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⑤ルーリVSラピス

「来たわね、ラピス」

「はっ。本日はよろしくお願い致します」

その日、ラピスは初めての訓練に臨んだ。

今日はドレス姿ではなく、動きやすい服装の上に黒いローブを羽織っている。

「こちらが『悪神の化身』というマジックアイテムにございますか…!」

マヤリィから杖の形をした魔術具を受け取ったラピスは、その禍々しいオーラに気圧されていた。

「貴女には黒魔術の適性がある。これを使ってルーリの『シールド』を破ってみなさい」

訓練の相手はルーリ。

彼女はいつもと変わらず、艶やかなドレスを着てハイヒールを履いている。ブロンドのウェーブヘアはひときわ美しく輝いて見える。

《ルーリ、今日は『魅惑』の訓練じゃないと思うんだけど…》

《ああ。分かってはいるんだが、マヤリィ様の御前に出るというだけで気合いを入れて髪を巻いてきてしまった》

《気合いを入れる箇所が違うよ》

《昨日、衣装部屋に行って新しいドレスも見繕ってきた》

《はいはい。そのピンヒールもだね?》

《さすがはジェイ。よく分かってるな》

相変わらず念話で会話しているジェイとルーリ。

ジェイはそれ以上何も言わなかったが、ルーリがいつにも増して容姿に拘っているのはマヤリィの前だからというだけではない。

マヤリィの傍にはラピスがいる。今日は黒魔術師らしい格好をしているから初めて会った時と印象は違うが、自分に少し似た金髪碧眼の若く美しい娘であることには変わりない。

(私もマヤリィ様に黒魔術を教わりたい…)

ルーリ自身は気付いていないが、マヤリィが造り出した可愛らしいホムンクルスに対し無意識に嫉妬していた。

(19歳か…。私は……今は考えたくないな)

ラピスが19歳だという設定は後からマヤリィが考えたものだが、流転の國最年長を気にするルーリにとっては衝撃的だった。

「ルーリ、どうしたの?具合でも悪いのかしら」

気付けば、すぐ傍にマヤリィが立っている。

「い、いえ…大丈夫にございます。ご心配をおかけして申し訳ございません、マヤリィ様」

「そう?大丈夫なら良いのだけれど、無理はしないで頂戴」

マヤリィはそう言うと、ルーリを抱きしめた。

「調子が悪くなったらすぐに言うのよ?…私の大切なルーリ」

「マヤリィ様…!」

ルーリの表情が明るくなる。

「強力な『シールド』を頼むわよ」

「はっ!お任せ下さいませ、マヤリィ様」

先ほどとは打って変わって嬉しそうに答えるルーリ。

ラピスと向かい合い、十分に離れた所でシールドを張り、彼女の黒魔術を待つ。

「いつでもいいぞ、ラピス」

「畏まりました、ルーリ様。…では、失礼致します!」

その瞬間、ラピスの身体から物凄い魔力が放出された。

「っ…!」

単純な魔術だが、彼女の魔力値の高さがよく分かる。

(さすがはマヤリィ様が造られたホムンクルス…!)

ルーリはシールドを強化する。

ラピスは魔術を止めることなく、シールドに向かって放ち続ける。

「あの子、予想以上に強いわね」

「はい。っていうか、何をどうしたらあんなホムンクルスが造れるんですか?」

「企業秘密よ」

マヤリィとジェイは話をしながら二人を見守る。

(悪神の化身を使いこなすとは、ネクロも驚くだろうな)

ルーリはラピスの攻撃を防ぎつつ、死んだ仲間のことを思い出す。

(ん…?ネクロってどうして死んだんだっけ…)

前作でマヤリィが濫用した『記憶改竄』魔術のせいで、ルーリの記憶には曖昧な部分がある。

(魔力爆発だったか…?)

しかし、考えている余裕はなかった。

「ラピス、上位の魔術を撃ち込むのよ!ルーリ、雷魔術で応戦しなさい!」

マヤリィの命令を受けたラピスはシールドを破ると、幾重にも連なる鎖でルーリを縛った。

一瞬、判断が遅れたルーリは先手を取られ、動きを封じられてしまった。

「ルーリ!!」

思わぬ展開を前にジェイは叫ぶが、ルーリの身体には鎖だけでなく、雷の渦が巻き付いている。彼女の身体に直接宿った『流転の閃光』というマジックアイテムが発動したのだ。

そして、

「『迅雷一閃』!!」

それは一瞬だった。

ラピスは避ける間もなく殺人級の雷系統魔術を食らった。

「ラピス!!」

今度はラピスの名を呼ぶジェイ。

その時、マヤリィが指を鳴らす。

「勝負あったわね。…ルーリ、戻ってきて頂戴!」

「はっ!」

既に鎖は消えていたので、ルーリは閃光を解除してマヤリィの所に戻ってきた。

「姫、ラピスは…」

「ルーリの迅雷をまともに食らって無事で済むはずがないでしょう?」

「っ…!」

悪神の化身はそのままだが、ラピスの身体は雷に焼かれて黒くなっている。

「マヤリィ様、これは…!」

意識不明…というかたぶん壊れているラピスを目の当たりにしてルーリは驚くが、マヤリィは微笑みながら言う。

「大丈夫よ、ルーリ。こうなることが分かった上で、貴女に魔術を使うよう指示したのだから」

「そうでございましたか…」

「ええ。ご苦労だったわね、ルーリ」

「はっ。有り難きお言葉にございます、マヤリィ様」

ルーリはそう言って頭を下げる。

マヤリィの命令に従った結果のことだが、ラピスはかなり可哀想なことになっている。

「畏れながら、マヤリィ様。ラピスに白魔術は効くのでしょうか…?」

「いえ、効かないわ。それに、もう壊れているし」

「えっ…」

マヤリィは平然としているが、ルーリもジェイも理解が追い付かない。

「後で直しておくから大丈夫よ。…また最初から自己紹介することになるかもしれないけれど」

「それって、新しく造り出すの間違いじゃないですか?」

「そうかもしれないわね」

ジェイの疑問にマヤリィはあっさり頷く。

「どちらにしても完成品は同じよ。だから、今日の訓練で魔力値や耐久性を測れてよかったわ」

ホムンクルスを完全に物扱いしてるマヤリィ様。

「近々桜色の都からドラゴン討伐の支援要請があるでしょうから、その時は連れていくつもりよ。そろそろ誰を派遣するか決めておかなければいけないものね」

「マヤリィ様。やはり、前回と同じようにクラヴィスを派遣するのですか…?」

「ええ。クラヴィスの持つ『流転のリボルバー』はドラゴンを倒すのに最適だったみたいだから」

前回の討伐任務の際にはマヤリィも現地にいたから、皆が戦っている様子はよく覚えている。

「それと、ヒカル殿はシャドーレに出動命令を出すはずだから、戦力としては申し分ないわね」

「はっ。おっしゃる通りです、マヤリィ様。シャドーレが出動するならば、クラヴィスの出番はないかもしれませんね」

ルーリが言う。シャドーレはかつて流転の國でともに過ごした仲間。彼女が凄腕の黒魔術師であることはよく知っている。

「…では、流転の國からは他に誰を派遣するんですか?回復魔法の必要性を考えると、やはりシロマでしょうか?」

ジェイが聞く。シロマは前回も派遣され、危うく全滅するところだった『クロス』の隊員達に広範囲の完全回復魔法をかけ、全員を救った。

「いえ、今回シロマは行かせないわ。今回、桜色の都に行くのはクラヴィスとラピス、そして私よ」

やはり、ルーリを外に出す気はないらしい。

「シャドーレにも会っておきたいし、宙色の魔力を使えば回復魔法も使えるから大丈夫よ」

前回、マヤリィは魔力が尽きかけていたシロマに加勢し、完全回復魔法を成功させている。

他にも、砂漠を『飛行』している間にドラゴンの根城を見つけて破壊するなど、流転の國の女王の暗躍で成功したとも言える任務だった。

しかし、マヤリィが現地に赴いて戦ったことについては報告書に記載しなかった為、ヒカルは女王自ら戦いに参加したことを今も知らない。

「任務については明日の会議で改めて皆に話すわ。…私はラピスを直すから、貴方達は自由時間になさい」

「はっ。畏まりました、マヤリィ様」

マヤリィは壊れたラピスを抱き上げると、転移魔法を発動しようとした…直前。

《ルーリ、今夜は貴女の部屋に行くわね。いつにも増して美しい貴女を放っておけるわけないわ》

ルーリに念話を送る。

今日のルーリが特別気合いを入れて着飾ってきたのをしっかり見ていたマヤリィ様。

《畏まりました、マヤリィ様!お待ち申し上げております!!》

ルーリは喜びのあまり頬を染める。

そして、次の瞬間マヤリィは転移した。

「姫を行かせるのは少し心配だけど、向こうにはシャドーレもいるし大丈夫だよね」

二人になったタイミングでジェイが言う。

「ああ。シャドーレは本当に強いからな。…以前、実戦訓練をしたことがあっただろう?ネクロはいなくなってしまったが、もう一度シャドーレとあれをやってみたいものだな」

ルーリはシャドーレを思い出す。

しかし、ジェイは知っている。

シャドーレが桜色の都に戻った後、マヤリィは彼女の記憶から『ルーリ』を消したのだ。

(今のシャドーレはルーリの存在そのものを知らない…。あの日の実戦訓練のことも『忘却』させられてしまったかもしれない)

そう思うとジェイはとても悲しかったが、

「ジェイ、どうした?お前も覚えているだろう?黒魔術師二人は手強かったな」

何も知らないルーリはあの日のことを懐かしそうに語り続けるのだった。

故郷である桜色の都の為に生きると誓い、流転の國に戻ってこなかったシャドーレ(vol.7参照)。

マヤリィはその選択を受け入れるとともに、流転の國の『国家機密』ルーリの存在をシャドーレの記憶から消してしまいました。

このことを知っているのはマヤリィとジェイだけです。

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