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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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㉛カモフラージュ

シャドーレの訪問日。

それを知らされたのは彼だけ…。

「…そう。順調に進んでいるのね」

「はっ。全ては貴女様が西の国境線の問題を明らかにして下さったお陰にございます。我が主ヒカルに代わりまして、深く感謝申し上げます」

シャドーレは桜色の都の現況について報告した後、改めてマヤリィに感謝の言葉を述べた。

それを聞いたマヤリィは満足そうに頷く。

「貴女の言葉を聞いて安心したわ、シャドーレ。都へ帰ったらヒカル殿によろしく伝えて頂戴。また何かあれば、流転の國はいつでも桜色の都の味方になりましょう」

「はっ!有り難きお言葉にございます、マヤリィ様」

シャドーレは深く頭を下げる。久しぶりに見たマヤリィ様はやはり誰よりも気高く美しく慈悲深い御方だ。

少しの間マヤリィに見とれた後、シャドーレは一つの疑問に行き着く。

「畏れながら、マヤリィ様。流転の國の皆様はご息災でいらっしゃいますか…?」

いつもなら玉座の間に通されるはずが、今日は貴賓室だった。

いつもなら側近が控えているのに、今日はマヤリィ一人である。

なぜ今日は他の配下達の姿が見えないのだろう…?

「ええ、皆元気にしているわ。今はちょうど実戦訓練を行っているところなのよ。貴女にも参加してもらえたら嬉しかったのだけれど、時間調整がうまく出来なくてごめんなさいね」

マヤリィは言う。実戦訓練を行っているのは本当だが、それはルーリをシャドーレに会わせない為のカモフラージュである。

しかも、実戦訓練をするよう命じたのは今朝のことだ。


「今回はラピスラズリ対タンザナイトよ。私は書類仕事があるから、審判はルーリに任せるわ。シロマは二人に『無感覚』魔術をかけた後、回復役としてその場にいて頂戴」

『無感覚』とは、以前ジェイ・ルーリペアVSネクロ・シャドーレペアという組み合わせの実戦訓練の際にマヤリィが使った魔術で、かけられた者は痛みを感じなくなる。痛みを恐れることなく、相手を戦闘不能にするまで勝負を続けろという本気の実戦訓練である。

「わ、わたくしとタンザナイト様が戦うのですか…?」

マヤリィの言葉を聞いて、真っ先に震える声を上げたのはラピスだった。

「落ち着いて下さい、姉上。貴女と戦ってみたいと女王様にお願い申し上げたのは僕です」

タンザナイトは真顔で言う。

「しかし、常識的に考えてもそうするべきですよね?毎回ルーリ様のお力をお借りするのは畏れ多いことですから、この先の実戦訓練は『姉妹』で行うのが最善だと考えたんです」

「で、ですが……」

ラピスはタンザナイトの魔力が怖くて仕方ない。

「…ラピス。これは私の命令よ。確かにタンザナイトは強いけれど、貴女には黒魔術の力がある。勝敗ではなく、全力を尽くすことだけを考えて訓練に臨みなさい」

「はっ。畏まりました、ご主人様…」

ラピスは『命令』という言葉に反応し、素直に頭を下げた。

「…ナイト。此度の貴女の申し出、有り難く思うわ。有意義な時間を過ごして頂戴」

「はっ。勿体ないお言葉にございます、女王様。一刻も早く流転の國の戦力となる為にも、全身全霊でラピス殿に挑ませて頂く所存です」

タンザナイトは真顔で頭を下げる。

「良いでしょう。…ルーリ、シロマ、後は任せたわよ」

「はっ。畏まりました、マヤリィ様」

「全力でお二人のサポートをさせて頂くことをお約束致します」

シロマは『流転の星杖』を握りしめ、深くお辞儀した。

マヤリィはそれを見て安心すると、シャドーレを出迎えに行ったのだ。


「実戦訓練にございますか…。懐かしいですわね…」

シャドーレは流転の國で過ごした日々を思い出す。しかし、実戦訓練のことを思い出そうとすると、記憶に靄がかかったような感覚に陥った。

「畏れながら、マヤリィ様。今からでも実戦訓練を見学させて頂けないでしょうか…?」

(そう言うと思ったわ、シャドーレ)

ルーリに関する記憶を『消去』されたシャドーレは、ルーリが参加した実戦訓練の記憶も朧げである。そこで、流転の國の皆に会えばあの日のことを明確に思い出せると考えたのだ。

勿論、マヤリィはそれを見越していた。その上で、二人を会わせない為の方法も考えてある。

「分かったわ。では、今から行きましょうか。…今日は結界部屋ではなく訓練所でやっているのよ。片方は貴女も会ったことのあるラピスラズリ。もう一人は新顔で、名前をタンザナイトと言うの。回復役は勿論シロマで、今日は新しい魔術具を持っているのよ。それに…」

マヤリィは転移の前の長話をしている間、器用にも『念話』を送った。

《こちらマヤリィ。…ジェイ、速やかに作戦を実行して頂戴。私は今からシャドーレを連れて訓練所に転移するわ》

《こちらジェイ。了解しました、姫。直ちに行動を開始します》

自室で待機していたジェイはマヤリィの念話を受けて訓練所に転移した。

「ルーリ、二人の様子はどう?」

「遅かったな、ジェイ。二人とも、なかなか良い感じだぞ。最初こそラピスは緊張していたが、今はだいぶ身体が動くようになってきたようだ」

審判を務めているルーリは二人の健闘を興味深そうに見ていた。

「…そうか。それなら良かったよ」

その直後。

「っ…」

ジェイはマヤリィから渡された『意識喪失』魔術が込められた宝玉を発動する。完全に不意を突かれ、ルーリは意識を失った。

(悪いね、ルーリ。本意ではないけど、姫の命令に逆らうわけにはいかないんだ)

気を失ったルーリを素早く『透明化』させると、ジェイはシロマに気付かれる前に自分から声をかける。

「シロマ、お疲れ様。ちょっといいかな?」

「ジェイ様、いらしていたのですね。…あら?ルーリ様はどちらに?」

「たった今マヤリィ様から念話が入って、玉座の間に呼ばれたんだ」

ジェイは平静を装って言う。

「でも、実戦訓練の途中に審判が欠けるわけにはいかないからといって、代わりに僕が引き受けることになったんだよ」

「…そうだったのですか」

ジェイの言葉をシロマは素直に信じる。

「あと、今からシャドーレが実戦訓練の見学に来るらしい。シロマ、彼女の相手をお願い出来るかな?」

「っ…シャドーレ様が…?」

その瞬間、ジェイがここに現れた本当の理由に気付くシロマ。

「全てはマヤリィ様の命令だ。我が國の国家機密を守る為にも、確実に任務を遂行してくれ」

『ルーリの存在を知られることなく気取られることもなく、実戦訓練の見学に来た桜色の都のシャドーレの相手をする』。それが今のシロマに与えられた任務だ。

「畏まりました、ジェイ様。ご主人様の御為、今度こそ任務を完遂してみせます」

西の国境線の一件から失態続きのシロマは『流転の星杖』を握りしめ、マヤリィの側近を前にそう誓うのだった。


その後、シャドーレを連れて訓練所に現れたマヤリィは、

「ごめんなさいね、シャドーレ。私も書類仕事が山積みになっているから、ここで失礼するわ。…自慢の配下達の魔術をゆっくり楽しんでいって頂戴」

「ありがとうございます、マヤリィ様。本日は多忙な折、訪問をお許し下さり深謝致します」

シャドーレはそう言って深々と頭を下げる。

「…ジェイ、シロマ、この先は任せたわよ。桜色の都からの『お客様』に対して失礼のないようにね」

「はっ!」

そして、マヤリィは『意識喪失』と『透明化』の魔術をかけられたルーリを連れて、そっと転移するのだった。

(それにしても、さっきの姫の言葉…)

ジェイはマヤリィが言った『自慢の配下達』という言葉が『自慢の娘達』という意味に思えてならなかった。

「シロマ様、ご無沙汰しておりますわ。そちらが新しい魔術具ですの?」

シャドーレは早速シロマが持つ『流転の星杖』に興味を示している。

(…いや、今は目の前のことに集中しないと)

シロマとシャドーレの会話を聞きつつ、自分もマヤリィの命令を確実にこなさなければならないとジェイは思った。

シャドーレが来る日をジェイにしか伝えていなかったマヤリィ。

事前に『作戦』について知らされていたのもジェイだけで、流転の國を訪れた彼女が実戦訓練を見学したいと言い出すのは想定内のことでした。

全てはマヤリィ様の掌の上。


『「シャドーレを迎える際には私も同席させて頂きたいと存じますが、お許し頂けますでしょうか?」』

愛するルーリの願いよりも流転の國の方針を優先させた女王様です。

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