはしなかった。

「ルーリ様…」

この状況では、さすがのタンザナイトもどうして良いか分からない。物凄く攻撃しづらい。

本来は雷の渦を巻き付けても破れないほど丈夫なルーリのドレスだが、反撃によって威力を増した霹靂閃電魔術には耐えられなかったらしい。

(女王様は何もおっしゃらない。ということは、このまま継続すべきということか)

タンザナイトが逡巡していると、ルーリは驚くべき行動に出る。

「ルーリ様…!?」

ボロボロになったドレスを脱ぎ捨て、ベビードールにTバックというスタイルになったルーリ。ドレスが盾になったお陰で下着には傷一つ付いていなかった。

(ルーリ様、戦いに集中出来なくなります…!)

普段は見られないルーリの姿に圧倒されるクラヴィス。全身真っ白な卵肌。すらりと伸びた長い手足。豊満な胸の谷間と美しいヒップラインが悩ましい。

しかし、タンザナイトはこういうのが苦手である。

「魅惑は封印されているが、下着にまで制限がかかっているわけではないのでな」

ルーリはそう言うと、不敵な微笑みを浮かべてナイトに迫る。

「『迅雷一閃』!!」

近距離で放たれた一点集中型の殺人級魔術。

当然ナイトはシールドを張るはずだったが、魔術に集中する余裕はなく、間一髪で『迅雷』を避けた。…かと思いきや、

「はぁ…『無感覚』で良かったですよ、本当に」

僅かに避けきれず、右腕が吹き飛んでいた。

「シロマ様、申し訳ないですが後で『完全治癒』をお願いしますね」

それでも、ナイトは冷静である。

「タンザナイト様!無理はしないで下さい!!」

以前、バラバラになったネクロの身体を繋げた時のことを思い出してしまったシロマは、泣きそうになりながら叫ぶ(vol.7)。

その時、

「少しの間そこから動かないで頂戴」

マヤリィが指を鳴らし、二人の動きを止める。

そしてタンザナイトの腕を回収すると、再び審判席に戻った。

それを見たシロマは、

「大丈夫です…!必ず貴女を元通りにしますから…!」

『ダイヤモンドロック』を握りしめ、そっと涙を流すのだった。

「それにしても、ルーリ様の必殺技は恐ろしいですね…。このままだと出血多量で倒れそうですし、早いところ決着をつけましょう」

『無感覚』魔術がかけられているので痛みは感じないが、出血が止まらない。

タンザナイトは白い服を真っ赤にしながら、羅針盤を呼び寄せ、決死の複合魔術を放つ。

「流転の羅針盤よ、我に力を与え給え。…『複合魔術 Lv.5』発動せよ」

(これを防がれたら…僕の負けだ……)

大量出血のせいで意識は朦朧としている。その上、最上位魔術の発動によって魔力消費も激しい。

一方のルーリは、

(まさか7属性…!?そんなの無詠唱のシールドで防げるわけねぇ!!)

より強力なシールドを発動するにはルーリでも詠唱が必要となる。しかし、そんな時間はない。恐らくは反撃も無効だろう。

残るは雷系統魔術で跳ね返すしかない。

(これで防げなかったら…私の負けだな……)

既に発動された特大魔法を前にして、ルーリは残りの魔力全てを『閃光』に注ぎ込む。

そして、次の瞬間。

真っ向からぶつかった二つの魔術は連なり重なり合い、相殺されるどころかその威力は増していく。

(まずいな…崩れそうだ)

ジェイは凄まじい魔力を感じながら訓練所の身を案じる。

(…そろそろ限界かしら。これ以上続けたら訓練所が壊れるわね)

強固な結界を張った訓練所すら壊しかねない魔力。限界を感じたマヤリィは立ち上がり、指を鳴らす。

「『シャットダウン』」

直後、二人の魔術は解除され、同時にルーリとタンザナイトはその場に倒れ込む。

「負けて…たまるか…」

「僕は…貴女を超えたい…」

かろうじて意識を保っていた二人だが、もう魔術を発動することは出来なかった。

「そこまでよ!」

二人が意識を失った瞬間、マヤリィが叫ぶ。

「…どっちが先でした?」

先に戦闘不能になった方が負けというルール。だが、どちらが先だったかはマヤリィにも分からない。

「今回は引き分けとしましょう。シロマ、すぐにナイトの治療を頼むわ!」

「はい!!」

マヤリィは素早く判定を下すと、切羽詰まった声でシロマに命じる。

「私は…ルーリに『全回復』を……」

そう言ったきり、マヤリィは膝をついた。

動悸がする。眩暈がする。息が苦しい…。

「マヤリィ様!!失礼致します!!」

倒れる寸前のマヤリィの身体を受け止めたのはクラヴィスだった。

「悪いわね…クラヴィス」

必死な表情で自分を支えるクラヴィスを見て、マヤリィは力なく微笑みながら、宝玉を取り出す。

「これは『全回復』の宝玉よ…。ルーリを、お願い…」

「はっ!畏まりました!」

「クラヴィス、マヤリィ様をこちらに!」

ジェイはそう言ってマヤリィを抱き上げる。

いつから調子が悪かったのか、顔が真っ青になっている。

「姫、気付くのが遅れてすみませんでした」

「隠していたんだもの…仕方ないわ…」

相変わらずマヤリィは自分の不調を隠すのが巧い。

「ジェイ、皆に伝えて頂戴…。今日の訓練は、ここまでよ。評価は…明日にするわね…」

やっとの思いでジェイに告げると、マヤリィは気を失った。

「畏まりました、マヤリィ様…」

ジェイは側近の顔で返事をすると、クラヴィスに『念話』を送る。

《クラヴィス、治療が終わったら皆に伝えて欲しい。今日の訓練はここで終わりにして自由時間にするようにと。評価については明日マヤリィ様が説明されるとのことだ》

《はっ。畏まりました、ジェイ様》

クラヴィスはそう答えると、ルーリが目覚めるのを待った。そして、シロマの方を見る。

(タンザナイト様は…大丈夫なのだろうか…)

ナイトを包む眩い治癒の光はしばらく止みそうにない。

タンザナイトの複合魔術

Lv.2…4属性(ルーリとの初の実戦訓練で発動)

Lv.3…5属性(桜色の都でヒカル王に披露した)

Lv.4…6属性(今回、初手で発動)

Lv.5…7属性(現在のナイトの限界)


Lv.0(2属性)から数え始めているのでこういう表記になります。

タンザナイトの基準では3属性以上が複合魔術です。

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