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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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53/150

㊿流転の國サスペンス劇場

流転の國で起きた殺人未遂事件。

犯人は誰?被害者は誰?

そして、最後に発砲するのは誰?

いきなり始まるサスペンス。

一番の被害者はたぶん第7会議室。

「おはよう。早速だけれど、今日は皆で第7会議室に行くわよ。ルーリが頑張ってくれたお陰でとても素敵な部屋に……」

玉座の間に現れるや否や勢いよく話し始めたマヤリィだったが、すぐに一人足りないことに気付く。

「…ねぇ、タンザナイト?」

マヤリィは声のトーンを落とし、タンザナイトに厳しい眼差しを向ける。

「ラピスラズリはどこかしら?同じ部屋の貴女が知らないはずはないわよね?」

しかし、タンザナイトは怯える様子もなく真顔で答える。

「畏れながら、女王様。今朝、僕が書庫から戻った時、既にラピス殿の姿は見えませんでした。先に玉座の間に行ったか、もしくは他に用事があるものと思っておりましたが、確認を怠り申し訳ございません」

昨日、ラピスからひどい言葉をぶつけられた後でタンザナイトは書庫に向かい、そこで新しい魔術書を見つけて解析に専念していたので昨夜は部屋に戻らなかったのだ。

「…そうだったのね。では、ラピスはなぜここにいないのかしら」

マヤリィはそう言いながら『魔力探知』を発動する。無意識下で行われているものとは違い、僅かな魔力を辿って目的の人物を見つけ出すことが出来る。

玉座の間に集まった配下達は緊張した面持ちで、女王の次の言葉を待つ。

「…第4にいるわ。貴方達はここで待っていて頂戴」

そう言ってマヤリィが『転移』しようとした瞬間、

「お待ち下さい、マヤリィ様」

ルーリが声をかける。

「畏れながら、私も行かせて頂きたく存じます。どうかお許し下さいませ」

「…許すわ。来なさい」

マヤリィはそう言うと、改めて皆に命じる。

「貴方達は待機していて頂戴。…何かあったら呼ぶから」

「はっ!」

その時、シロマと目が合った。

《貴女の力が必要になるかもしれないわ。頼りにしているわよ》

《勿体ないお言葉にございます、ご主人様…!》

シロマと一瞬の『念話』を交わし、マヤリィはルーリを連れて転移した。

「第4会議室ですか…。何か嫌な予感がしますね…」

以前、ルーリが造り出した制御不能の人造人間を思い出し、クラヴィスは呟いた。


「ラピス、ここで何をしているの?」

第4会議室には、マヤリィが探知した通りラピスの姿があった。

「はっ。魔術訓練をしております」

「今は玉座の間にいるべき時間なのだけれど、時計を見ていないのかしら?」

「はい。時計は見ておりません」

「おい、ラピスラズリ…!」

明らかに様子のおかしいラピスを見かねて、ルーリが声をかける。

「朝の会議に出席することはマヤリィ様の『命令』だぞ?お前も分かっているはずだろう?」

因みに、今のルーリは昨夜マヤリィにかけられた『忘却』魔術によって、自分の犯した罪を全て忘れていた。勿論、毎日のようにラピスと浮気していたことも。

だから、今のルーリはラピスに対し、彼女が造り出され桜色の都に派遣される前後の『私はもっとお前と話がしたい』『私に気を遣う必要はない』と声をかけていたことくらいしか覚えていない。マヤリィに怯えるラピスを優しく庇い、都から無事に帰ってきて欲しいと願っていた頃。つまり、彼女と肉体関係を持つ前まで遡ってしまっている。

「その場に跪け、ラピス。そしてマヤリィ様に謝罪し、玉座の間に来るんだ」

マヤリィが魔力圧をかける前にラピスを謝らせなければならない。ルーリは焦っていた。

しかし、ラピスは突然ルーリに抱きつく。

「ラ、ラピス…!?マヤリィ様の御前で一体何をするんだ…?」

マヤリィは黙ってそれを見ているが、ルーリはいつ第4会議室に罅が入るかと思うと気が気でない。

「とにかく落ち着け。私から離れろ」

「ルーリ様、なぜそのようなことをおっしゃるのですか?」

マヤリィの前とはいえ、いつもと違うルーリの様子を感じ取り、ラピスは首を傾げるが、

「聞いて下さいませ、ルーリ様」

いきなり話し始めた。

「貴女様が桜色の都に行っていらっしゃる間、私は髪を切りました。そして、これまでのことを反省し、魔術書を読んでおりました」

「あ、ああ…。今お前の姿を見た時は正直驚いたよ。…それは、魔術訓練に専念するという決意表明か?」

「はい。…でも、魔術書の内容が一向に頭に入ってこないのです。どんなに集中しようとしても、ルーリ様のことしか考えられないのです」

「なぜ、そこまで私のことを…?」

ルーリは戸惑う。当然だが、マヤリィに忘却魔術をかけられたことすら記憶にないルーリは、ラピスが何を言っているか分からない。

そんなルーリにラピスは悲しそうな目を向ける。

「わたくしは貴女様を愛しているのです!貴女様だって、あんなにも情熱的にわたくしを抱いて下さったではありませんか…!」

「私が…お前を抱いた…?」

「記憶にないとは言わせません。第7会議室もしくは第2会議室で、貴女様はわたくしに対して魅惑魔法を発動しました。そして、そんな貴女様にわたくしは身も心も捧げたというのに…。ルーリ様、なぜですか?なぜ知らないふりをなさるのですか?ここにマヤリィ様がいらっしゃるからですか?」

気付けば、ラピスは鎌の形をした『悪神の化身』を握りしめ、夥しい魔力を放出している。

「待ってくれ、ラピス。私には何のことだか…」

ルーリが混乱していると、

「ひどいです、ルーリ様!…『拘束』魔術、発動せよ!!」

激昂したラピスは魔術を発動する。

「『シールド』!!」

咄嗟にシールドを発動したのはマヤリィだった。

「さっきから聞いていれば、貴女がここにいる目的は魔術訓練の為ではなさそうね。もしかしてルーリと二人きりになりたくて第4に籠っていたのかしら?…隙を見てルーリを拘束する為に」

その言葉を聞いて、ラピスは笑う。

「さすがはマヤリィ様。よく分かっていらっしゃいますね。…もう一度です。『拘束』発動せよ!!」

しかし、マヤリィのシールドは破れない。

「やめなさい、ラピス。こんなことをしたって何にもならないわ」

マヤリィはラピスに語りかけるが、その言葉は届かない。

「貴女様にわたくしの気持ちなんて分かるはずがありません!『流転の國のNo.2』を本気で愛してしまった愚かなホムンクルスのことなんて…!」

「ラピス…!」

それを聞いたルーリはうっかりラピスに歩み寄ってしまう。

「ルーリ!!」

「ありがとうございます、ルーリ様。わたくしの傍に来て下さって嬉しいです。…でも、なぜか貴女様はわたくしと過ごした時間を覚えていらっしゃらないみたいですね」

ラピスは鎌の形をした『悪神の化身』を構える。

「これは完全に想定外ですが、構いません。マヤリィ様の期待に応えられなかったわたくしに未来はない。…ならば、一緒に死んで下さいませ!!」

流転の國史上一番重い女がここにいる。

「落ち着け、ラピス!!」

ルーリはなおもラピスを諭そうとするが、ラピスは黒魔術を発動する代わりに自分のすぐ傍まで来たルーリに向かって悪神の化身を振り下ろした。鋭い鎌は確かに命中した。

「っ…?」

シールドを張れなかったルーリは恐る恐る目を開ける。たった今、ラピスの鎌に斬られたはずなのに、どこも痛くない。

しかし次の瞬間、ルーリは悲鳴を上げる。

「マヤリィ様!!!???」

そこには、身を挺して自分を庇い、大量の血を流して倒れているマヤリィがいた。

「シールド…どころじゃ、なかったわね…」

マヤリィは力なく微笑む。

「貴女は、ラピスを止めて。私のことは…いいから…」

「っ……」

気付けば、ラピスの姿はない。

マヤリィを斬ってしまったことで気が動転し、どこかへ転移したのだろう。

ルーリがショックのあまり動けないでいると、マヤリィはか細くも厳しい口調で命令する。

「早く行きなさい、ルーリ…。この國を、守るのよ……」

「っ…。か、畏まりました、マヤリィ様!!」

やっとの思いでそう言うと、ルーリは涙を堪えて第4会議室を飛び出した。そして魔力探知をし、ラピスの行方を探る。

それを見たマヤリィは少し安心して、

《こちら、マヤリィ…。シロマ……》

息も絶え絶えに念話を送る。

《ご主人様!?》

シロマが血相を変えたのを見て一緒に待機していた皆は何事かと思うが、聞いている時間はなかった。

「第4に行って参ります!ご主人様の危機です!」

言い終わらないうちに転移するシロマ。

その時、タンザナイトが言う。

「ラピス殿の魔力を探知しました。第7会議室です」

「…そうか。彼女は暴走してるんだね?」

ジェイは全てを悟る。懸念していたことが起きてしまった。

「タンザナイト、そっちは任せていいか?」

「分かりました。何としてでもラピス殿を止めます」

短い会話の後で、ナイトは一礼すると転移した。

「ジェイ様、私はどうすれば…」

こういう時、魔力を持たないクラヴィスは何も出来ない。

「君はここにいてくれ。マヤリィ様の体力値が急激に低下してる。シロマが行ってくれたから大丈夫だとは思うけど、僕も第4に向かう」

ジェイは早口でそう言うと、

「もしラピスがここに来たら全力で止めて欲しい。頼んだよ、クラヴィス」

「か、畏まりました、ジェイ様!!」


「姫!!大丈夫ですか!?」

第4に転移するなりジェイは叫ぶ。

そこには血塗れのマヤリィと、魔力の尽きかけたシロマがいた。

「ジェイ、よく来てくれたわね。私なら大丈夫よ。ちょっと痛かったけれど…傷は塞いでもらったから…」

真正面からラピスの鎌を食らったマヤリィの身体には、傷痕が残っている。

「死ぬかと思ったわ…。でも、ラピスの攻撃を受けた瞬間『宙色の耳飾り』が光ったの」

普通なら即死だろうが、マヤリィが助かったのは『宙色の魔力』のお陰だった。そして、流転の國の最上位白魔術師シロマによって、瀕死の状態から救われた。

「ジェイ様、申し訳ありません…。傷を塞ぐのに精一杯で、完全治癒は発動することが出来ず…」

『流転の星杖』と『ダイヤモンドロック』を抱えて、シロマはその場に座り込んでいる。白い服はマヤリィの血で真っ赤に染まっている。

「いや、君はよくやってくれたよ。…今から僕の魔力をダイヤモンドロックに送るから、受け取ってくれ」

『ダイヤモンドロック』には、他者から魔力を受け取り、それを倍増させてシロマに与えることが出来る特性を持っている。

「感謝致します、ジェイ様」

そう言って差し出されたダイヤモンドロックにジェイが手をかざすと、それは忽ち光を放って、受け取った魔力はシロマに注がれた。

「確かに受け取りました。これで魔術を発動出来ます…!」

シロマは頭を下げると、マヤリィの方へ向き直り『完全治癒』魔術を発動した。

眩い治癒の光に包まれ、鎌で斬られた傷痕が消えていく。

「…ありがとう、シロマ。助かったわ」

そう言ってシロマを抱きしめるマヤリィ。傷痕が消えただけでなく、体力も完全に回復していた。

「ご主人様…!」

シロマは安堵の表情を浮かべつつ、その目からは涙がこぼれる。

「ご主人様のお役に立つことが出来まして大変嬉しく思います。されど…シロマは怖かったです…!」

血の海で倒れているマヤリィを見た時、シロマはこのままご主人様を失ってしまうのではないかという恐怖に襲われた。もしご主人様に白魔術が効かなかったらと思うと胸が潰れそうだった。それでも、すぐに二つのマジックアイテムを手に取り、魔術を発動したのだ。

「心配かけてごめんなさいね。シロマ、本当にありがとう…!」

「ご主人様ぁ…!」

《姫、そろそろいいですか?》

シロマを抱きしめるマヤリィを見ながら、ジェイは冷静に報告を始めた。

「今ラピスは第7会議室にいます。それを探知したタンザナイトは彼女を止めると言って転移しました。クラヴィスは玉座の間で待機させています。もしラピスが来たら全力で止めるよう言ってきたのですが…」

「分かったわ。『流転のリボルバー』の縛りを解除する」

マヤリィはすぐにジェイの意図していることが分かった。『流転のリボルバー』はマヤリィが味方と定めた相手には全く効かないが、敵であれば百発百中一撃必殺の威力を持つチートアイテムである。

《こちらマヤリィ。クラヴィス、応答して頂戴》

《こちらクラヴィスにございます!マヤリィ様、ご無事ですか!?》

《ええ、シロマのお陰で助かったわ。…玉座の間は変わりないかしら?》

《はい。今のところ、誰も戻ってきておりません》

《分かったわ。では、今から言うことをよく聞いて頂戴》

《は、はいっ!》

《たった今、貴方の持つ『流転のリボルバー』の縛りを解除した。今度ラピスに向けて発砲すれば、確実に彼女を仕留めることが出来るわ》

《それは、つまり…》

《ええ。もはやラピスは流転の國の仲間でも味方でもないということよ。ルーリを殺そうとしたのだから当然ね》

《えっ!?ルーリ様を…?》

《クラヴィス。簡潔に話すと『悪神の化身』でラピスに切り裂かれそうになったルーリをマヤリィ様が庇って重傷を負われてシロマを呼んで回復魔法をかけさせたんだ。…分かった?僕達の大切なご主人様が危うく死ぬところだったんだ。その犯人を決して許すな》

二人の念話に割り込んだジェイは戸惑うクラヴィスに強い口調で言う。

《畏まりました!次に彼女を見た時は迷わず発砲致します!》

《うん。それでいい》

「…ジェイ、ありがとう」

話が早く済んだことに感謝するマヤリィ。

「とんでもございません、マヤリィ様」

側近の顔で頭を下げるジェイ。

「…ところで、ルーリはラピスを見つけられたのかしら」

今は誰の魔力も感じられないが、マヤリィは感覚を研ぎ澄まし、魔力探知を再開した。


「ラピス殿、もう逃げられませんよ」

タンザナイトは第7会議室に強固な『結界』を張り『転移阻害』魔術をかけてラピスを閉じ込めた。

「貴女は許されない罪を犯しました。その鎌に付着している血液を解析すれば分かります。貴女は女王様を殺そうとしましたね?」

いきなりサスペンスが始まった。

「いいえ。確かにわたくしはマヤリィ様を斬りましたが、本当に殺したかったのはルーリ様です。ルーリ様に向かって鎌を振り下ろしたのにマヤリィ様がそれを庇ったのです」

ラピスは言う。

「わたくしはどうせ廃棄されるのです。ならば、愛するルーリ様を道連れにしたい。ルーリ様と一緒に死ねるなら本望です」

「僕には貴女の言葉が分からない。なぜ愛する人を殺せるんですか?」

「どうせタンザナイト様には分かりませんよ」

「確かに僕は人を愛したことがない。でも、ラピス殿のそれは愛ではありません。そんなの僕にだって分かりますよ。本当に愛しているのなら、その人を絶対に傷付けたくないと思うのではないですか?」

タンザナイトは言う。

「女王様はラピス殿の鎌からルーリ様を庇って大怪我を負われました。シールドの前に出てしまったルーリ様を瞬時に守る方法はそれしかなかったんです。分かりますか?女王様はご自分の命よりも愛するルーリ様の命を選んだのです。自分が死ぬと分かっていても愛する人を救いたい。それが女王様の愛です」

そろそろ崖に追い詰められる頃ですね、ラピスさん。

「ちょっと待って下さい、タンザナイト様」

「何です?」

「マヤリィ様は…ルーリ様を愛していらっしゃるのですか?」

「何を今更。知らなかったとでも言うんですか?」

「知りませんでした…」

「は?」

「だって、ルーリ様はわたくしを抱いて下さったのに…」

「ラピス殿、ルーリ様がサキュバスであることをお忘れですか?」

「あっ…」

「因みに、ルーリ様の本命は女王様です。先にこのことを伝えておくべきでしたね」

「そんな…!嘘でしょ…!?」

ラピスさん、タイムアウトです。


《こちらタンザナイト。皆様、僕は今ラピス殿と第7会議室におります。どなたか応答を願います》

戦意喪失したラピスから悪神の化身を取り上げ、岩系統魔術を使って彼女を磔にしたタンザナイトは、この先の指示を仰ぐ為に念話を送ったのだ。

《こちらルーリ。私が行く》

《待ちなさい、ルーリ。貴女が行っては駄目よ》

《マヤリィ様…!?》

決着をつけようとするルーリをマヤリィは止めた。

《勿論、私も行かないわ。ラピスを刺激することのない人間を行かせる》

《畏れながら、マヤリィ様。一体誰を…?》

ルーリには予想がつかなかった。

その時、

《こちらクラヴィス。第7会議室の前まで参りました》

《クラヴィス!?》

一番有り得ないと思っていた人選に驚くルーリ。

《ちょっと黙ってなよ、ルーリ。クラヴィスの腕を信じるんだ》

クラヴィスを集中させる為、ジェイがルーリを黙らせる。

《分かった…。すまない…》

ルーリが黙ると、マヤリィはタンザナイトに命じる。

《ナイト、そういうわけだからクラヴィスを中に入れて頂戴》

《畏まりました、女王様》

ナイトはそう答えると『結界』を解いた。

「タンザナイト様、お疲れ様です。最後は私にお任せ下さい」

そう言って入ってきたクラヴィスだが、凄惨な光景を目の当たりにして足が止まる。

ラピスは完全に動きを封じられていた。ナイトが顕現させた鋭い岩の釘で腕や脚を貫かれ、会議室の壁に磔にされる形になっている。

(タンザナイト様…)

大切なマヤリィを傷付けたラピスに対する無言の怒りを感じ取るクラヴィス。

一方、流転のリボルバーを手にしたクラヴィスを見て、ラピスは涙を流す。

「…そうですか。もうルーリ様にはお会い出来ないのですね」

岩の釘が刺さっている身体はかなり痛いはずだが、それでもルーリのことを考えている。

「その弾が当たればわたくしは即死する。でも、それを『無効化』したらわたくしは命を落とす。どちらにせよ、ここまでということですね」

ラピスの身体には、どんなに強大な魔術でも一度だけ『無効化』出来る機能が備わっている。但し、それはラピスの命と引き換えに発動する魔術である為、結局本人は助からない。

《申し訳ございません、マヤリィ様。わたくしはただ罪を重ねただけの役立たずの人造人間にございました》

観念したラピスはようやくマヤリィに謝罪する。

しかし、返ってきたのは予想外の声だった。

《ラピス、それは違う》

《ルーリ様!?》

もう二度と聞くことは叶わないと思っていたルーリの声が頭の中に響く。

《確かにお前は廃棄されて然るべき罪を犯したが、どうやらその責任は私にあるらしい。…さっきのお前の言葉を思い出してみたが、全くの嘘だとは思えなくてな》

《ルーリ様…》

《それに、お前は桜色の都の危機を救う為に派遣されたメンバーの一人だ。『記憶の記録』の宝玉を持って帰ってきたことはよく覚えている。あの時はお前のお陰で現地の状況を知ることが出来たんだ》

《ルーリ様…》

《だが、お前が私の愛するマヤリィ様を傷付けたことは事実だ。その罪は万死に値する》

《はい…。分かっております…》

その念話をマヤリィは黙って聞いていた。

《ラピスラズリ。私はお前を許すことは出来ないが、もう二度とお前を忘れたりなんてしない。約束するよ》

《ルーリ様…!》

《またな、ラピス》

そこでルーリからの念話は途切れた。

《では、クラヴィス様。そろそろ…》

タンザナイトは発砲を促すが、クラヴィスの手は震えている。殺人未遂事件の犯人とはいえ、今まで仲間だったラピスラズリ。かつて桜色の都を守る為にそれを使った時とはわけが違う。

《…分かりました。僕がやります》

タンザナイトはそう言って流転のリボルバーを受け取り、

《女王様、ご命令を下さいませ》

いつもと変わらぬ冷静な声で、念話を送る。

それを聞いたマヤリィは、哀しみを押し殺して命令を下す。

《タンザナイトに命じる。大罪を犯した人造人間ラピスラズリを始末しなさい》

《はっ。畏まりました、女王様》

そう答えた瞬間、タンザナイトはラピス目がけて発砲した。

そして、壊れたラピスを床に寝かせると、報告の念話を送る前に彼女の手を握り、耳元でささやくのだった。

「姉上、僕も貴女を忘れませんよ。約束します」

ルーリを想うあまりに暴走したラピスラズリ。

忘却魔術によって忘れた彼女との日々を思い出したわけでもなく彼女の言葉を信じたわけでもありませんが、ルーリはラピスに『念話』で語りかけ、別れを告げました。


最初の罪を明るみに出さなかったマヤリィが悪いのか、彼女を魅惑し続けたルーリが悪いのか、ルーリを愛しすぎて職務放棄したラピスが悪いのか…。

この事件の責任の所在は誰にも分かりませんが、マヤリィを瀕死の状態に追い込んだのは、後にも先にもラピスラズリだけでしょう。

シロマが傷を塞ぐのに苦労した理由は『悪神の化身』に猛毒が仕込まれていた為です。…ラピスさん怖い。

ジェイは第44話で、ネクロを死に追い込んだという『強すぎる人造人間』のことを思い出して不安視していましたが、実際に問題を起こしたのは強すぎるタンザナイトではなく、恋に溺れたラピスラズリでした。


大罪を犯したとはいえ、これまで流転の國の仲間だったラピスラズリ。

まもなく『弔いの間』には彼女の墓標が立てられることでしょう。

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