表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/63

⑲ルーリの心

マヤリィ様は私が永遠の愛を誓った大切な女性(ひと)


そのような御方を苦しめた奴を私は許すことが出来るのだろうか?

「マヤリィ様、傷のお具合はいかがでしょうか…!?」

厳しい表情でシロマに『ダイヤモンドロック』を渡したルーリは、打って変わってマヤリィの元へ駆け寄る。

「私もご一緒させて頂くべきにございました。貴女様をお一人で行かせてしまったことを後悔しております」

ルーリは今にも泣きそうな顔でマヤリィを見る。

「貴女様がお疲れでいらっしゃることを知りながら、私は何もして差し上げることが出来ませんでした。本当に申し訳ございません、マヤリィ様」

その場に跪き、頭を下げるルーリ。

「いいえ、それは違うわ。貴女は最高権力者代理として立派に務めを果たしてくれた。貴女のお陰で、私は安心して桜色の都に行けたのよ」

マヤリィは優しい声で言う。

「それに、一人でシロマの所に行くと言ったのは私。大丈夫だと思っていたのに、結果的に貴女を悲しませることになってしまったことを許して頂戴、ルーリ」

ベッドの上に座っているマヤリィがそう言って手を広げると、ルーリはすぐに彼女を抱きしめた。

「マヤリィ様…!」

今にもどこかへ行ってしまいそうな儚さを身に纏うマヤリィ。『宙色の魔力』がある以上、その『どこか』に行くのは簡単なことだとルーリは分かっている。だからこそ、マヤリィをこの世に繋ぎ止める為に抱きしめる。優しく。

マヤリィはそのまま黙り込んだ。

ルーリもしばらく何も言わなかった。

ジェイはただマヤリィを支えている。

シロマは魔術具を手にしたまま動かない。

クラヴィスはどうしたら良いか分からないでいる。

「…マヤリィ様。畏れながら、貴女様から賜った『宝玉』を発動させて頂いてもよろしいでしょうか?」

ルーリは縋るような瞳でマヤリィを見る。

「私の『宝玉』…?」

「はっ。貴女様の魔術が込められた宝玉にございます。私は今使うべきであると判断致しました」

それを聞いたマヤリィは思い出したような顔をした後、微笑みながら頷いた。

「ええ、使って頂戴。まさか私が発動される側になるとは思わなかったけれど」

「姫、その宝玉って…」

「そうよ。貴方も知っているわね」

ジェイも気付いたらしい。

ルーリは自分が一番先に気付いたことを嬉しく思いながら、宝玉に込められた魔術を発動した。

「では、失礼致します。『完全回復』魔術、発動せよ」

ルーリの掌の上で宝玉が光り輝いたかと思うと、マヤリィの腕に巻かれた包帯がほどけ始め、先ほどナイフで切った傷が現れる。しかし、それは次第に薄くなり、やがて消えてしまった。

「…………!」

一番驚いているのはシロマである。なぜ、ダイヤモンドロックを返してもらった時点でこれを思い付くことが出来なかったのだろう。

「ルーリ、助かったわ。今の私にはとても『宙色の魔力』を用いて白魔術を発動する気力は残っていないし、シロマも疲れているでしょうから」

戸惑うシロマの視線を感じたマヤリィは精一杯のフォローをする。

一方、ジェイは納得したように頷く。

「…成程。そういうことでしたか」

マヤリィに白魔術は効かないと思い込んでいたが、その理由が分かったのだ。

「今ルーリが治したのは、姫が流転の國で顕現させたナイフによる傷でした。元いた世界で負った傷の痕や、そこで発症した精神病に白魔術は効かなくても、この世界で負った傷は治すことが出来るんですね」

「ええ、そうみたいね」

マヤリィも自分に白魔術は効かないと思い込んでいたので、ジェイの言葉を聞いて納得するが、

「…けれど、過労は癒せなかったわね」

残念そうに言う。

以前、マヤリィは何度か倒れたことがある。

「過労は…この世界に存在しないのでは?」

ジェイは少し考えてそう言った。

「確かにそうね…。やはり、私に白魔術は効かないと考えた方が良いかもしれないわ」

マヤリィはそう言いつつ、既に物凄い疲労感に襲われている。

そして、

「…ルーリ、後は任せても良いかしら?」

何も言えずにその場にいるシロマとクラヴィスを見て、マヤリィは言う。

「ここまでひどい症状が出てしまった以上、二人にも私の精神病と自傷行為の関連性について詳しく説明しておいて欲しいの」

初めてマヤリィの精神が崩壊する様子を目の当たりにした二人は、今も何が起きたか把握出来ずに混乱していることだろう。

「畏まりました、マヤリィ様。貴女様のご病気について理解が追い付かない者達には、私が責任を持って説明させて頂くことをお約束致します」

ルーリは跪き、頭を下げる。

「貴女になら安心してお願い出来るわ。よろしく頼むわよ、ルーリ」

「はっ!」

この流れで行くと、疲れきったマヤリィを介抱するのはジェイの役目である。

《ルーリ、シロマを泣かせたりしないでね?》

ジェイはダイヤモンドロックを返した時のルーリの形相を思い出し、そっと念話を送る。

しかし、

《さぁ?それは約束出来ないな。私に与えられた命令は、マヤリィ様のご病気についてこいつらに説明することだ。仲間だからと言って、仲良しごっこをしている場合ではない》

ルーリさん、既にこいつらとか言っちゃってるよ…。

《そ、そうだね…》

ジェイは説明を受けるのが自分でなくて良かったと思いながら、

《姫のことは僕に任せて。さっきは宝玉を使ってくれてありがとう》

ジェイは、ルーリにだけ託された『完全回復』の宝玉を発動してくれたことに感謝していた。

二人が念話で会話していると、

「…では、貴女達は玉座の間へ。私はジェイと一緒に自分の部屋に戻るから、何かあったら念話を送って頂戴。…たぶんジェイが応答してくれるわ」

マヤリィ様、既に寝る気満々ですね…。

「畏まりました、マヤリィ様。…それでは、お先に失礼致します」

「…ご主人様、今回の度重なる非礼に関しては……」

「その件は後だ。行くぞ」

シロマの言葉を途中で遮り、ルーリは二人を連れて玉座の間に転移した。

そして、第4会議室に残ったマヤリィとジェイ。

「ジェイ…。これから行くのは私の部屋ではなくて、第2会議室でも良いかしら?」

マヤリィは疲れた顔をしながらも、甘く優しい声でジェイを誘うのだった。

マヤリィに対しては、限りなく優しいルーリ。

結果として主を苦しませる原因となった者に対しては、限りなく恐ろしいルーリ。


『流転の國のNo.2』はご主人様よりも厳しく威厳ある人物です。


絶対に敵に回したくない人を完全に怒らせたシロマの運命や如何に?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ