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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第59話 王宮の美女

「こうしてジェイ様と私が桜色の都に来るのはティーメの一件以来ですね」

「そうだね。あの時の僕はマヤリィ様に『変化』していたけど…」

ティーメとは流転の國の配下の中で唯一桜色の都に『留学』した天使種の白魔術師だが、不幸にも留学先で魔力事故に遭い、命を落とした。その遺体を引き取る為に、彼女の保護者役を務めていたクラヴィスを連れて女王マヤリィが桜色の都まで来たのだが、その時は流転の國が危機に陥った直後ということもあり、女王本人は國に留まり、実際に都を訪れたのはマヤリィに完璧に『変化』したジェイだった(vol.6)。


「ジェイ殿、クラヴィス殿、よく来てくれましたね」

都に着くと、いつものようにヒカル王自ら出迎えてくれた。

「ジェイ殿、お久しぶりです」

「ご無沙汰しております、陛下」

クラヴィスにとってはもはや見慣れた王宮だが、見慣れた人物が見当たらない。

「畏れながら、陛下。本日はシャドーレ様はいらっしゃらないのですか?」

クラヴィスが聞く。

「はい。今日は砂漠で保護した子供達の施設を訪問しておりまして…。数名の『クロス』の者と共に今朝出発したところなのです」

砂漠で保護した子供達とは、以前『巨竜種』と呼ばれるドラゴンに救われた捨て子のことで、今は国が管理する施設で暮らしている。しかし、その場所は国王をはじめ桜色の都の中でもごく一部の者しか知らない。

「そこで、彼女の代わりと言ってはなんですが、今日はこの者に同席してもらうことにしました」

そう言って、ヒカル王は後ろに控えていた男性を紹介する。

「彼はウィリアム・レイヴンズクロフト公爵。黒魔術師部隊の隊長を務めているのですよ」

「初めまして、ジェイ様。只今ご紹介にあずかりましたウィリアムと申します」

彼は恭しくお辞儀する。

「ジェイ様は女王陛下の側近でいらっしゃると伺いました。本日はお会い出来て大変光栄にございます」

「初めまして、ウィリアム殿。貴方がシャドーレ殿の旦那様なのですね」

彼女が結婚したことは前に本人から聞いて知っている。

「はい。いつも妻がお世話になっております。今朝、急に施設から『クロス』の特別顧問あてに要請が入った為に本日の懇親会に同席出来なかったのですが…。流転の國の方々にお会いしたかったと言って、とても残念そうにしておりました」

「…そうでしたか。私もシャドーレ殿にお会い出来ず寂しく思います。お帰りになられたらよろしくお伝え下さい」

「はい。今夜はジェイ様と直接お話したことを自慢するつもりでおります」

ウィリアムはそう言って微笑む。

(今までは実感が湧かなかったけど、こうして旦那様の顔を見ると、シャドーレも『妻』になったんだな…)

優しそうな顔をした長身の美男子を見て、その隣に並んでいるシャドーレを想像すると、ジェイは感慨深かった。

「実はもう一人紹介しなければならないのですが…後にしましょう」

握手を交わすジェイとウィリアムの横で、ヒカル王は独り言のように呟いた。


桜色の都のヒカル王とウィリアム隊長。

流転の國のジェイとクラヴィス。

珍しく男性ばかりが集まって、懇親会が始まった。

しかし、ジェイとクラヴィスにとって今日は単なる懇親会ではなく、人造人間の『彼女』がもう存在しないことをそれとなく伝える為の任務だった。

が、早々にジェイが「再び流転の國から『異世界転移』していった人物がおりまして…」と話し始めた為、任務自体は速やかに完了した。とはいえ、交流を疎かにするわけにもいかず、二人はヒカル王やウィリアムとの会話を続ける。

(それにしても華がないな…。シャドーレは常に華やかさ満開の女性だから、こっちは男二人でもいいと姫は思ったのかもしれないけど…)

実際、マヤリィの人選は消去法だった。シロマに外交は向いていないし、ルーリは『国家機密』だし、今回のタンザナイトは敢えて待機させるつもりだったし…。

(こうして考えると、ミノリは外交面でも活躍してたんだな…)

ジェイは流転の國から別の世界へと『異世界転移』したミノリを思い出す。ミノリは『流転の國の使者』として初めて桜色の都を訪れた人物でもある。

と、そこへドアを叩く音がした。

「ヒカル、私だ」

女性の声だ。

彼女は確かに国王を『ヒカル』と呼び捨てにした。

《誰だろう?ヒカル様の母上かな?》

《いえ、陛下の母上様は既に亡くなっていらっしゃると伺っております》

不思議に思ってジェイとクラヴィスが『念話』しているうちにドアが開いた。

その瞬間、部屋の雰囲気が変わった。華のある人物が登場したのだ。


「流転の國の使者殿がいらしたら私に伝えろと言っていたではないか。侍従はどこにいる?…全く、今の王宮にいる者は当てにならないな」

入ってくるなりヒカルに小言を言うと、彼女はジェイとクラヴィスを見て、挨拶をする。

「話の邪魔をして申し訳ない。私は桜色の都の魔術師リッカ。ここにいるヒカルの叔母だ。…流転の國の使者殿、改めて桜色の都へようこそ」

そう言ってリッカという名の彼女は美しい笑みを見せる。

「お初にお目にかかります、リッカ様…!私は流転の國のクラヴィスと申します。お会い出来て光栄にございます...!」

クラヴィスは緊張しながら挨拶する。

「リッカ様、初めまして。私はジェイと申します。流転の國の女王の側近にして、風を司る魔術師にございます。どうぞよろしくお願い致します」

こういう時のジェイはなかなかに凛々しい。マヤリィに見せたいくらいカッコいい。

「ああ。こちらこそよろしく頼む。今日はゆっくりして行ってくれ」

二人の挨拶を聞いたリッカは嬉しそうに言うが、ヒカルは耐えかねて口を挟む。

「叔母上、今更ですがいきなり入って来ないで下さいよ。後で呼びに行こうと思っていたのですから」

圧倒的な強者感と輝かんばかりの美貌を持つリッカと並ぶと、ヒカル王は霞んで見える。どう考えても、彼は叔母には敵わない。

「お前の『後で』は当てにならん。実際、お二方がいらしてから随分と時間が経っているのだろう?メイドに聞けば分かることだ」

(そういえば、飲み物を運んできたメイドがいたっけ…)

確かにそれは結構前のことだ。

「畏れながら、リッカ様」

その時、背景画と化していたウィリアムがタイミングを見計らって声をかける。

「気が利かず申し訳ございません。よろしければこちらにおかけ下さいませ」

「...ああ、ウィリアムか。すまぬな」

ヒカルには厳しいが、ウィリアムに対しては幾らか柔和な表情で接する。

そして、リッカは椅子に腰かけると、気を取り直して二人に向き合う。

「つまらないことを聞かせて申し訳ない。実は、今日流転の國の方々が来ると聞いて楽しみにしていたのだ」

あの時のヒカルの独り言は誰も聞いていなかったのだが、後で紹介しようとしていたのは彼女のことだった。

リッカは期待に満ちた瞳で二人を見る。

「ジェイ殿、クラヴィス殿、今日は私に貴方達の國や魔術について話を聞かせてもらえないだろうか?」

「はっ。畏まりました、リッカ様。仰せの通りに」

完全に予想外の展開だが、ジェイは落ち着いた調子で頭を下げた。

(ヒカル様の叔母…ということはツキヨ様の姉か妹かな。もしくはもう片方の血縁…?それにしても、物凄い美人だ…)

クラヴィスは彼女の美しさに見とれていた。…最近、こういうの多くないですか?

リッカはヒカルと違い、他国からの使者であっても目下の者には敬語を使わない。その点はマヤリィと同じだが、リッカは王族という身分を持つに相応しい威厳に満ちており、桜色の都の女性なら誰もが憧れるであろう姿をしている。

その美貌は言うまでもなく、優雅な雰囲気を身に纏った彼女はそこにいるだけで周りの空気まで華やかにしてしまう。そして何より、腰を超える長さの金髪は毛先まで美しく艶々としている。いまだにジェイはここは昔の日本か!と声を大にして言いたくなるが、髪の長さと美しさは桜色の都女性の絶対的な美の条件である。

クラヴィスが見とれていると、リッカは真面目な顔で二人に言う。

「流転の國の方々はそれぞれ強い魔力と、それに相応しい魔術具を持っていると聞く。出来れば、貴方達の魔術具を見せてもらいたいのだが、よろしいか?」

「はい、勿論にございます」

そう言ってジェイは『流転の指環』を取り出し、リッカの前に差し出す。

「ほう...ジェイ殿はこれほどの物を使いこなしているというわけか...」

ひと目見ただけでそのマジックアイテムの強さが分かるリッカ。恐らく彼女も相当な魔力の持ち主だ。

《...クラヴィス、よく聞いてくれ》

リッカが『流転の指環』に夢中になっている間、ジェイはクラヴィスに念話で指示を出す。

《流転の國に帰り次第、今日のことを出来る限り詳しくマヤリィ様に報告する》

ジェイは冷静にそう伝える。

《迂闊にも僕は今『記憶の記録』魔術を発動出来る状態にない。だから自分の記憶力だけが頼りなんだけど、君にも協力して欲しい》

《畏まりました。リッカ様の存在は...それほど重要なのですね》

《当然だよ。まさか桜色の都にシャドーレに匹敵するような魔術師が隠れていたなんて...》

ジェイはリッカが現れた時から、この人は只者ではないと思い、密かに『鑑定』を使って魔力値を測っていた。

「風系統魔術か...。桜色の都にいるのは白魔術師ばかりゆえ、攻撃魔法の適性を持つ者には非常に興味がある」

リッカは満足そうな顔でジェイに魔術具を返すと、今度は自分の魔術適性を告げる。

「私の適性は氷系統魔術だ。これから実戦訓練を行おうと言いたいところだが、流転の國の主様に許可を取らねばならんな。…今度来る時はぜひ私の相手になってくれ」

リッカは笑顔でそう言うと、その後もヒカル王とウィリアムそっちのけで二人と話を続けるのだった。

『流転の國 vol.5 Parallel world』のキーパーソンだったリッカ様の本編初登場です。

完全なパラレルワールドだった『vol.5』とは異なる設定がありますが、強大な魔力を持つ氷系統魔術師であることに変わりはありません。


本物の世界でマヤリィとリッカが出逢うのはいつになるでしょうか...?

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