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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第55.5話 魂導花

ずっとワンレングスにしていたルーリの髪。

今初めて前髪を作ろうとしています。

流転の國の休日三日目。

今日は一人で第7会議室に来たルーリ。

「またマヤリィ様を驚かせてしまうかもしれないが…どうしてもあいつの墓に供えたい。私にはこれしかないからな」

そう呟きながら、ルーリは鏡の前に立つ。

「マヤリィ様を苦しませ、ラピスを翻弄した挙げ句、死なせてしまった…。夢魔である私自身が『魅惑』を制御出来ないなんて、愚かしいにもほどがある…」

ここ最近、ルーリが関係を持ったのはラピスだけではない。

サキュバスだから仕方ないといえばそれまでだが、自由時間のどさくさに紛れてシロマを抱いた日もある。寂しさのあまりジェイに縋りついて第2会議室に行った日もある。そして、毎日のようにラピスラズリを……。

「なぜ私は夢魔として顕現したのだろう。誰かを傷付けるくらいなら、こんな特殊能力なんて要らなかったのに…」

ルーリは自分に対する苛立ちとラピスを死なせた悲しみを同時に感じながら、その手に握った鋏で前髪を切り始めた。…ラピスへの手向けとする為に。

「こんな感じか…?」

初めて前髪を作ったルーリは、それを眉の上で切り揃えた。

「…これだけでも随分と印象が変わるものだな」

後ろ髪はこの間ジェイに短く切り揃えてもらった時のままなので、ルーリは金髪のおかっぱ頭になった。

そして、切った髪を綺麗に纏め、後片付けを終えると、ラピスが眠る『弔いの間』へ向かうのだった。


「ルーリ様ですか?」

「タンザナイト…!」

弔いの間には先客がいた。

「その前髪、どうなさったんですか?」

「今日は聞いてくれるんだな」

ルーリはそう言うと、ラピスへの手向けだと説明した。

「…そういうことでしたか。僕は『魂導花』を咲かせようとしていたんです」

『魂導花』。それは名前の通り、死者の魂を安らかな場所へ導くことを願って供える花である。

まもなくタンザナイトが詠唱を始めると、墓石を照らすほどの光を帯びた大輪の花が一斉に咲き出した。黒く輝く美しい花がそれぞれの墓前に供えられている。

「ここに眠っていらっしゃる皆様は流転の國の為に戦い、命を落とされたと伺っています。姉上はちょっと違いますけど…。でも、流転の國の女王様の配下であったことは事実です」

タンザナイトはそう言いながら、ひときわ美しく輝く魂導花をラピスラズリの墓前に供え、小さな声で祈りを捧げる。

「姉上、安らかにお眠り下さい。僕は貴女の代わりに黒魔術を習得してみせます。…あ、ルーリ様を盗るようなことは絶対にしませんのでご安心を」

「お前、一言余計じゃないか?」

「いえ、姉上にとっては一番の懸念事項だと思います」

タンザナイトは真顔で言うと、

「…では、僕はお先に失礼します。ルーリ様、短い前髪もお似合いですよ」

そう言い残して出て行った。

「『魂導花』って…それを咲かせること自体、黒魔術の領域じゃないか…?」

ナイトが咲かせた美しい花々に照らされながら、ルーリはラピスの墓石と向き合い、その墓前に自分の髪を置く。

「私は全て思い出したぞ、ラピスラズリ。本当にすまなかった…」

ルーリはラピスの可愛らしい顔を思い浮かべながら、愛し合った日々の出来事を話し続けるのだった。

『魂導花』はかつて黒魔術師のネクロが仲間達を悼んで咲かせたことのある黒い花です(vol.6)。

タンザナイトは『彼女』を許すことが出来ないと言いながらも、その墓前に美しい花を供え、そっと語りかけるのでした。

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