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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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⑬魅惑

「ありがとうございます、マヤリィ様。私はこれより砂の王国に赴き、子供達を保護して下さったドラゴンの方々にご挨拶するとともに、今後の政策について説明して参ります」

緊急の現状打開策が纏まり、国会に出席した者がそれぞれの役割を果たしに動き始めた後、ヒカルはそう言った。

「分かったわ。確かに、ここは桜色の都の国王である貴方が行くべきね」

今回の一件は桜色の都の問題である為、これ以上流転の國の者が関与するべきではないとマヤリィは思った。

「はい。多大なご迷惑をおかけしている以上、私が誠意を持ってお話しなければなりません。…シャドーレも連れていきます」

既に王宮の者が集まってきて、砂の王国へ行く準備を急いでいる。厳戒態勢になるのは当然だが、ヒカルはシャドーレさえいれば不測の事態にも十分対応出来ると思っていた。しかし、必死の形相で準備を整える者達を目にしては何も言えず、支度を整えに行っているシャドーレを待った。

「私は別件であの国に用事を残してきたから、貴方達が帰ってきた後に『転移』するわ」

「別件にございますか…?」

「ええ。改めて砂の王国を訪れた後、色々とあったのよ」

クラヴィスの話を聞いた後、「砂の王国の内部を見てみたいから」と言って『転移』して先ほど戻ってきたマヤリィ。どうやら、彼女の興味を惹く何かがあの国にはあるらしい。

そこへ、

「お待たせ致しました、陛下。貴方様の御身はこのシャドーレが身命を賭して守らせて頂きます」

軍服に身を包んだシャドーレが現れた。

リュートと話し合いをした時とは真逆の完全防御態勢である。

「シャドーレ、随分と用心深いのね。あの国が安全であることは貴女が一番よく知っているのではないかしら」

「はっ。確かに砂の王国には我が国を敵視するような者は一人もおりませんでした。されど、此度の私の任務は話し合いではなく、陛下の護衛にございます」

シャドーレは言う。

いくらドラゴン達が善良であっても周囲が未知の砂漠である以上、警戒を緩めるわけにはいかない。

「貴方が一緒に来てくれるなら何も心配はありません。よろしく頼みますよ、シャドーレ」

「はっ。畏まりましたわ、陛下」

シャドーレはその場に跪き頭を下げるのだった。


《こちらルーリにございます。マヤリィ様、お忙しい中大変申し訳ないのですが、ご報告したい件がありまして『長距離念話』を送らせて頂きました》

ヒカルをはじめとした桜色の都ご一行を砂の王国に『長距離転移』させた後、ルーリから念話が入った。

《こちらマヤリィよ。貴女が連絡してくるなんて珍しいわね。流転の國で何かあったの?》

《はっ。私の取り越し苦労ならば良いのですが、シロマの言動に不可解な点がございまして…》

ルーリは事の顛末をマヤリィに報告した。

《留守を守るべき私達がこのような有り様で誠に申し訳ございません》

《気にしないで頂戴。貴女は最高権力者代理として正しいことをしたわ。ダイヤモンドロックがなくてもシロマは魔術が使えるでしょうから、ジェイに『魔力探知』を頼んだのも正解よ》

話を聞いたマヤリィはシロマのことが心配になったが、自分にはまだ用事が残っている。

《そういうことなら急ぎクラヴィスを帰國させるわ。『記録』を見たなら分かっているでしょうけれど、これは流転の國が解決するべき問題ではないの》

《はっ。クラヴィスが戻ってきてくれれば、シロマも落ち着くかもしれません。…ですが、マヤリィ様はいつお帰りになられるのでしょうか?》

この問題を解決しなければならないのは桜色の都なのに、なぜマヤリィはまだ帰らないのだろう。

《私はもう少し砂の王国に用事があるから、それを済ませたら帰るわ。…悪いけれど、引き続き流転の國を頼んだわよ》

《はっ。畏まりました、マヤリィ様》

マヤリィへの報告が終わると、ルーリは少し安心した。

「『念話』は終わりましたか?ルーリ様」

「ああ。マヤリィ様は今しばらく桜色の都に留まられるとのことだが、クラヴィスはすぐに帰ってくる」

ルーリは玉座の間に待機しているラピスと話している。

「クラヴィス様が帰られたら、シロマ様はお元気になられるでしょうか…?」

ラピスも様子のおかしいシロマを見ていたので、彼女なりに心配しているらしい。

「都に行く前からシロマはクラヴィスの身を案じていたから、少しは落ち着くと思うが…。お前は意外と心配症だな」

「申し訳ございません、ルーリ様。この件について、わたくしは何も言うべきではございませんでした」

「気にするな。マヤリィ様の御前では黙っていた方が良いだろうが、私に気を遣う必要はない」

「ルーリ様…!」

ラピスの碧い眼がうるむ。余程マヤリィが怖かったと見えて、ルーリの優しい言葉に泣きそうになっている。

「おいで、ラピスラズリ。今ここにいるのはお前と私だけだ」

「ルーリ様ぁ…!」

ぽろぽろと涙を流すラピス。その様子を見ていると、ますます彼女を『物』扱い出来なくなる。

「皆が何と思っているかは知らないが、私はお前のことが好きだ。…これはいけないことか?」

ルーリはラピスを抱きしめる。

「ルーリ様のなさることにいけないことなどないと思います。されど、わたくしは黒魔術を使役する為だけに生み出されたホムンクルス。流転の國のNo.2である貴女様にとっては、取るに足らない存在なのではございませんか…?」

「そんなことはない。お前のことをどう思うかは私の自由だろう?」

ルーリはそう言うとラピスの唇にキスをする。

「んっ……ルーリ様…」

既に『魅惑』魔術が発動している。

「今だけは私のラピスラズリだ」

「ルーリ様ぁ…」

あっという間に服を脱がされたラピスは嫌がる様子もなく、頬を染めながらルーリに身を委ねた。

『夢魔変化』したルーリは蠱惑的な微笑みを浮かべ、19歳という設定の可愛らしいホムンクルスを抱く。

玉座の間で何してるんですか、ルーリさん。

「ルーリ様ぁ……んっ………」

ラピスはブロンドの髪を振り乱し、初めての絶頂を迎える。

「そうか…お前は感情を持っているだけではなく、身体で感じることも出来るんだな…」

ルーリはそう言いながら、愛撫する手を止めない。サキュバスの技は止まらない。

「…後で衣装部屋に行こうか、ラピス」

快感のあまり気を失ったラピスを抱き上げたルーリは自分の部屋に『転移』し、彼女をベッドに寝かせると、すぐに玉座の間に戻ってきた。

そして『夢魔変化』を解くと、クラヴィスの帰還を待った。


「…あら?」

「どうかなさいましたか?マヤリィ様」

今まさに『長距離転移』を発動しようとしていたマヤリィは、遠く離れた流転の國にいるルーリの魔力を探知した。

(やってくれたわね、ルーリ…)

彼女が魅惑魔法を使ったことまで分かる。

(夢魔である貴女が誰を抱こうと構わないけれど、本命は私よ…!)

マヤリィ様、嫉妬は流転の國に帰ってからにして下さい。

「…クラヴィス。ルーリの『念話』によれば、シロマの様子が普段と違うらしいの。桜色の都のことはもう大丈夫だから、國に帰ったらシロマの傍にいてやってくれるかしら」

「はっ。畏まりました、マヤリィ様。シロマは体調でも悪いのでしょうか?」

クラヴィスは心配そうな顔で訊ねるが、マヤリィは報告を受けただけなので何とも言えない。

「そうね…。私にはよく分からないのだけれど、ルーリが念話を寄越すくらいだから何かあったのかもしれないわね」

マヤリィはそう言うと、今度こそ長距離転移の魔法陣を出現させ、クラヴィスを流転の國に帰還させたのだった。

ラピスは造られた存在ですが、前作のクロネとは違って人間らしい感情を持っています。

そんなラピスに好意を持ち、サキュバスの本能に従って彼女を抱いたルーリによって、エクスタシーを感じることも判明しました。


遠く離れた桜色の都で、流転の國にいるルーリが何の魔術を使ったか正確に分かるマヤリィ様。

いつものことながら、マヤリィに隠し事は不可能です。かと言って、咎められることもありませんが。

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