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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第120話 流転の指環

「僕を怒らせないで欲しかったな」

今こそ、本当の『No.2』が魔力を解き放つ。

時は遡り、マヤリィが桜色の都に『長距離転移』した直後。

ジェイとリッカが待機する玉座の間に現れたタンザナイトは、ルルーがどこにもいないことを告げるとともに『念話』が通じず『魔力探知』にも引っかからないと説明した。

その言葉を聞いたジェイは、念の為ルルーを探し出して様子を見て欲しいと皆に指示を出したのだ。


その後、しばらく経ってルルーは発見された。

衣装部屋に籠っている所をシロマが見つけたのだ。

「ルルー様、こちらにいらしたのですね」

「…シロマ様……?」

「これから訓練所に行きませんか?ナイト様が探していらっしゃいます」

「…タンザナイト様が……?」

ルルーは虚ろな目をしているが、タンザナイトの名前に反応した。

(やはり何か様子がおかしい…)

そう感じたシロマは、とにかくここから連れ出さなければと思った。

「さぁ、ルルー様。参りましょう」

《こちらシロマ。ルルー様を発見しました。これより訓練所に『転移』致します》

直後、シロマはルルーの返事も聞かずに訓練所に転移した。

「…来ましたか、ルルー殿」

そこには既にタンザナイトが来ていた。

「タンザナイト様……!」

ルルーはナイトの姿を見るや否やマジックアイテムを取り出し、

「『迅雷一閃』!!」

ルーリが得意とする殺人級魔術を放った。

「『シールド』。…これは穏やかではありませんね」

ナイトは渾身の一撃を容易く防ぐと、ルルーに訊ねた。

「ルルー殿、なぜです?僕は貴女に恨まれるようなことをした覚えはないのですが」

しかし、ルルーは答えず、次々に雷系統魔術を発動する。

「それとも、これは抜き打ちの実戦訓練でしょうか?」

ナイトはルルーの攻撃を避けながら、対話を試みる。

「だとしても、女王様の許可を得ずに始めるのは良くないと思いますよ」

その時、初めてルルーは答えた。

「マヤリィ様は…どこですか?」

敵意に満ちた眼差しでタンザナイトを見る。

「僕も詳しいことは聞いていませんが、桜色の都にいらっしゃるとのことです」

「どうして…私を置いて行ったのですか?」

ルルーは会話の最中にも攻撃を仕掛けてくる。

シロマはナイトの邪魔にならないよう少し距離を取っているが、二人の会話は聞こえている。

「僕には分かりません。ジェイ様やリッカ様なら事情をご存知だと思いますけど」

「…では、ジェイ様はどこに……」

「ここだよ、ルルー」

突然後ろから声が聞こえ、ルルーは振り向く。

その隙を見逃さず、

「『拘束』せよ」

「っ…!」

ジェイはルルーの動きを封じた。

「なぜ君がいきなりタンザナイトに攻撃したかは知らないけど、これはマヤリィ様に報告しなければならない案件だね」

「マヤリィ様は…どこですか?」

ジェイの言葉に構わず、ルルーは聞く。

「タンザナイトから聞かなかった?今は桜色の都を訪問されているんだ」

「私を残して…ですか?」

拘束されたルルーは身を捩って抵抗する。

「私はマヤリィ様が一緒じゃないと駄目なんです。マヤリィ様だって…それを知っているはずなのに……」

「ルルー。言っておくけど、マヤリィ様は君の物じゃない。流転の國の女王として果たさなければならない責務は山ほどあるし、本来ならば簡単にお会い出来る方ではないんだよ」

しかし、ルルーはジェイを睨む。

「いえ、マヤリィ様は毎日私と一緒にいてくれます。私を衣装部屋に連れて行ってくれます。でも、今日は姿が見えないのです。私はマヤリィ様無しではいられないというのに…!」

(そういえば、ルルーを造ってからというもの、姫は毎日のように一緒にいたんだっけ…)

ジェイは思い出す。

ルルーは言ってみればルーリの代わり。

今だって、ルーリそっくりの声で話し、ルーリに瓜二つの姿をしている。

そこへ、リッカとクラヴィスが現れた。

「遅くなってすみません。こういう時に限って空間転移の『宝玉』を持ち合わせていなくて…」

「シロマやタンザナイトが既に訓練所にいると分かっていたから、私に念話を寄越したらしい。…で、何が起きているのだ?」

「リッカ様……!」

「膨大な魔力が動いていることくらい私にも分かる。…ルーリ。お前に何があった?」

《リッカ…!!》

ジェイは訂正しようとするが、遅かった。

「やはり…私は『ルーリ』と言う人の形代に過ぎないのですね…」

「っ…」

《すまない、ジェイ》

《いや、この見た目では仕方ない》

短い念話の最中、ルルーが拘束から抜け出していたことに誰も気付かなかった。

「『螺旋雷撃砲』!!」

その隙をついて、ルルーは容赦なく雷系統魔術を打ち込んだ。

「『シールド』!!」

咄嗟にタンザナイトがリッカの前に壁を作ろうとするが、距離がありすぎた。

僅かな差でナイトのシールドは間に合わず、ルルーの一撃はリッカの身体を貫いた。

「リッカ様!!」

慌ててリッカに駆け寄るシロマ。

しかし、ルルーはそれを許さなかった。

『流転の斧』をシロマに向かって投げたのだ。

ルルーは軽々と扱っているが、実際はとてつもなく重い斧。それは雷を纏って宙を舞い、物凄いスピードで命中した。

「っ…?」

シロマは恐る恐る目を開ける。たった今、斧が飛んできたはずなのに…。

と思った次の瞬間、シロマは悲鳴を上げた。

「ナイト様!!!???」

そこには、身を挺して自分を庇い、大量の血を流して倒れているタンザナイトがいた。

「すみません…シロマ様…。シールドが…間に合わ…なくて……」

「ナイト様、すぐに『全回復』をかけますから!!」

目の前ではナイトが血を流し、少し離れた所ではリッカが倒れている。

「っ……」

ジェイは唇を噛みしめ、ルルーに厳しい視線を向ける。

「ルルー、教えてくれ。どうしてこんなことをするんだ?」

ジェイは攻撃の矛先を自分に向ける為、ルルーを誘導しようと試みる。話を長引かせ、自分をターゲットにするよう仕向け、シロマが回復魔法を発動する時間を作りたい。

「確かに君はルーリという人間に似せて造られたのかもしれないけど、マヤリィ様の君への愛情は本物だ。…なのに、マヤリィ様に愛されているというだけでは満足出来ないって言うのか?皆を傷付けてまで何を望むんだ?」

「マヤリィ様の愛情は感じています。でも、今日は私の所へ来てくれませんでした。マヤリィ様には、どこにも行かないで私とずっと一緒にいて欲しいんです。タンザナイト様と話したりなんかしないでいつでも私一人を見て欲しいんです」

ルルーは平然と言う。いきなりタンザナイトを攻撃したのは嫉妬心から来るものだったらしい。…ルルーの製造にはナイトも携わっているのだが。

「私はこれから先、マヤリィ様と二人きりになって、マヤリィ様が『ルーリ』という人を忘れてしまうくらいの愛を捧げるつもりです。それには、皆様がいない方が好都合でしょう」

「君は…マヤリィ様を独占する為に皆を殺すと言うのか?君の残酷な行いを見てマヤリィ様が悲しまれるとは思わないのか?」

「はい。私の行いも皆様の存在も『消去』魔術によってマヤリィ様の記憶から消します。そうすれば、何も問題はありません」

「禁術も使えるのか…」

「はい。私の魔力を侮らないで下さい」

笑顔でそう言われ、ジェイは返事に詰まる。

自分が形代であることに憤りを感じ、マヤリィを独占したいがゆえに殺戮を選んだルルー。

ラピスラズリとは比較にならないほど始末が悪い。…が、マヤリィにも責任はある。

《ジェイ様、『流転のリボルバー』は……》

凄惨な光景を前に立ちすくんでいたクラヴィスがようやくジェイに念話で聞く。

《いや、駄目だ。今のルルーはまだ流転の國の仲間。マヤリィ様に縛りを解除して頂かない限り、その銃で仕留めることは出来ない》

《はい…》

己の無力さを感じるクラヴィスだが、そっと『宝玉』を取り出す。

しかし、

「魔力を持たないクラヴィス様。その宝玉で何をするつもりですか?」

《伏せろ、クラヴィス!》

ルルーの指から放たれる電撃よりも一瞬早くクラヴィスはその場に伏せ、間一髪で助かった。

《クラヴィス、この状況で白魔術は使えない。全回復の代わりにシールドの宝玉を出せ。今は自分の身を守ることだけを考えるんだ》

《はっ!》

「シールドの宝玉ですか。では、クラヴィス様は後回しにします」

シールドに気付いたルルーはそう言いながらジェイに近付く。

「『流転の國のNo.2』と謳われるタンザナイト様も、氷系統魔術の権威であるリッカ様も、今は虫の息です。…ということは、ジェイ様さえ制圧すれば、私の望みは叶うのですね」

「…さて、それはどうかな?」

ジェイは嘲笑うように言う。

「ルーリに瓜二つの君を僕が本気で攻撃することは出来ない。そう思っているなら大間違いだよ。君は見た目こそ完璧にルーリの模倣体だけど、中身は全然違う。ホムンクルスのくせに悪魔みたいだね」

(ジェイ様…なぜ挑発するようなことを…?)

シールドを張って距離を取っているクラヴィスは怖々と話を聞いている。

「私を煽ったって駄目ですよ。たとえ貴方が私を攻撃出来ても、貴方の魔力では私を倒すことなんて不可能です。流転の國で一番強いのは言わずもがなマヤリィ様。そしてNo.2はタンザナイト様。次に強いのは…リッカ様でしょうか?いずれにせよ、もはや私の脅威ではありません」

彼女はジェイを完全に見くびっている。

風系統を専門とする魔術師とは聞いているが、実力はたかが知れている。そんな風にしか思っていない。

「それでは、決着をつけましょう。ジェイ様、貴方を殺した暁には、貴方の存在そのものをマヤリィ様の記憶から消します。ですから、マヤリィ様を悲しませる心配は要りません」

「…そっか。君の言いたいことは分かったよ」

「分かってもらえて良かったです。では、特大の雷系統魔術で死んで下さい」

そう言ってルルーは最後の魔術の準備を始める。夥しい魔力が解放される。

「マヤリィ様にもルルーの最上位魔術を見てもらいたかったのに…仕方ないですね…」

見れば、いつの間にかルルーの手に流転の斧が戻っている。

が、それを見てもジェイは動じない。

「あーあ。せっかく姫とタンザナイトが造り出したホムンクルスを葬らなきゃいけないなんて、正直気が進まないなぁ。…とはいえ、君が救いようのない愚か者だってことはよく分かったから、心置きなく魔術を使えるよ」

「ジェイ様、今更強がらないでもらえますか?」

「強がりかどうかは…これから君が判断してくれ」

その瞬間、ジェイの指に嵌められた『流転の指環』が輝き出す。

「っ…!?この魔力は……!!」

「今頃気付いたの?馬鹿だね」

ジェイはそう言うと、怒りに満ちた瞳でルルーを見る。

「僕はマヤリィ様の側近にして、流転の國No.2の実力を持つ風系統魔術師ジェイ。大切な仲間を傷付けたお前を許しはしない」

次の瞬間、ジェイの魔力値はさらに跳ね上がる。

「そんな…!嘘でしょ…!?」

先ほどまでの勢いはどこへやら、ルルーは狼狽える。

「貴方がNo.2…!?まさか…でも、その魔力は……」

「黙れ!!」

もう会話は必要ない。

「『烈風』発動せよ!裏切り者を切り裂け!!」

思いがけないジェイの魔力に圧倒されている間に、風系統魔術がルルーに襲いかかった。

髪もドレスも関係なく、全身を切り裂かれて倒れ込むルルー。しかし、どの切り傷も致命傷には至らず、彼女は血みどろになって痛みに悶えている。

「僕を怒らせないで欲しかったな」

ジェイは冷ややかな目でルルーを見下ろした。


一方、完全にジェイとルルーの一騎打ちになった時から、シロマは懸命にタンザナイトとリッカを救おうとしていた。しかし、二人の身体から漂う雷魔術の残滓がシロマから魔力を奪い取っていく。

「早くしないと…手遅れになってしまうのに…!」

殺人級魔術をまともに食らったリッカと、流転の斧をその身に受けたタンザナイト。

シロマは必死に回復魔法を発動しようとするが、重体の二人を助けるほどの白魔術を使うことは出来ず、自身も魔力を使い果たして倒れてしまった。

と、そこへ。

「『完全回復』『完全治癒』発動。全てを癒す真白き魔術よ、私の願いを受け取りこの者達を目覚めさせなさい」

意識を失う寸前、シロマは確かにその優しい声を聞いた。

(ご主人様の声…。これは…私の願望…?)

朦朧とした意識の中、シロマは考える。

しかし、治癒の光に包まれた刹那、シロマは飛び起きた。魔力が全回復したのだ。

「ああ、帰ってきて下さったのですね…!!」

目の前には、ずっと待っていた人の姿がある。

「待たせたわね、シロマ。もう大丈夫よ」

「マヤリィ様……!!」

感極まって名前を呼ぶシロマに、マヤリィは人差し指を立てる。

《『第2休養室』に行きなさい。タンザナイトとリッカは必ず助かるから、見守っていて頂戴》

《はっ!畏まりました!!》

あの後、ジェイの魔力を辿って訓練所に転移したマヤリィは、自分の気配を消して白魔術を発動し、二人を保護するとともにシロマを目覚めさせたのだった。

女王様、さりげなく降臨。

僅かな魔力さえ感じられない(=意識不明の重体もしくは死亡)状態の二人を救った後、シロマを『配下の為の休養室』に向かわせます。


一方、隠れた実力者であるジェイの『烈風』魔術によって全身に切り傷を負ったルルーは、痛みに悶えながら血みどろのまま放置されています。

仲間達を傷付けた裏切り者への制裁は、殺されるよりも惨い仕打ちでした。

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