第62話 ジェイの追及
「…姫、大丈夫ですか?」
次の日の朝、第7会議室に呼ばれたジェイは真っ先にマヤリィに駆け寄った。
「ジェイ……」
マヤリィはそれ以上何も言わずにジェイを抱きしめる。
「…ルーリ。昨日何があったの?」
ジェイは少し離れた所に立っているルーリを見る。彼女は少し気まずそうな顔をしていた。
「私が『魅惑』を使えない原因をマヤリィ様は特定して下さった…。しかし、本当は私が自分で気付かなければならなかったことだ。この一件でマヤリィ様をさらに悩ませてしまったかと思うと申し訳なくて…」
ルーリはジェイに説明すると、つらそうに俯いた。
まだ二人の関係は元通りになっていないようだ。
「…ごめんなさい、ルーリ。昨夜、私は貴女から無理に話を聞き出してしまったわ。『弔いの間』に関すること、本当は黙っておきたかったのでしょう?」
ラピスラズリの死を悼み、自らの髪を墓前に供えたルーリ。魅惑封印の真相を知る為とはいえ、全て話させてしまったことをマヤリィは申し訳なく思っている。
「とんでもございません、マヤリィ様…」
二人は互いに相手の気持ちを大切に思っているのに、なぜか二人とも悩み傷付いている。
ラピスとの度重なる性行為や彼女が死んだ後の出来事を振り返り、その全てがマヤリィを裏切る行動だったと後悔するルーリ。
ルーリに寂しい思いをさせ、言いたくなかったかもしれないラピスにまつわる全ての話を聞き出してしまったことに罪悪感を抱くマヤリィ。
二人は互いを愛し信じ合っているのに、なぜか二人とも悩み傷付いている。
黙り込むマヤリィとルーリ。
彼女達の様子を見かねて、ジェイがその場を仕切り始める。
「…とりあえず、魅惑が使えない理由が判明したということで良いですね?それに関しては後で僕も聞かせてもらいますが、今は第7会議室でこれから何をするか教えて下さい」
「ジェイ…。貴女に髪を切って欲しいの。いいかしら?」
マヤリィは可愛らしい声でそう告げると、甘えるような表情でジェイを見つめる。
(こんな時に不謹慎だけど…姫が可愛すぎる!!)
首を傾げる仕草といい、あざとい上目遣いといい、たぶん本人は無自覚なのだろうがジェイは思わず叫びたくなる。
(姫!どうして貴女はそんなに可愛いんですか!!)…と。
勿論、今はそんなことを言っている場合ではないので、懸命に真面目な顔を作る。
「分かりました、姫。今日はどんな感じにしましょうか?」
マヤリィを椅子に座らせ、カットクロスを巻き、ネックシャッターを用意しながらジェイが聞く。
「ツーブロックにしたいの。…サイドの髪を短く刈り上げて頂戴」
さすがに先日ルーリに整えてもらったばかりの後頭部は切らずにおくらしい。
しかし、女王様がツーブロックにするなんて…流転の國では特に珍しい光景ではありません。
「分かりました。何ミリでいきます?」
「3ミリ。…いえ、アタ無しにするわ」
(ア、アタッチメント無し…!?)
ルーリだってマヤリィの髪をツーブロックにしたことくらいある。けれど、いざその光景を見せられると戸惑ってしまう。
「範囲も広めにとってね。私、今凄くバリカンを感じたい気分だから」
「了解です、姫。そういうことなら、おもいっきりやっちゃいますよ」
「話が早くて助かるわ」
ジェイはマヤリィの髪を丁寧にブロッキングすると、バリカンを手に取る。
(そ、そんなに広く…?)
ルーリは呆然と立ち尽くしている。いくら髪で隠れるとはいえ、大胆なツーブロックに驚く。
「いきますよ、姫」
ジェイはそう言うと、サイドの髪を思いきりよく刈り上げていく。久しぶりのツーブロということもあり、新鮮さを感じる。
「ふふ、涼しくなってきたわ」
青々とした地肌を通り越して、白っぽくなった頭皮に風を感じるマヤリィ。
因みに、ジェイが手にしているバリカンはアタ無しで刈ると0.5ミリになる。
「気持ちいい…!早く触りたい…!」
バリカンで髪を刈られる快感に浸りつつ、マヤリィは刈り上げた部分を触りたいと思う。
「もう少しですよ」
ジェイは念入りにマヤリィの頭をバリカンで刈る。
愛する姫に喜んでもらいたい一心で、ジェイは手を動かした。
「姫、0.5ミリの感触はいかがですか?」
サイドがどうなっているかを鏡で見ながら、マヤリィは刈り上げ部分を触ってみる。
「ふふ、ザリザリしてる…。こんな風に刈り上げたのは久しぶりね」
マヤリィはそう言って微笑むと、
「ねぇ、貴方も触ってみて。…ううん、両手で撫でて欲しいわ」
撫で撫でを催促する。
「こうですか?0.5ミリの感触ってなかなか味わえないですよね…」
(よかった…。やっと姫が笑ってくれた)
マヤリィの嬉しそうな微笑みを見て、ジェイは安心する。
「ねぇ、ルーリ?そんな所に立っていないで傍に来て頂戴。…ほら、0.5ミリよ?」
そう言われてマヤリィの近くまで来たルーリは、その頭を見て驚く。
「ツ、ツーブロックとはいえ、大胆な刈り上げにございますね…。まるで剃ったように見えます…」
「ふふ、本当に剃っちゃおうかしら…」
「えっ!?」
「冗談よ」
そして、ブロッキングしていた髪を下ろすと、マヤリィは先ほどと変わりない姿に戻った。
ツーブロックの女王様は幾らか元気を取り戻し、ジェイに微笑みかけたかと思うとその唇にキスをする。
「ジェイ、ありがとう。お陰でさっぱりしたわ」
「姫…!貴女が喜んでくれて何よりです…!」
(ルーリの前なのに…いいのかな?)
と思いつつ、ジェイは嬉しかった。
(…私、ここにいていいのか?)
二人のキスシーンを間近で見てしまったルーリは困っていた。
マヤリィはそんなことなどお構いなしに、
「…では、私は部屋に戻るわね。急に眠くなっちゃったの」
既に瞳はとろんとしている。
「シャワーを浴びたら寝るわ。話が途中でごめんなさいね、ルーリ。『呪い』の件に関しては後で説明するわ」
「はっ、畏まりました。マヤリィ様のお手を煩わせて申し訳ございません」
ルーリはその場に跪き頭を下げる。
「…ジェイ。起きたら呼ぶから、私の部屋まで来て頂戴。今夜は一緒に寝ましょう?」
マヤリィ様、何時間眠る気ですか?
「分かりました、姫。貴女からの『念話』をお待ちしております」
ジェイは笑顔で答える。
(今夜は姫の部屋…♪♪♪)
内心、かなり浮かれている。
「では、後を頼むわね」
マヤリィはそう言い残して『転移』していった。
「…………」
残された二人は少し気まずい。
「…ジェイ、わた
「ルーリ。昨夜マヤリィ様と何を話したか、僕にも聞かせてもらえるよね?」
何か言いかけたルーリの言葉を遮って、ジェイが厳しい口調で訊ねる。たった今、姫を見送った時とは別人のようだ。
「君とはゆっくり話したいと思ってたんだ。僕達はマヤリィ様の側近という意味では同格。…だけど、君がマヤリィ様に対し罪深い行為を働いたというなら容赦はしない。心優しい女王様に代わって罪人を裁くだけだ」
「ジェイ……」
ルーリは今までになく険しい表情のジェイを前にして、身体が硬直した。その鋭い眼差しから目を逸らすことも出来ず、
「わ、分かった…」
ルーリは怖々と返事をする。
「昨日マヤリィ様とお話したことを全て話す。…だから、お前の判断で私を裁いてくれ。慈悲深い女王様に甘え続けている愚かな悪魔をな」
そう言うと、ルーリは昨夜の会話をジェイに話し始めた。
…心做しか、その声は震えている。
ようやくマヤリィが見せた微笑みで和んだ…かと思いきや、突然始まったジェイの厳しい追及。
『サスペンス劇場』に伴う罪に関してはマヤリィの『許し』によって終わりましたが、今回ルーリが魅惑が使えなくなったことに関してはまた別の事案。
共にマヤリィを支える関係であるからこそ、ジェイはルーリに厳しい言葉をかけます。




