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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第65話 禁術『直接転移』

「あの御方の力をもってしても出来ないことがこの世にはあるんだな…」

ジェイの言葉を聞いたルーリはそう言ったきり俯いて黙り込む。

「僕も驚いたけど…姫は必ず解呪の方法を見つけ出してくれるって言ってたし、そろそろ立ち直ってよ。現状、魅惑を使えなくても特に問題はないんでしょ?」

「ああ。特に問題はないが…」

「なら、姫を信じて待つしかないね」

ジェイはマヤリィの言葉を信じきっている。

「…そうだな。私はあまり魔術書を探すのが得意ではないし、大変畏れ多いことだがここはマヤリィ様に甘えさせて頂くとしよう」

ルーリも伝えられた言葉を信じきっている。

「っていうか、最近のルーリは姫に甘えすぎだよね。姫が甘やかしすぎてるとも言えるけど、調子に乗ってまた何かやらかしたら本当に許さないよ?」

ジェイさん、個人的な恨み言が漏れてきましたね。

「すまない…。お前にまで迷惑をかけて、私は配下失格だな…」

ルーリはそう言って頭を下げる。

「…ジェイ。今だから言うが、私が浮気していたのはラピスラズリ一人じゃないんだ。実は…シロマにも手を出した」

「うん、知ってる」

「っ…!?」

思いきって白状したのに、ジェイに即答されて絶句するルーリ。

「君がシロマに向かって魅惑を発動した時、姫と僕は玉座の間で話をしていた。…何も君の魔力を辿っていたわけじゃない。姫が無意識下で発動している『魔力探知』に魅惑魔法が引っかかってしまったんだよ」

あの時、マヤリィは魔力探知をオフにしておきたいとまで悩んだが、無意識下で常時発動しているそれが流転の國の危機を知らせたこともある為、そのままにしておくことを決めたのだ。

「そんな…!それならなぜマヤリィ様は私を追及なさらないんだ…?」

「いちいちサキュバスの『浮気』を問い詰めてたらきりがないからじゃない?」

「っ…」

「ていうか、君の浮気は今に始まったことじゃないし。…僕が言うのもなんだけどさ」

「…………」

「あ、第7会議室で僕が君を抱いた件に関しては何も言ってないよ。あの日は『魅惑』を使ったわけじゃないから、今も姫は気付いてない」

「…ということは、お前の『浮気』についてはマヤリィ様はご存知ないんだな」

「うん。知らないと思う」

堂々と答えるジェイを見て、ルーリは少し悔しくなる。

そして、脅すように言う。

「お前が私を抱いたと知ったら、マヤリィ様はどう思われるだろうな?」

「さぁ?それは分からない。…あの日のこと、姫に白状するの?」

「白状すると言ったらどうする?」

「したいならすれば?その時は一緒に姫に謝ろう」

ジェイは冷たい眼差しをルーリに向ける。

「でも、僕がルーリを抱いたなんて知ったら、マヤリィ様はさらに苦しまれるだろうね」

「っ…!」

「君がどうしてもマヤリィ様に打ち明けるって言うなら僕も覚悟を決めるよ。…だけど、その後は誰がマヤリィ様をフォローしてくれるのかな?」

魅惑を使った痕跡がないということはジェイがルーリを抱いたということ。さらに魅惑を使わなければ魔力探知には引っかからない。…マヤリィから見れば、自分の目を盗んで行われた情事以外の何物でもないだろう。

ただでさえラピスの件で悩ませてしまったというのに、これではマヤリィにとどめをさすようなものだ。

「仕方ありませんね。その時は僕が女王様を癒やして差し上げることにしますよ」

「タ、タンザナイト…!?」

「いつの間に…!?」

突然その場に現れたタンザナイトに驚愕する側近二人。

「先ほど『ジェイがなかなか戻ってこないから第7会議室まで行ってきてくれるかしら?』と女王様から念話を受けて参上したのですが、こちらに転移した瞬間にお二人の浮気の話が始まってしまい、ついうっかり『透明化』してしまったというわけです。…盗み聞きするような形になったことはお詫びします。今のお話は聞かなかったことにしますのでご心配なく」

彼女はいつもと変わりない真顔で淡々と言う。

「ちょっと待て。二人の浮気っていうのは…ジェイと私のことか?」

「はい。そのことを女王様が知られたらさぞかし悲しまれるでしょうね。…ですが、どうしてもお二人が白状したいとおっしゃるなら、その後は僕が女王様を癒やして差し上げますよ」

「いや、誰も打ち明けるとは言ってないぞ」

「そうでしたか?『白状すると言ったらどうする?』というルーリ様の脅しのようなお言葉を確かに聞いたのですが」

「…お前、聞かなかったことにするって言わなかったか?」

「今すぐに、とは言ってません」

あくまでポーカーフェイスのタンザナイトに翻弄されるルーリ。

それを聞いていたジェイは思わず笑ってしまう。

「おい、笑っている場合か?」

「だって、完全にルーリが気圧されてて…面白いなって」

「他人事すぎるだろう。これはお前と私の問題なんだが?」

「だから、言わなきゃいいことでしょ?どうしてもルーリがマヤリィ様に追い討ちをかけるって言うなら一緒に謝るけどさ」

「ルーリ様、見損ないました」

「…分かったよ。絶対に言わないから、それ以上私を責めないでくれ」

逆に追い討ちをかけられたルーリ。それでも、負け惜しみを言うだけの気力はあった。

「だが、これだけは言っておく。私はタンザナイトに手を出したことは一度もない」

「それって、偉そうに言うことかな?」

ジェイが呆れていると、タンザナイトはアイテムボックスから『流転の羅針盤』を取り出す。

「もしルーリ様が本気で僕を襲うとおっしゃるなら、こちらも然るべき手を打たなければなりませんね」

「だから、襲わないって!!」

「っていうか、今のルーリは『魅惑』を使えないから大丈夫だよ。…あ、言っちゃった」

「ルーリ様が魅惑を使えない…?」

他言無用のはずが、うっかりタンザナイトに言っちゃったジェイは(どうしよう…)と思う。

しかし、タンザナイトは察したらしく、

「ジェイ様。今のお言葉は聞かなかったことにしますのでご心配なく」

真顔でそう言った。

「…では、そろそろ女王様の所へ参りましょう。僕はその為にここに来たのですから」

「ああ、そうだったな…」

ルーリは焦るあまり引き留めてしまったことを反省する。

「タンザナイト、すまなかった。マヤリィ様によろしく伝えて欲しい」

「畏まりました、ルーリ様」

タンザナイトは一礼すると、転移の魔法陣を出現させた。

「今回に限り、女王様のお部屋への直接転移をお許し下さるとのことです」

《こちらタンザナイト。これより転移致します》

ナイトはマヤリィに念話を送ると、ジェイの手を取って初めての魔術を発動した。

「禁術『直接転移』発動せよ」

当然ながら女王であるマヤリィの部屋の中に直接『空間転移』することは認められていない。それに加えて、強固な結界が張られている為、許可を得た上での『直接転移』であっても禁術の領域に入るらしい。

勿論、これが許されたのは今回が初めてだ。

「あら、直接転移はうまくいったようね」

タンザナイトの念話を受けて魔法陣が現れるのを待っていたマヤリィは笑顔で二人を迎える。

そして、自分の部屋に戻ろうとするナイトを引き留め、夜まで会話を続けるのだった。

あの日、抱かれたいと言ったのはルーリ(第38話)。

ジェイは寂しがるルーリを見かねて、共に第2会議室へ行きました。


大人の事情を察して色々と聞かなかったことにするタンザナイトです。

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