表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/63

⑯女王の帰還

「お帰りなさいませ、マヤリィ様」

「姫、此度は本当にお疲れ様でした」

マヤリィが流転の國に帰還すると、玉座の間に待機していたルーリとジェイが迎えた。

「ルーリ、最高権力者代理の務めをよく果たしてくれたわね。ご苦労だったわ」

「はっ。勿体ないお言葉にございます、マヤリィ様」

ルーリはその場に跪き頭を下げる。

「ジェイ……」

「分かっていますよ、姫」

ジェイはマヤリィを抱きしめる。

「ずっと貴女にお会いしたかったです。そして…寂しかった」

そう言って微笑むジェイを見たルーリは(やはりこいつには敵わないな…)と密かに思うのだった。

「…それで、シロマの様子はどうなの?」

マヤリィは一番の懸念事項を確認する。

「遠回しに『クロス』を批判したり、待機命令を破って現地に行こうとしたり、見過ごせない発言があったそうね」

「はっ。普段のシロマからはとても考えられない言動にございました。『長距離転移』の宝玉を持っていないとも限りませんので、念の為マジックアイテムを取り上げ、魔術の使用禁止及び自室待機を命じた次第にございます」

『宝玉』を使えば、誰でもそこに込められた魔術を発動することが出来る。今回は『クロス』の者が桜色の都の王宮と国境線を往復する可能性を考え、多めに『長距離転移』の宝玉を作成した。そして、それはクラヴィスにも幾つか持たせてある。

「シロマを疑いたくはないのですが…一応、彼女には前科がありますので、厳重な対応を取らせて頂きました」

かつて流転の國に侵入し、ユキとバイオという二人の仲間を殺した天使がいた。彼はまもなく自害に追い込まれたが、双子の妹を名乗る天使が翌日になって現れ、無謀にもマヤリィに戦いを挑んだ結果、彼女はマヤリィの配下になった。しかし、仲間を殺した男の妹である天使を配下に加えたことに対して、珍しくシロマが異を唱えたのである。

「確かに、あの時シロマはクラヴィスから『流転のリボルバー』を盗み出し、いつでも天使を殺せる状態にあると思い込んでいた。…実際は、私が配下(なかま)と決めた者に対して発砲しても効果はないのだけれど」

マヤリィにその事実を告げられ、優しく諭されたシロマはリボルバーをクラヴィスに返し、深く反省した様子だった。

マヤリィ自身が天使の処遇について悩んでいたこともあり、シロマの罪は不問とされたが、それでもクラヴィスのマジックアイテムを盗んだ事実は消えない。ルーリはその時のことを思い出し、シロマの言葉を信じきることが出来なかったのだ。

「ルーリ、貴女は最高権力者代理として正しい判断をしたわ。たとえシロマが長距離転移の宝玉を持っていたとしても、『ダイヤモンドロック』がなければ禁術クラスの白魔術を発動するには心許ないでしょうから」

マヤリィは言う。

「それと、ジェイに『魔力探知』を頼んだのも正解よ。マジックアイテムがなくてもシロマは魔術が使える。それも事実だものね」

「はい。シロマが自室待機を命じられた後、僕も自分の部屋に戻り魔力探知に専念しました。…最悪の事態を想定したルーリの決断は見事だったと思います」

もしシロマがマヤリィの命令を破って桜色の都に来るようなことがあれば、流転の國に帰還後、マヤリィ直々に罰を与えなければならなくなる。主の命令に背いた罪はとても重い。

そう考えれば、一見厳しいように思えたルーリの対応はシロマに罪を犯させない為だったとも言える。

「…これまでは気にしたこともなかったけれど、各自のアイテムボックスの中身を確認する必要が出てくるかしら」

マヤリィは誰が幾つ宝玉を持っているか、わざわざ記録に残すようなことはしていない。

シロマに長距離転移の宝玉を持たせた覚えはないが、クラヴィスが此度の任務の為に持たされたうちの一つを彼女に渡した可能性もゼロではない。考えれば考えるほど、疑惑は広がっていく。

(こうして考えていても仕方ないわね…)

マヤリィは帰ってきたばかりでとても疲れていたが、これは後回しにしたくない問題だ。

「報告ありがとう、ルーリ。ここまで聞いたら、後は直接シロマと話すしかないわね。…今も自室にいるかしら」

「はっ。クラヴィスには様子を見に行くよう命じましたが、シロマの自室待機命令は解いておりません」

心配そうな顔で答えるルーリを見て、マヤリィは優しく微笑む。

「私は大丈夫よ。二人とも、心配しないで頂戴」

「はい…。姫、くれぐれも無理はしないで下さいね」

ジェイはそう言うと、もう一度マヤリィを抱きしめる。

「マヤリィ様、私達はこちらで待機しております。何かございましたら『念話』をお送り下さいませ」

「ええ。頼りにしているわよ、ルーリ」

マヤリィは二人の顔を見て微笑むと、シロマの部屋の前に『転移』した。

そして、

「シロマ、私よ。今帰ってきたわ」

配下の部屋であってもいきなり中に転移することはせず、ドアが開くのを待つマヤリィだった。

ジェイやルーリの所へ行く際は直接部屋の中に転移することもありますが、その前には必ず《今から行ってもいいかしら?》と念話で確認するマヤリィ様です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ