第125話 ルーリを止めろ
「ルーリ…本当にいいの?」
ここは第7会議室。ジェイは少し伸びた坊主頭を綺麗に刈って欲しいという夢魔の注文に困っていた。
「ああ。自分への戒めのようなものだ。皆を驚かせるのは本意ではないから玉座の間ではウィッグを被るが、一人になった時は本当の自分と向き合うことにする」
「そこまでしなくてもいい気がするけど…」
珍しくジェイが止めようとしている。
「大丈夫だ。伸ばそうと思えばいつでも伸ばせるしな」
ルーリはそう言って伸びかけの坊主頭に触り、
「さぁ、早くやってくれ。一番短い丸刈りにして欲しいんだ」
ジェイを急かす。
「桜色の都では、髪は女の命と聞いた。それを捨ててしまえば…たとえ夢魔でも『魅惑』を制御出来るかもしれないだろう?」
「だからって…ルーリを丸刈りにするなんて…」
「…ジェイ。よく考えてみろ。私はお前の愛する奥様を抱いた女だぞ?」
ジェイが悲しそうな顔をするので、ルーリはマヤリィを抱いた時の感触について語る。
「あの御方の美しい肌と華奢な身体つきが今も忘れられない…。あんなに細いと言うのにとても柔らかくて…夢魔の私でさえ虜になってしまうほど魅力的で…そっと愛撫すると可愛らしいお声を聞かせて下さるんだ」
(少しは嫉妬してくれるかな?)と思いきや、
「ルーリ。姫の裸なら僕も見慣れてるから、わざわざ解説してくれなくても大丈夫だよ。…それとも、僕がもっと詳しく説明しようか?」
「…………」
予想外の反撃に遭い、ルーリは黙ってしまう。
そんな話をしていると、いきなり第7会議室のドアが開いた。
「入るわよ、ルーリ!!」
「マヤリィ様…!?」
素頭の状態でマヤリィと対面したルーリは動揺するが、次の言葉を聞いて硬直する。
「ジェイ、バリカンを貸して頂戴」
「は、はいっ」
ジェイはマヤリィの勢いにつられて渡してしまう。
「マヤリィ様、何をなさるおつもりですか…!?」
「決まっているでしょう?貴女とお揃いにするのよ♪」
マヤリィはそう言って微笑む。
「アタッチメントは付けなくていいわね。ふふ、自分で言うのもなんだけど、私は丸坊主が似合うと思うの」
「確かに、そうですね。姫は顔が小さいですし、頭の形も綺麗ですし…何より美人ですから」
ジェイは同調する。
「もう、ジェイったら…。ルーリの前でそんなこと言わないでよ」
「仕方ないじゃないですか。姫も知っているでしょう?僕は本当のことしか言えないんです」
「ふふ、そうだったわね…」
そう言って見つめ合う二人だが、マヤリィの手にはしっかりとバリカンが握られている。
知らないうちに話がどんどん進んでいる。
「お待ち下さい、マヤリィ様!何ゆえ、貴女様が丸坊主になさるのですか??」
ルーリは自分がジェイに頼んでいたことも忘れて、物凄い勢いでマヤリィに迫った。
が、
「だって…ルーリとお揃いにしたいんだもの」
マヤリィは迷いのない笑顔で答える。
「ですが……」
「控えなさい、ルーリ。女王であるこの私の言葉を否定すると言うのかしら?」
…マヤリィ様が職権濫用してる。
「いえ、とんでもございません…!」
ルーリは狼狽えながら、
「で、では…私がやっぱり髪を伸ばすと言ったら…どうなさいますか?」
「それなら仕方ないわね。私もやめておくわ」
「マヤリィ様、私は髪を伸ばします」
「あら、そう。とても良い考えね」
完全にマヤリィの掌の上で転がされてしまった。
《ジェイ、念話をありがとう。いくら本人の頼みとはいえ、サキュバスを丸刈りにするのは考えものよね》
《はい。姫のお陰で助かりました。本当に貴女はお芝居が上手ですね》
《あら、貴方の台本と演技指導が素晴らしいからでしょう?》
ジェイの『念話』を受けて第7会議室に来たことをルーリは知らない。
相変わらず茶番を繰り広げるのが得意な二人である。
「畏れながら、マヤリィ様。これは今朝衣装部屋で見つけた物なのですが…いかがでしょうか?」
気付けば、ルーリが反省した様子で新しいウィッグを被っている。
「ふふ、なかなか似合うわね。さすがはルーリと言った所かしら」
「はっ。有り難きお言葉にございます、マヤリィ様」
マヤリィはルーリの返事を聞いて頷くと、
「では、第7会議室に留まる理由もなくなったし、カフェテラスにでも行きましょうか」
言い終わらないうちに『空間転移』した。
「姫、今日は何を飲みますか?」
ジェイが早速メニューを広げる。
以前はマヤリィを挟む形で座っていたのだが、今はマヤリィ、ジェイ、ルーリの順に並んでいる。
「そうね…何がいいかしら……」
優柔不断な女王様は決めるまでに時間がかかる。
「…ねぇ、ジェイ?貴方は何にするの?」
「僕は…たまにはコーヒーから離れてロイヤルミルクティーでも頼もうかと思ってます」
「では、私もそれにするわ」
(私、ここにいて良いのかな……)
なんとなく夫婦の邪魔をしている気分になってきたルーリだが、
「ルーリ、貴女は何にするの?飲み物と一緒にクッキーもいかが?」
マヤリィの優しい声を聞いた途端、ここにいて良かったと思うのだった。
女王夫妻の茶番
・台本と演技指導→夫
・演技派の美人女優→妻
翻弄する側だったルーリさんが翻弄される側になっている…。




