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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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㉖タンザナイト

「失礼致します、女王様」

マヤリィの声を聞いて玉座の間に入ってきた人物に皆が注目する。

白い背広に青いネクタイを締め、白いビジネスシューズを履いている。ライトブラウンの短髪に同じ色の瞳をしており、歳は高校生くらいに見える。…と言っても、この世界に存在する言葉しか知らないルーリには通じないだろうが。

「よく来てくれたね。…早速だけど自己紹介をしてもらえるかな?」

疲れきったマヤリィの代わりにジェイが応対すると、

「畏まりました、ジェイ様」

そう言って一礼し、皆の前で自己紹介を始めた。

「流転の國の皆様、初めまして。僕の名前はタンザナイト。女王様により造り出されしホムンクルスにございます。書物解析魔術の適性を与えられ『流転の羅針盤』を賜りました。一刻も早く流転の國の戦力となる為にも積極的に書庫を使わせて頂き、魔術を習得する所存です。皆様、どうぞよろしくお願い致します」

『流転の羅針盤』は今作の冒頭で流転の國から別の世界へ『異世界転移』した書物の魔術師ミノリが使っていたマジックアイテムである。

「畏れながら、ご主人様。貴女様によって造られたということは…タンザナイト様はわたくしのきょうだいにございますか?」

「ええ、そうね」

真っ先に発言したラピスに対し、珍しくマヤリィは優しげな表情を向ける。

「私が造り出したのだから、ある意味では貴女もタンザナイトも私の娘ということになるわね」

「えっ…?」

「娘…!?」

今日初めてタンザナイトを目にしたシロマとクラヴィスが驚く。

「…まぁ、この見た目では仕方ありませんね。僕の外見に関しての詳細は女王様から伺って下さい」

彼女は動揺するどころか、自分よりも格上の二人に対し、堂々とした態度で応じた。

「い、いえ…そのような畏れ多いことはとても……」

何か話したらまたご主人様を怒らせそうで怖いので、シロマはそう言ったきり黙り込む。

「ラピス殿にお会いするのも今日が初めてですね」

タンザナイトはシロマの反応を気にすることもなく、ラピスに話しかける。

「はい…!タンザナイト様、どうぞよろしくお願い申し上げます」

「こちらこそよろしくお願いします、ラピス殿。…いえ、姉上とお呼びした方が良いでしょうか?」

「と、とんでもございません…!ラピスでお願いします!」

そんなやりとりを見ながら、

(姫は一体どうやってホムンクルスを造っているんだろう…)

改めてジェイは不思議に思った。

一方で、

「畏れながら、マヤリィ様。タンザナイトはラピスよりも年下なのでしょうか…?」

ルーリはまだ年齢のことを気にしていた。ホムンクルスなのだから年齢はあくまで『設定』なのに。

「いいえ。一応同い年にするつもりで造ったから、タンザナイトも19歳という設定よ」

「19歳、にございますか…」

見た目も性格も全く違う二人だが『設定』としては双子らしい。

「ナイト、こちらへいらっしゃい」

「はっ。女王様、何でございましょうか?」

タンザナイトは素早くマヤリィの前に跪いた。

「…前にも言ったはずだけれど、その呼び方はどうにかならないのかしら?」

「申し訳ございません。…では、母上様」

「違うわ。名前で呼びなさいと言っているのよ」

マヤリィは頭を抱える。何度矯正しようとしてもナイトは自分を女王様と呼ぶ。

「姫、一人くらい貴女のことをそう呼ぶ者がいても良いのではないですか?」

その時、ジェイが二人の間に立つ。

玉座の間なのにうっかりマヤリィをいつものように『姫』と呼んでいる。

「…貴方がそう言うなら良いことにするわ」

マヤリィはあっさり頷くと、

「タンザナイト。明日、貴女にはルーリと実戦訓練をしてもらうわよ」

以前ラピスが壊れたルーリとの実戦訓練。ジェイはあれを思い出すと今でもラピスが可哀想になるが、実際は完全に壊れていたから本人の記憶には残っていない。

「はっ。畏まりました。…ルーリ様、よろしくお願い致します」

「ああ。『流転の羅針盤』を引き継いだというお前の魔力に期待しているぞ」

「はっ。明日は全力で貴女様に挑ませて頂きます」

常に冷静で、相手が誰であっても物怖じしない性格。マヤリィに厳しくされるとすぐに怖がるラピスとは対照的だ。

(こっちも可愛いな…。さすがはマヤリィ様の娘…)

ルーリさん、既にサキュバスの本性が出かかってるよ。

「…では、新しい配下の紹介も出来たことだし、今日はこの辺りで解散しましょう。後は自由時間にして頂戴」

「はっ!」

マヤリィの一言で皆は解散した。


「…姫、お疲れ様でした。すぐに部屋へ戻りましょうか?」

ジェイはずっとマヤリィの心配をしていた。

「ええ、そうするわ。貴方も一緒に来て頂戴」

「はい、勿論です!」

マヤリィはそれを聞くと、ルーリに言った。

「ルーリ、後は任せても良いかしら。…もう脅威は去ったから、二人と仲良くしても大丈夫よ」

元々、桜色の都の危機を救う為の戦力として生み出されたはずのラピスラズリ。では、タンザナイトは何の為に造られたのだろう?

「黒魔術に書物解析魔術。貴重な魔術の使い手を私達は立て続けに失ったわ。二人には、それぞれネクロとミノリの後任として、魔術を習得してもらうつもりよ」

その言葉に納得した後で、ルーリは訊ねる。

「畏れながら、マヤリィ様。ラピスの『無効化』魔術は今もそのままなのでしょうか…?」

どんなに強大な魔術でも一度だけその命と引き換えに防ぐことが出来るという、ラピスの身体に施された無効化魔術。

「ええ、そのままにしてあるわ。それに…」

そう言ってマヤリィはタンザナイトを見る。

「はい。ラピス殿と同じく、僕も無効化魔術を使役することが可能です。戦力増強の為のホムンクルスである以上、仲間ではなく『物』として扱われるのが正しいと思っております」

ジェイもルーリも口に出来なかった、流転の國におけるホムンクルスの存在意義を淡々と話すタンザナイト。

「…さすがね、ナイト」

今の言葉を聞いたマヤリィは期待通りだと言わんばかりの笑顔でナイトを抱きしめる。

「女王様っ…?」

こういうことには慣れていないと見えて、初めてナイトのポーカーフェイスが崩れる。

「貴女のような者がいてくれれば我が國は安泰よ。…けれど、平和な日々が続く以上は何も心配しないで過ごして頂戴」

桜色の都での任務という脅威が去った後のマヤリィはラピスに対しても優しかった。

「畏れながら、女王様。こののち、僕は何をすればよろしいでしょうか?どうか、ご命令を下さいませ」

「いえ、今は何もしなくていいわ。私はこれから自分の部屋に戻るから、貴女達はルーリと一緒にいて頂戴」

「ルーリ様と…?よろしいのですか?」

「ええ。城の中を見て回るのもいいし、貴女達の好きに過ごしなさい」

「はっ。畏まりました、女王様」

タンザナイトは真顔でお辞儀する。

「…ルーリ。そういうことだから、後は任せたわよ」

「畏まりました、マヤリィ様。どうか、ごゆっくりお休み下さいませ」


そして、マヤリィとジェイが『転移』した後。

ルーリは二人を見ながら考える。

「さて、これからどこに行く?ナイトを衣装部屋に連れて行きたい気もするが…」

「いえ、結構です。ルーリ様のお誘いはとても嬉しいですが、僕はこの格好が一番落ち着きますので」

即座に断られた。

「タンザナイト様はドレスはお召しにならないのですか?」

「ドレス?僕が着るわけないでしょう?」

同格のラピスに対しては、より切れ味の鋭いタンザナイト嬢。


「…それにしても、どういうコンセプトでタンザナイトのキャラデザをしたんですか?」

マヤリィの部屋に戻った後、ジェイが聞く。

一人称は『僕』だし、男物の服を着ているし、シロマとクラヴィスが驚いたのも無理はない。

「色々と迷走した結果、日本人(わたしたち)に近い容姿にしようと決めたのだけれど、男子にしたつもりが女子になっていたの」

「えっ?本当は男の子の予定だったんですか…?」

「ええ。私も驚いたけれど、本人は気にしていないって言うから…」

マヤリィは最初の会話を思い出す。

「さぁ、目覚めなさい。そして、私に絶対の忠誠を誓い、流転の國の為に働くのよ」

その直後、ホムンクルスは目を開けた。

「流転の國の女王様でいらっしゃいますね?…畏れながら、僕の名前を教えて頂けませんか?」

(ラピスに比べると話が早いわね…)

マヤリィは淡々と話すホムンクルスに満足しながら、名前を付ける。

「貴方の名前はタンザナイト。書物解析魔術を専門とする魔術師よ」

「ありがとうございます、女王様。一刻も早く貴女様のお役に立てるよう、全身全霊で働かせて頂く所存です」

「ええ、期待しているわ」

「はっ」

最初のやりとりを終えると、マヤリィはタンザナイトの容姿を確かめはじめた。

白いスーツは以前シャドーレが着ていて格好良かったので着せてみたのだが、身長はマヤリィと同じくらいである。

ライトブラウンの短髪に同じ色の瞳。ラピスと同い年かつ日本人の容姿に近付けようとした結果、予想よりも幼い顔立ちになってしまった。

それでも、頭脳明晰で冷静沈着な性格という点はクリアしているようだし、書物解析魔術についても理解しているみたいだし、これは大成功と言って良いのではないかとマヤリィは自己評価した。

「後で私の側近を紹介するわね。…特にジェイとは男同士、気が合うと嬉しいわ」

マヤリィがそう言うと、タンザナイトは不思議そうな顔をした。

「畏れながら、女王様。僕は……」

「あら、どうかしたの?」

「僕の性別は女なのですが、男同士とは…?」

先ほどとは違い、言いづらそうに言葉を繋ぐタンザナイト。

「貴方…女の子なの?」

「はっ。…女王様の御前で大変失礼ながら、服を脱がせて頂きます」

戸惑うマヤリィの前で、タンザナイトは上に着ていた服を全て脱いだ。

「あら……」

(私と同じくらいだけれど、確かに胸があるわ)

マヤリィはその時初めて、製造過程で性別が違ってしまったことに気付く。

ていうかマヤリィ様、本当にどんな方法で人造人間を作っているんですか?

「…そうだったのね。分かったから、もう服を着ていいわよ」

「下は確認しなくてよろしいのですか?」

「ええ。いずれサキュバスに襲われるでしょうから、今は見せなくていい」

「はっ。畏まりました」

(これは…どうしたものかしら)

マヤリィが考えている間に、タンザナイトは素早く服を着た。慣れた手付きでネクタイを締め、白いジャケットを着る。

「…ねぇ、タンザナイト?」

「何でございましょうか?女王様」

「私は男性のホムンクルスを造るつもりでいたの。…でも、出来上がった貴女は女の子。今から胸のサイズを大きくするのは難しいけれど、衣装部屋に行って服装だけでも変えましょうか」

マヤリィは何となく悪いことをした気分になった。

しかし、

「いえ、その必要はございません。僕は女王様が選んで下さったこの服装が気に入っておりますし、男女の差など気にしてはおりませんので、どうかお気になさらないで下さいませ」

タンザナイトは戸惑いもせず動揺した様子も見せず、マヤリィをフォローしてくれた。

「タンザナイト…。ごめんなさいね…」

「僕のような者に謝らないで下さい。女王様は流転の國の頂点に立つ御方にございます。こうしてお話をさせて頂けるだけで、僕は最上の幸せを感じております」

その時、初めてタンザナイトは笑顔を見せた。

マヤリィはそれを見て安心するが、

「…ところで、貴女はなぜ私のことを女王と呼ぶの?出来たら名前で呼んでくれると嬉しいのだけれど」

そういえば、彼女は最初からマヤリィを『女王様』と呼んでいる。

「それとも、私の名前を知らないのかしら?」

「いえ、存じ上げております」

タンザナイトはそう言ってから、

「されど、女王様と呼ばせて頂きたく存じます。お許し頂けませんか?」

こういう時に限って可愛い顔を見せる。

(このあざとさはどこから来るのかしら。設定したはずないのに…)

どう考えても貴女に似たんですよ、マヤリィ様。

「…考えておくわ」

マヤリィはそれしか言えなかった。

「…成程。それでいまだにタンザナイトは姫のことを女王様と呼んでいるというわけですか」

タンザナイトが目覚めた時の話を聞いたジェイは納得する。

「貴女の御名を呼ぶのが畏れ多い、とかでしょうか?」

「さぁ?今度ナイトに聞いてみて頂戴」

マヤリィはそろそろ訂正するのが面倒になってきたらしい。

「…でも、第一印象といい、先ほどの玉座の間でのやりとりといい、素晴らしいホムンクルスだと思いますよ。これで『流転の羅針盤』を使いこなしてくれたら言うことはないですね」

ジェイはタンザナイトを絶賛した。

彼女がこのまま順調に書物解析魔術を習得し、ミノリのポジションを引き継いでくれたら、頼もしいことこの上ない。

マヤリィは少しの間黙っていたが、

「貴方がそう言ってくれるなら安心ね」

ようやく安堵の微笑みを見せた。

さらっと「そのうちサキュバスに襲われる」とか言ってるマヤリィ様。

ルーリはバイ・セクシャルなので襲う相手は男女問いませんが、最近は美女ばかり抱いている模様。


桜色の都の脅威が去り、ラピスラズリに対しても優しく接するようになったマヤリィ様です。



キャラクター紹介

●タンザナイト(時々ナイトと呼ばれる)

年齢:19歳(という設定)

性別:女性

職業:マヤリィの娘

身長:160cm

適性:書物解析魔術

魔術具:流転の羅針盤(ミノリから引き継ぐ)

種族:人造人間(ホムンクルス)

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