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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第124話 結果オーライ

その後、ジェイは『忘却』魔術を『無効化』した経緯について説明を始めた。

マヤリィの記憶操作系魔術は強力である為、それを無効化出来るとしたら本人しかいないはずなのだが。

「なぜ僕がルーリにかけられた忘却を無効化することが出来たかと言うと、貴女がかけた魔術に綻びがあったからなんです」

「綻び…?」

「はい。貴女は、本当はルーリの記憶を操作したくなかったのでしょう。その気持ちが反映されてしまったのか、もしくは発動した時の貴女の魔力が不安定だったのかは分かりませんが、何らかの理由で綻びが生じたのだと思います。無論、忘却魔術が成功したのは事実ですし、ルーリはその副作用によって眠り続けていました。…でも『綻び』のお陰で僕は無効化魔術をかけることが出来たんです」

ジェイは説明する。

「以前、貴女は『蘇生』魔術が必要になった際、宝玉を僕に託したことがありましたよね?」

「…ええ、あの時ね」

一度は追放された流転の國に帰ってきた時、心臓が止まった状態で凍結保存されていたシロマやネクロに蘇生魔術を施す必要があったのだ。

しかし、マヤリィは人数分の『蘇生』の宝玉をジェイに手渡し、こう言った。

『「成功するかどうかは分からないけれど、使ってみて頂戴。…今の私が直接発動するよりは良いと思うのよ」』(vol.7)

あの時のマヤリィは精神的にも体力的にも疲弊していたので『宙色の魔力』が安定しない状態だったのだ。

「僕はそれを思い出してルーリにかけられた魔術の綻びを見つけ、無効化をかけたのです。『ルーリを苦しみから解き放ちたい』という思いで忘却をかけた貴女の気持ちに背くことは承知の上でした」

元はと言えば、マヤリィとジェイの『結婚宣言』を聞いたルーリが立ち直れないほどのショックを受けたことから始まった。ルーリはマヤリィを愛しながらも浮気を繰り返してきた自分の行いを悔やみ、放っておいたら自害しそうな勢いだった。それを目の当たりにしてしまったマヤリィは『私にはこれしか出来ない』と言って、ルーリをこれ以上苦しめない為に長期の忘却魔術をかけ、その副作用によってルーリは長い眠りに就いた。…しかし、ジェイが必死の思いで見つけ出した『綻び』がルーリを目覚めさせたのだ。

「…ありがとう、ジェイ。やはり私には…傍で支えてくれる人が何人も必要なのね」

マヤリィはジェイに礼を言うと、心配そうな顔でルーリに訊ねた。

「…ルーリ。貴女は全て覚えていると言ったわね?」

「はっ。貴女様と過ごした時間の全てを記憶しております。…あの日、私を救う為に忘却魔術をかけて下さったというのに、申し訳ございません…」

「いえ、それは気にしなくて良いのだけれど…。貴女、大丈夫なの?」

あの日のルーリは憔悴しきっていたが、今は以前と変わりないように見える。

「はい。実は…今朝ジェイと少し話をしました。今の魔術の説明を受けた後のことです」

ルーリはそう言うと、今朝の話を詳しく聞かせてくれた。


夜が明ける頃、ルーリは目を覚ました。

「ここは…?……ああ、私の部屋か…」

直後、ルーリの頭に忘却魔術をかけられる前の出来事が甦る。

「そうだ…。私は…未練がましくマヤリィ様に言い寄って…挙句の果てに自害しようとしてしまった。それで…マヤリィ様は私を救う為に忘却魔術をかけて下さったのだ。……ちょっと待て。確かに私は忘却をかけてもらったのに、なぜ全て覚えているのだろう??」

「ごめん、ルーリ。君にかけられていた魔術は全て無効化させてもらった」

ルーリの独り言を聞いた後で、ジェイが言う。

「っ…!?」

「驚かせてごめん。忘却解いちゃってごめん。それと…勝手に部屋に入ってごめん」

驚くルーリに、ジェイは色々と謝る。

「姫が君に忘却魔術をかけた経緯については僕も聞いてる。…君に何も言わずに発表したこと、本当に申し訳なく思ってるんだ」

「……お前、さっきから謝ってばかりだな」

ルーリはようやくジェイに答える。

「だが、悪いのは全て私だから、それ以上謝らないでくれ。…結局、私はあの日もマヤリィ様を困らせてしまった」

そう言って俯くルーリだが、顔にかかる髪がないのに気付く。

「あっ…」

「聞いていいのか分からなかったけど聞くね。…その頭、一体どうしたの?」

いざ聞かれると、ルーリは恥ずかしそうに目を逸らした。

「もうマヤリィ様のお傍にいられないなら髪を巻く意味もないと思って…。その場にあったバリカンで丸刈りにしてしまったんだ…」

そう言って自分の頭を押さえるルーリは、僅かにしか髪が伸びていないことを感じると、手鏡を取り出して現況を把握しようとする。

「あぁ〜。格好悪いな……」

「伸びかけの坊主はしょうがないよね。…どうする?丸坊主を続けたいんならすぐに刈ってあげるけど?」

「いや…我慢して伸ばすよ…」

ルーリは手鏡をしまうと、話題を変えた。

「…ところで、お前はなぜマヤリィ様の忘却魔術を解くことが出来たんだ?あの御方の魔術を解くなんて不可能に近いだろうに」

「そういえば、説明がまだだったね」

そこで、ジェイはマヤリィの忘却魔術の『綻び』と、自分がかけた無効化魔術についてルーリに説明した。

「…そうか。やはり本当の『No.2』はお前だったか…」

たとえ『綻び』があったとしても、相手はマヤリィがかけた禁術である。それを解くには、強大な魔力を持ち、無効化魔術を完璧に発動するだけの実力が必要になる。

「はは…バレたか。隠しておいたつもりなんだけどなぁ」

「いや、隠しておくの巧すぎるだろう。私は『能力没収』魔術をかけられた時から少し疑問に思っていたが、まさかお前がそんな実力を持っているなんて知らなかったよ…」

ルーリは(全てにおいてジェイには敵わないな)と思うと、

「お前は凄い奴だな、ジェイ…」

そう言って微笑む。

「だが、どうしてこんなに苦労してまで私を目覚めさせたんだ?私がいなくてもお前さえいればマヤリィ様も流転の國も安泰なんじゃないのか?」

ルーリが訊ねると、急にジェイの顔色が悪くなる。

それを見たルーリは色々と察する。

「…私が眠っている間に何があった?マヤリィ様はご無事だよな?」

「うん。身体は何ともない。だけど…精神的にはかなり参ってる。…実は君が禁術の副作用で眠りに就いた後、姫は三体目のホムンクルスを造ったんだ」

ジェイは詳しく説明する。

「名前はルルー。与えられた適性は雷系統魔術。…見た目は君に瓜二つだったよ」

「っ…」

「そんな彼女が暴走したのは昨日のことだ。彼女は愛するマヤリィ様を自分だけの物にする為、配下達を皆殺しにしようとした。…結果、タンザナイトやリッカが重傷を負ったけど姫の白魔術で回復し、僕が戦闘不能にした彼女は姫自身の手で葬られた。…姫自ら『絶命』を発動したんだ」

「…………!」

『絶命』。その禁術についてはルーリも知っている。発動すれば確実に相手は即死する。人を殺す為だけに存在する魔術だ。

「…なぜ、マヤリィ様は私に似せた人造人間を造られたんだ?」

ルーリはやっとの思いで訊ねる。

「僕に聞かなくても分かるでしょ?姫は…君がいなくて寂しくて仕方なかったんだよ」

ジェイは悲しそうに言う。

「姫はルルーと名付けたその人造人間を毎日衣装部屋に連れて行ってた。そして綺麗なドレスを着せ、可愛がっていたんだ」

「そんな……」

「でも、姫も知らないうちにルルーは自分が形代に過ぎないことに気付いてしまったらしい。…残酷な話だけど、僕は昨日の一件を通して思い知らされたよ。姫にはルーリが必要だってことを」

「…………」

「姫の伴侶となることを決めた僕が言えることじゃないけど、君にはこれからも姫の傍にいて欲しいと思ってる。っていうか、君がいなきゃ駄目なんだよ」

「ジェイ……」

ルーリは事の重大さを知って言葉を失う。

「ルーリ、教えて欲しい。僕が許したら、君はまた姫に『魅惑』をかけてくれるのかな?」

「えっ…」

「これは後で姫に聞くつもりだけど、僕は…姫が幸せでいてくれるなら、誰と恋をしたって構わないと思ってる」

「えっ…」

「姫は僕が一途なばっかりに自分も誠実な女になると言ってくれた。でも…僕は姫を縛りたくない。せっかく目の前に絶世の美女がいるのに、僕だけを見て欲しい、なんて言えないよ…」

「ジェイ……。お前は優しすぎる。だから、マヤリィ様はお前を選ばれたんだ」

「ルーリ…?」

「私は二人の邪魔をするつもりはない。…本当は、あの日、黙って事実を受け入れるべきだった。そうしたら、マヤリィ様を困らせることもなかったし、皆を傷付けるような悲劇も起きなかっただろう…」

ルーリは俯く。

「…ジェイ、やっぱり私は丸坊主でいようかな。どう見ても似合わないし、この姿では『魅惑』を使う気にもなれない」

「待ってよ、ルーリ。夫である僕が浮気を容認しようとしてるのに、君はもう姫に手を出さないと言うの?」

「ああ。お前の気持ちは有り難いが、私には、寛容な旦那様に不倫を許された奥様を襲うなんて、真っ当なことは出来ない」

「いや、全然真っ当ではないけど…」

ジェイは苦笑するが、ルーリの顔は真剣そのものである。

「…そういうわけでな、私はマヤリィ様には二度と魅惑をかけないと決めた。私が言っても説得力に欠けるが、今度こそあの御方を困らせるようなことはしたくないんだ…」

「ルーリ……。本当は君も誠実な人なんだね」

「それは褒め言葉か?」

「どう考えても褒め言葉でしょ」

「…そうか。ありがとな、ジェイ」

ルーリはそう言って微笑むと、

「多少関係が変わったとしても、私のマヤリィ様への愛情が変わることは決してない。ただ、それが恋愛方面ではなくなったというだけだ」

タンザナイトとの会話を思い出しながら言う。

そして、素早く身支度を整える。

「昨日そんなことが起きたとあらば、マヤリィ様もさぞかし悲しんでいらっしゃるだろう。…ジェイ。これから玉座の間に行っても良いか?許されるなら、私はマヤリィ様の側近としてお傍近くでお仕えしたい。マヤリィ様の病を治す為に尽力したいんだ」

「…うん。分かった」

ルーリの表情から迷いが消えたのを見たジェイは笑顔で頷いた。

「だが、その前にウィッグを探したい」

「…はいはい。早くしてね?」

そんな会話を経て、衣装部屋を経由して、ルーリは玉座の間に現れたのだ。


「マヤリィ様、此度は大変申し訳ありませんでした。全ての元凶は私にございます。あの日、私が取り乱したりしなければ、貴女様は人造人間を造られることもなかったでしょう…」

話を終えたルーリはマヤリィの前に跪き、深く頭を下げた。

「いえ、貴女のせいではないわ」

マヤリィはルーリに優しく語りかける。

「色々な出来事があって、私はそのつど最善の道を選んだつもりでいた。なのに、振り返ってみれば間違いだらけだった気がする。…でも、その時の私はそれしか出来なかったのだから、今更何を言ったって仕方ないわね」

マヤリィは反省なのか言い訳なのかよく分からないことを言ってから、ルーリの手を握る。

「…ルーリ。これはリッカの受け売りなのだけれど、皆も助かったし貴女も元気になったようだし、結果オーライってことにしてもらえないかしら?…つまり、もう謝らないで欲しいのよ」

マヤリィはルーリが記憶を保ったまま心の整理をつけてくれたことを嬉しく思っている。

「ってことは、貴女ももう謝る必要はないですね。姫?」

ルーリが答えるより先に、横からジェイが口を出す。

「皆もルーリの顔を見て安心したようですから、この一件はここで終わらせましょう。貴女を含め、誰の責任も問わないという結論で良いと思いますよ」

「ジェイ……」

「僕もそうですが、流転の國の主様になれるのはマヤリィ様だけだと思っています。どうか、これからも皆の女王様でいて下さい」

ジェイは側近の顔をして、深く頭を下げる。

「…………」

マヤリィはしばらく黙り込んでいたが、やがて『宙色の耳飾り』を手に取り、ゆっくりと頷いた。


そして、配下達が再び玉座の間に集まり、一時中断となっていた会議が再開された時…。

玉座のマヤリィが何を語り、皆を安心させたかは言うまでもない。

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