第126話 直訴
母上様を悲しませるような話なんてしたくない。
でも、万が一のことを考えると僕は不安なんだ…。
「女王様、こちらにいらっしゃいましたか」
「よくここが分かったわね、ナイト」
潮風の吹くカフェテラスに『転移』したタンザナイトはすぐにマヤリィの前に跪く。
「はっ。畏れながら、魔力探知をさせて頂きました。女王様にお話したいことがあるんです」
「私と話したいこと?…それは二人きりの方が良いかしら?」
タンザナイトの真剣な様子を感じ取ったマヤリィは場所を変えようとするが、
「いえ、出来れば…二人きりではない方が良いと思います」
そう言われて首を傾げる。
「私と話したいのに、誰かが一緒にいた方が良いと言うの?」
「はっ。僕は母上様ではなく、女王様とお話がしたいのです。出来ましたら側近の方に同席して頂きたいと思っております」
「嫌よ、ナイト。そういう話なら聞きたくないわ」
話の内容を察したのか、マヤリィは首を横に振った。
しかし、二人の会話を傍で聞いていたルーリは言う。
「畏れながら、マヤリィ様。私はタンザナイトの話がどのようなものなのか気がかりにございます。ここは聞いておくべきではないでしょうか…?」
ジェイはタンザナイトに訊ねる。
「君がわざわざ女王様と話したいって言ったのは、マヤリィ様個人ではなく、流転の國全体にかかわる話をしようとしているからだね?」
「はっ。その通りにございます、ジェイ様」
タンザナイトはそう言って頭を下げる。
「だから聞きたくないのよ。だって…貴女がこれからしようとしている話は…私を悲しませる内容でしょう…?」
「…………」
タンザナイトは返事が出来なかった。図星だ。
「ナイト、そうなのか?」
ルーリが聞く。ナイトは小さく頷く。
「はい。恐らくは…。しかし、今後の流転の國のことを考えれば早急に話さなければならないことと存じます」
ナイトは懸命に訴えるが、
「正直な話、僕もこんなことは話したくありません。母上様を悲しませてしまう話なんて…」
タンザナイトは女王の配下であるとともに、マヤリィの一人娘。二つの立場の間で葛藤している。
「姫は話の内容が何か分かっているんですか?」
ジェイが聞く。マヤリィは小さく頷く。
「ええ。恐らくは…ナイトがホムンクルスであることに纏わる話でしょうね」
心を読んだわけでもないのに、マヤリィはナイトの言わんとすることが分かってしまったのだ。
「女王様…なぜ……」
「…分かるに決まってる。だって…私は貴女の母親なのよ?」
マヤリィは自分も床に膝をつくと、ナイトを抱き寄せた。
「私は貴女が悩んでいるような気がしていたの。…先日の一件以来、ずっとね」
ジェイとルーリは黙って話を聞いている。
「もしかして、貴女は怖くなったのではないかしら。自分の持つ強大な魔力が、いつか誰かを傷付けるのではないかと」
「はい…。二人とも愛情絡みで暴走を起こし、流転の國を危機に陥れました。僕は決してそのようなことは致しませんが…万が一ということを考えると不安なのです。僕も彼女達と同じホムンクルスですので…」
ナイトは言う。
「不安に駆られて思い悩む中で一瞬だけ、僕は存在すべきではないのかもしれないと思いました。しかし、流転の國の戦力となる為に造り出され、母上様をお支えすると誓った者が自ら破壊されることを願うなんて…許されないことにございます」
「ナイト……!」
マヤリィはタンザナイトを抱きしめたまま、涙を流す。
「畏れながら、女王様。僕の魔力がいつか誰かを傷付けるかもしれない…そんな不安を取り除いて頂けないでしょうか?」
「不安を取り除く……?」
「はっ。万が一、僕が自分自身を制御出来なくなった時の為に備えて、お願いしたいことがあるのです」
「ナイト…。もしかして、それは……」
涙に濡れた瞳が悲しそうにタンザナイトを見つめる。
「はい。…貴女様は何でも分かっていらっしゃるのですね」
「分かりたく…なかったわ……」
「申し訳ございません、女王様」
ナイトはそう言って頭を下げると、
「決してクラヴィス様のお手を煩わせるようなことは致しません。ですので、どうかお願い申し上げます」
力強い眼差しでマヤリィを見つめ返す。
「『流転のリボルバー』の縛りを解いて下さいませ。…いつか、有り得ない日が来た時の為に」




