第121話 Untitled
「ナイト様!!リッカさん!!」
シロマは『第2休養室』に転移するなり叫んだ。
すると、
「シロマ…!無事であったか!!」
既にベッドから出て椅子に座っていたリッカが立ち上がる。
「リッカさん!目が覚めたのですね…!」
「ああ。死ぬかと思ったが…マヤリィ様が来て下さったお陰でな」
リッカはそう言うと、頭を下げる。
「シロマ、すまない。あの者を『ルーリ』と呼んでしまった私のせいで…」
「いえ、それは違いますよ、リッカ様」
「クラヴィス…!!」
「彼女はどちらにしても私達を皆殺しにするつもりだったようです。…って、シロマ……!?」
説明の途中でクラヴィスに抱きつくシロマ。
「クラヴィス!!無事で良かった…!!」
「シロマ…!!」
クラヴィスはシロマを抱きしめながら、話を続ける。
「ジェイ様が『シールド』の宝玉を使うようにと言って下さったお陰で私は助かりました。その後、帰還されたマヤリィ様の転移魔術によって私はここに来ることが出来たのです。リッカ様、お身体は大丈夫ですか?」
「ああ。マヤリィ様の魔術のお陰で九死に一生を得た。あの者の雷魔術は凄まじかったが…私はもう大丈夫だ」
リッカは第2休養室に運ばれてまもなく目覚めたという。
「…されど、タンザナイトは……」
「っ…」
二人の無事を知って安堵したのも束の間、先ほどまでリッカが座っていた椅子の向こうを見て、シロマは青ざめる。
「ナイト様…!!」
ベッドに横たわったタンザナイトは死んだように眠っている。
「リッカ様、タンザナイト様の容態は…」
クラヴィスが訊ねると、リッカは悲しそうな顔で言った。
「詳しくは分からぬが…『流転の斧』から放たれた雷が身体の奥深くまで広がっている状態だったと伺った。マヤリィ様が必ず助かると仰せだったゆえ、私はそれを信じて待っているのだ」
しかし、一目見ただけでは生きているのかどうかも分からない。
「そんな…!ナイト様は私を庇って流転の斧に……」
その場に膝をつき、泣き崩れるシロマをクラヴィスが支える。
「シロマ…。私達もマヤリィ様のお言葉を信じて待ちましょう…」
「クラヴィス…。今、私に出来ることは何もないのでしょうか…」
ナイトの傍らに座り込み、シロマはその顔を見ながら泣き続けた。
「…ジェイ、ごめんなさい。全部私のせいよ…」
その頃、訓練所ではジェイから事の顛末を聞いたマヤリィが頭を下げていた。
「皆に知らせず都へ行ったことも、彼女の魔力をすぐに探知出来なかったことも…」
マヤリィの声は震えている。
「何より、彼女がこんなことをする原因を作ったのは私…。ルルーが『ルーリ』の存在を知っていたことすら気付いていなかった…」
「…姫。話は後でゆっくり聞きますから、今はこの人造人間をどうするべきか教えてくれませんか?」
ジェイは至って冷静だった。
「僕は『流転の指環』を使い、この裏切り者を切り裂きました。痛みのあまり気を失ったようですが、まだ生きています」
ルルーの身体は直視出来ないほど酷い有り様だった。
全身血に塗れているので顔もよく見えない。
「致命傷は与えていないので、貴女が回復魔法をかければ目を覚ますでしょう。…正直、僕はこの程度の痛みでは生温いと思います」
「ジェイ……」
「リッカは『螺旋雷撃砲』という魔術で身体を貫かれました。タンザナイトは雷を帯びた『流転の斧』によって重傷を負いました。クラヴィスは危うく雷撃を食らう所でした。そして僕は…最上位雷魔術で殺される予定でした」
「…………」
「畏れながら、マヤリィ様。この者に意識が戻る程度の『回復』魔術をかけて頂けませんか?」
ジェイは言う。
「話が出来れば十分だと思います。彼女も最期にマヤリィ様のお声を聞けるなら本望でしょう」
「…………」
「お願い致します、マヤリィ様」
側近の顔で頭を下げられ、マヤリィはようやく頷いた。
「…分かったわ、ジェイ。貴方の言う通りにする」
「ありがとうございます、マヤリィ様」
そして、マヤリィは『意識が戻る程度』の回復魔法をルルーに施した。
「マヤリィ様…!?い、痛っ……」
ルルーは傷だらけのまま起き上がり、痛みを堪えながらマヤリィの顔を見る。
「マヤリィ様…帰ってきてくれたのですね…!」
ルーリの顔で、ルーリの声で、彼女は言う。
「会いたかったです、マヤリィ様…!」
ルーリの顔で、ルーリの声で、彼女は言う。
「マヤリィ様…!どうして私の方を向いてくれないのですか?」
ルーリの顔で、ルーリの声で、彼女は言う。
「この傷のせいですか?これは、ジェイ様が…」
「やめて…!もうやめて……!!」
マヤリィは耐えきれず、耳を塞ぐ。
それと同時に『宙色の耳飾り』が輝き始める。
「ごめんなさい、ルルー。どうか私を許して頂戴…!」
マヤリィはそう言ってルルーの身体を強く抱きしめた。
直後、悲しみを振りきってその禁術の名を口にする。
「『絶命』発動せよ」




