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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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㊾想定外の告白とマヤリィのOD

ジェイ、タンザナイト…。

想定外のことが起きてしまったわ…。

(私はラピスを守りたい。…だから、この罪は私だけのものだ)

桜色の都で犯した失態を許されたルーリは、流転の國で続けてきた罪深い行為について告白することを決めた。

「マヤリィ様。私は貴女様に謝らなければならないことがございます」

ルーリはマヤリィと一緒に自分の部屋に戻ると、真剣な顔で話を切り出した。

「無論、謝って許されることではございませんが、どうか私の話を聞いて下さいませ」

しかし、

「嫌よ」

「えっ…」

即座に拒否され、ルーリは絶句する。

「…だって、全部知っているもの。今更聞かされたところでどうしようもないわ」

「っ……」

マヤリィは平然としているが、ルーリはどうしたら良いか分からず狼狽える。

「ルーリ。私が何も気付いていないとでも思っていたの?私は『宙色の魔力』のせいで嫌でも魔力を探知してしまうのよ?…そう、貴女の『魅惑』魔術もね」

「…………!」

「貴女が久しぶりに私の部屋に来てくれたあの夜、私に『睡眠』魔術をかけて出て行ったことも知っているわ。…この他にも話があるなら聞くけれど、どうかしら?」

ルーリが決死の思いで打ち明けようとした罪は、マヤリィの口から淡々と語られてしまった。

「マヤリィ様、大変申し訳ございません…!」

ルーリはそう言ってマヤリィの前にひれ伏した。それ以外に出来ることはなかった。

「…馬鹿ね、ルーリ」

マヤリィは怒ることもなく、ルーリの頭を撫でる。

「悩みがあるなら私に話しなさいと散々言ってきたはずよ?…あの夜、どうして私から離れて行ったの?なぜ、私に何も言ってくれなかったの?」

穏やかな口調で話しているが、マヤリィはとても哀しそうな顔をしている。

女王が配下の為にそこまで悩む必要はない。ジェイに言われたことを心に留めながら、それでもマヤリィはルーリを特別に想っている。

「マヤリィ様、私は……」

ルーリはその先を言えず、涙を流している。都から帰還した後といい、今日は泣いてばかりだ。

「謝りたいなんて言わずに、ずっと黙っててくれればよかったのに。そうしたら、私も何も言わなかった」

マヤリィは独り言のように呟く。

「けれど、私は貴女を罪に問わない。これはもう決めていることなの」

「マヤリィ様…!何ゆえにございますか…!?」

罪を告白し、罰を受ける気でいたルーリは、驚きのあまり大声を上げてしまう。

しかし、すぐに落ち着いてマヤリィの前に跪く。

「畏れながら、マヤリィ様。そのようなことは許されません。…どうか、この愚かなサキュバスに罰をお与え下さいませ」

ルーリは初めからラピスの名を出すつもりはなかった。

彼女を守りたくて、一人で全ての罪を背負おうと決めたのだ。

(もう嫌…。どうしてこうなるのかしら…)

配下を『処罰する』ことがマヤリィの精神に大きな負担をかけることはタンザナイトが話していた通りである。

(…仕方ないわね。ここで全部終わらせましょう)

マヤリィはため息をつくと、わざと明るい声で告げる。

「分かったわ、ルーリ。貴女にとっておきの罰をあげる。しばらくそこを動かないで頂戴」

「はっ!」

ルーリはそう答えると、頭を下げたまま処罰されるのを待つ。

(ラピスラズリ…。お前は何も言わないでくれ。悪いのは私なのだから)

そう思って目を閉じる。この期に及んでもラピスの心配をしている。

一方『宙色の魔力』を解放したマヤリィは、心の中で二人に謝っていた。

(…ジェイ、ナイト、こんなやり方しか思い付かない私を許して頂戴)

あの日決めた『罪を明るみに出さない』方針が崩れてしまった以上、他に方法は思い浮かばない。

「…ごめんね、ルーリ。私にはこれしか出来ないの」

マヤリィはそう言うと禁術を発動した。

直後、気を失って倒れるルーリ。

「目が覚めたら、いつものルーリに戻っていてね。自分が犯した罪のことなんて、全て忘れてしまうのよ」

『忘却』魔術の副作用で昏睡状態に陥ったルーリをベッドまで運ぶと、マヤリィはその美しい寝顔を見つめる。

そして、

「今日は自分で睡眠薬を飲むわ。…貴女と一緒に眠る為にね」

ODと自傷の後で、マヤリィは愛しいルーリの隣に横たわるのだった。

ラピスを庇って一人で罪を背負おうとしたルーリ。

しかし、マヤリィはその内容を全て知っていました。


ルーリに罰を与えたくなんかない。でも、そうしなければ彼女は納得してくれない。

この状況に悩まされたマヤリィは、お馴染みの『忘却』魔術で全てを終わらせようとします。


そして、極めつけのOD(オーバードーズ)

マヤリィにとって、ルーリを処罰するのも、ルーリに禁術をかけるのも、とてもつらいことなのです。

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