③ラピスラズリ
「さぁ、目覚めなさい。そして、流転の國とその友好国を守る為に働くのよ」
ここは玉座の間。
ルーリとジェイが見守る中、マヤリィが呼びかけると、すぐに『彼女』は目を開けた。
「マヤリィ様にございますか…?」
「ええ、そうよ。全て、分かっているようね」
「はっ。貴女様こそが流転の國の女王マヤリィ様。そして、わたくしのご主人様にございます」
『彼女』は跪いてマヤリィを見上げ、
「畏れながら、マヤリィ様。わたくしの名は何と言うのでしょうか?」
期待に満ちた表情で問う。
「貴女の名前はラピスラズリ。…ラピスと呼ぶことにしましょう」
「ありがとうございます、マヤリィ様。わたくしラピスは貴女様の御為、流転の國の御為、命を賭して働かせて頂く所存です」
「ええ、期待しているわよ」
「はっ」
マヤリィはその様子を見て、満足そうに頷いた。
最初のやりとりを終えると、マヤリィは彼女の容姿を確かめはじめた。
金髪碧眼。色白の肌に整った顔立ち。身長だけはマヤリィと同じくらいだが、それ以外は誰かに似ている。
「畏れながら、マヤリィ様。彼女と私はなんとなく似ているような気がするのですが、気のせいでしょうか…?」
…そう。ルーリだ。
ラピスは肩に付かない程度のボブヘアで、瑠璃色のミニドレスを身に纏い、同じ色のハイヒールを履いている。ルーリに若き日があったとしたら、こんな感じかもしれない。
「気のせいではないわ。…だって、ラピスのモデルは貴女だもの」
「そ、そうなんですか!?」
ルーリよりも先に驚きの声を上げたのはジェイだった。
「ホムンクルスを造るとは聞いてましたけど、まさかルーリをモデルにするとは…」
「でも、ちゃんと区別が付くでしょう?設定は19歳よ」
マヤリィは自分が造り出したラピスに微笑みかける。
かと思うと、真面目な顔でジェイに訊ねる。
「…ジェイ、ラピスラズリの和名を知っているかしら?」
「ラピスラズリって…確か12月の誕生石ですよね…?えっと…」
その時、ジェイはラピスの服を見る。綺麗な青。これを何色と表せばいい…?
「瑠璃…ですか…?」
「さすがね、ジェイ。その通りよ」
マヤリィがジェイを褒めると、
「ルーリ…ですか…?」
自分の名前と聞き違えたルーリが不思議そうに首を傾げる。
「…成程、そういうことなんですね」
ジェイは名付け方に納得する。
ルーリ→瑠璃→ラピスラズリ
「って、どこまでルーリのこと好きなんですか?」
「ふふ、嫉妬しないのよ?」
「しますよ!ルーリがひとり増えたみたいな感じじゃないですか…!」
マヤリィとジェイは恋人同士。
けれど、マヤリィとルーリも恋人同士。
『流転の國シリーズ』公式(?)の二股である。
ジェイがマヤリィに遊ばれている間、ルーリはラピスに近付いた。
「ラピス…って呼んでいいか?…私はルーリ。マヤリィ様の側近であり永遠の恋人だ。魔術適性は雷系統。あと、こう見えて『魅惑魔法』が使えるサキュバス、つまり悪魔種に属している。よろしくな」
ルーリさん、自己紹介が長い。
「はっ。よろしくお願い致します、ルーリ様。わたくしはマヤリィ様の配下であり娘のような者にございます。黒魔術の適性を与えられておりますので、訓練の際はぜひご一緒させて下さいませ」
ラピスも負けずに自己紹介が長い。
「マヤリィ様の娘…!?」
ルーリがその言葉にたじろいでいると、
「そうね…私が造り出したのだから、ある意味では私の娘と言えるかもしれないわね」
しっかり二人の自己紹介を聞いていたマヤリィが頷く。
「ラピス、こちらは側近のジェイ。風系統の適性を持っている魔術師で、私の恋人でもあるの」
「よろしくね、ラピス」
ジェイはマヤリィ直々に恋人と紹介されたのが嬉しくて、笑顔で手を差し出す。
「はっ!よろしくお願い致します、ジェイ様」
ラピスもジェイの優しい人柄を感じ取ったのか、安心して握手する。
「二人とも、よく聞いて頂戴。今、本人が言った通り、ラピスには黒魔術の適性を与えてある。それも『悪神の化身』が使える程度のね」
「っ…!?」
二人は言葉を失う。
『悪神の化身』。それは、流転の國の最上位黒魔術師と呼ばれたネクロが所持していた強力なマジックアイテムである。彼女の死後は流転の國に黒魔術を使える者がいなかった為、長らく宝物庫で保管されていた。
「魔力爆発…したりはしないんでしょうか?」
もしかしたら自分よりも強い黒魔術師の出現に、ジェイは今更ながら恐れ慄く。
「大丈夫よ。普段は魔術具を持たせておくこともしないし、私の命令がなければ何もしないから。…そうよね、ラピス?」
「はっ。マヤリィ様のご命令だけに従うことをお約束致します」
ラピスがそう言って頭を下げると、マヤリィは厳しい口調で念押しする。
「もし貴女が命令に背いて勝手な行動をとったら…その時は分かっているわね?」
「はっ。決して貴女様に背くことは致しません」
ラピスははっきりと受け答えをしながらも、身体は震えていた。
《もし命令に背いたら…どうなるのかな?》
ジェイが『念話』でルーリに話しかけると、
《即座に破壊されるだろうな》
彼女は真顔でそう答えた。
そういえば、他の配下達に対しては自分の為に『命を賭ける』ことを禁じているのに、ラピスが『命を賭して』働くと言った時にはその言葉を訂正させなかった。
《…つまり、マヤリィ様はラピスを配下ではなく、完全にホムンクルスとして扱っていらっしゃるということだ。恐らく、近々桜色の都に派遣されるチームの中に入れるおつもりなのだろう》
ルーリは冷静な声で言う。
《でも…いざという時、ルーリに似てる彼女に対して、姫は非情になれるのかな…?》
《ジェイ、よく見てみろ。金髪とか服装とか、なんとなく私に似せてはいるが、それだけだ。声も機械的に聞こえる》
確かに、若き日のルーリ…のような感じはするが、今の服装が似ているからというだけかもしれないし、声は全く違う。
《機械か…。元いた世界で言うロボットみたいなものなのかな…》
《ろぼっと?ってなんだ?》
ルーリにはたまに通じない言葉がある。
《マヤリィ様とお前が時々口にするニホンゴもよく分からないし、難しい言葉が多いな》
どうやら、この世界に存在しない物の名前は知らないらしい。
《でも、ラピスラズリは分かったの?》
《ああ。綺麗な青い石のことだろう?》
《ルーリのことでもあるみたいだけど、まぁいいか》
「では、明日の会議で皆にラピスを紹介することにしましょう」
斯くして、流転の國にひとりの黒魔術師が誕生したのだった。
マヤリィは『宙色の魔力』を使ってホムンクルスを造り出しました。
前に誰か同じことをしてましたよね?
キャラクター紹介
●ラピスラズリ(通称ラピス)
年齢:19歳(という設定)
性別:女性
職業:マヤリィの娘
身長:160cm
適性:黒魔術
魔術具:悪神の化身(ネクロから引き継ぐ)
種族:人造人間