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①異世界転移

ここは流転の國。

現代日本から突然『異世界転移』によってこの場所に顕現したマヤリィが最高権力者を務める不思議な國である。

マヤリィは顕現した瞬間に、この世界に存在する全ての魔術を司る『宙色の魔力』を与えられた。


「ミノリ様、しっかりなさって下さい!!」

今、ミノリの部屋ではシロマが必死に回復魔法を発動していた。

シロマもまた『異世界転移』によって流転の國に顕現した者であり、元いた世界では冒険者として旅をしていたという。

「『ダイヤモンドロック』よ、我が願いを聞き届け、病に陥りし御方を救い給え」

今の彼女は白魔術師。原因不明の体調不良に悩むミノリに最上位の白魔術を施している。

「ミノリ、具合はどうかしら!?」

そこへ、マヤリィが『空間転移』を使って現れる。

「シロマ、代わるわ。少し休みなさい」

「はっ。申し訳ございません、ご主人様」

マヤリィが魔力を発動する時、彼女が装着しているマジックアイテムである『宙色の耳飾り』が輝き始める。本来の魔術適性は幻系統魔術だが、宙色の魔力を発動すれば回復魔法も使えるのだ。

「っ…これは違うわ…!ミノリは病気ではない…!」

「ご主人様…!?」

マヤリィがそう言って魔術を止めると、シロマが驚いてミノリを見る。

「シロマ!すぐに皆をここに集めて頂戴。時間がないわ!」

「畏まりました、ご主人様!」

こんなにも切羽詰まった様子のマヤリィを見るのは初めてだった。

シロマは流転の城にいる仲間達に『念話』を送る。

《こちらシロマです!皆様、至急ミノリ様の部屋までお越し下さい!これはご主人様のご命令にございます!》

緊急事態を知らせる念話を受け取った皆は次々とミノリの部屋に転移してきた。

「ミノリ!大丈夫か!?」

部屋に現れるなりミノリの傍に駆け寄ったのはルーリだった。彼女は人間と変わらない姿をしているが、その正体は『魅惑魔法』を自在に操る特殊能力を持つ夢魔である。

「マヤリィ様、ミノリはどうなるのでしょうか…!?」

ともにマヤリィに仕えてきた仲間の異変に、ルーリは動揺していた。体調不良とは聞いていたが、念話で呼ばれるほど状態が悪いとは知らなかった。

「ミノリ…!」

マヤリィの側近である風系統魔術師ジェイも心配そうにミノリの名を呼ぶ。

「シロマ、ミノリ様は一体どうなさったのですか…!?」

クラヴィスは「元いた世界」を同じくするシロマに状況を訊ねる。

「皆、よく聞いて頂戴」

何が起こっているのか分からず混乱する配下達に向かって、マヤリィは説明する。

「貴方達は皆、突如としてこの國に顕現した。ある者は元の世界を持ち、ある者は元の世界を持たないという違いはあるけれど、突然の顕現だったことは皆同じよ」

ジェイやシロマ、クラヴィスは「元いた世界」から異世界転移した。

ルーリは「元いた世界」を持たず、この國に顕現した瞬間が彼女の始まりだと言う。

そして、ミノリは……?

ミノリがどこから来たのかは主であるマヤリィも知らない。

「そして、今ミノリはここではない世界に転移しようとしているわ。流転の國とは違う場所に『異世界転移』しようとしているの」

「そんな…!」

マヤリィの説明を受けた配下達はさらに戸惑う。

「これは、クラヴィスが顕現する直前と同じ、ある種の予感…。恐らく、体調不良だと思っていたのは異世界転移の前兆だったのでしょう」

クラヴィスは皆よりも遅れて流転の國に顕現した。マヤリィは彼が現れることを事前に感じ取り、その瞬間を待っていたのだ。

そして今、流転の國から異世界転移するという初めての現象が起きようとしている。

「ミノリ!お前はどこへ行くと言うんだ!?」

ルーリはミノリの傍を離れない。

「異世界転移って…何なんだ…!?」

元の世界を持たないルーリには理解しがたい現象だが、ミノリはどうやら自分の運命を悟ったらしい。

「ご主人様、ミノリはやっと分かりました。こんな日が来るとは思いもしませんでしたが、ミノリは流転の國を去らなければならないのですね…」

ミノリはそう言うと、一番近くにいるルーリの手を取った。

「ルーリ、異世界転移は怖いことじゃないわ。だって、元々ミノリはそれによって流転の國に来たんだもの」

ミノリは元いた世界について話そうとするが、あまり時間は残されていない。その説明の代わりに、ミノリは残された時間を使って皆に挨拶することを選んだ。

「ご主人様、今までお世話になりました。流転の國に魔術師として顕現し、貴女様にお仕えした日々はミノリの一生の宝物でございます」

それを聞いたマヤリィは涙ぐむ。もっと早くこの現象に気付いていたら、こんなに慌ただしくミノリを見送ることもなかったのに。

「…ミノリ。私は貴女のような配下を持てたことを誇りに思うわ。流転の國に顕現してから今まで、本当にご苦労だったわね」

「勿体ないお言葉にございます、ご主人様」

ミノリはそう言って頭を下げると、ルーリの手を力強く握る。

「ルーリ、シロマ、あの時はミノリの命を救ってくれてありがとう。流転の國で貴女達に出会えて本当によかった…!」

かつて二人は瀕死の状態だったミノリを救ったことがある。そして、流転の國に顕現した時からずっと一緒に過ごしてきた仲間だ。

「ミノリ…私もお前に会えてよかったよ。お前のこと、絶対に忘れないからな」

「私もです、ミノリ様。どうか、お元気でお過ごし下さいね…!」

シロマもミノリの手を握る。

「ジェイ。ご主人様のこと、よろしく頼んだわ。これでも、頼りにしてるのよ?」

「ありがとう。マヤリィ様は僕が必ず守るから、心配しないで」

「クラヴィス。また桜色の都に行ったら、その時は……」

ミノリはその先が言えなかったが、

「分かりました、ミノリ様。流転の國を去る直前まで、ミノリ様はシャドーレ様のことを想っていたとお伝えします」

クラヴィスはミノリの気持ちを受け取った。

現在、隣国に暮らすシャドーレはかつて流転の國でともに過ごした仲間。そして、ミノリにとっては仲間以上の存在だった。

クラヴィスの言葉を聞くと、ミノリは安心した表情になる。

その直後、

「ご主人様、もう…時間がないようでございます…」

「ミノリ…貴女はいつまでも私の大切な配下よ。いつだって、貴女の幸せを願っているわ」

マヤリィはミノリを抱きしめる。

「ありがとうございます、ご主人様…!遠く離れた世界に行こうとも、ミノリは永遠に貴女様の配下にございます…!」

「ミノリ…!!」

そして、次の瞬間、ミノリの姿は消えた。

「『魔力探知』…。今はしたくないわ…!」

しなくても、マヤリィには分かってしまう。

もうミノリの魔力はどこにもなかった。

ただ、彼女が使っていたマジックアイテム『流転の羅針盤』だけがその場に残されていた。

突然の『異世界転移』。

元いた世界がどこなのか明かされぬまま、ミノリは流転の國から異世界へと旅立ちます。

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