第119話 どこにいるの?
「申し訳ございません、陛下。此度の一件に関しては私にも責任がありますわ」
桜色の都では、全てを聞いたシャドーレがヒカルに謝罪していた。
「いえ、最終的に想いを打ち明けることを決めたのは私ですから、貴女に非はありませんよ。顔を上げて下さい、シャドーレ」
「はっ」
「マヤリィ様はタンザナイト殿のことを特別可愛がっていらっしゃるとのことでした。思えば、スピカが突撃告白した時、マヤリィ様は物凄く怒っていらしたのですね」
今更ながらヒカルは怖くなる。
あの時の尋常ならざる空気は今も忘れられない。
とても怒っているようには見えなかったし、マヤリィは静かな声で話していたが、スピカは震え上がっていた。ヒカルもシャドーレも動けなかった。
…訓練所に罅が入りそうな魔力圧がかかっていたので。
「はい。あの時のマヤリィ様はタンザナイト様を守ろうとなさっていたのではないかと思いますわ。スピカは…手が付けられない状態でしたから」
あれを思い出すとシャドーレは今も頭が痛くなる。
「此度は…私がマヤリィ様を悩ませてしまいました。もう、タンザナイト殿にお会いすることは出来ないでしょうね…」
「陛下……」
「大丈夫ですよ、シャドーレ。私も恋にうつつを抜かしているほど暇ではありませんから」
ヒカルはそう言って無理に笑顔を作るが、思わず涙がこぼれてしまう。
「陛下…!」
それを見たシャドーレは反射的にヒカルを抱きしめる。
「ご無礼をお許し下さいませ、陛下」
「シャドーレ……」
一度こぼれた涙は止まらなかった。
ヒカルはシャドーレの腕の中で子供のように泣き続けた。
…まだ19歳なんです。
「ヒカル様、ここには貴方様と私しかおりませんので、何も心配なさらないで下さい」
シャドーレは彼の名を呼び、優しく語りかける。
ここは使われなくなった貴賓室。
だから、誰も来ない。
「シャドーレ……」
そのままヒカルはしばらく泣き続けたが、外が騒がしくなってきたので、思わず顔を上げる。
シャドーレも気になる様子で、
「何事でしょう?様子を見て参りますわ」
ヒカルを残し、部屋を出て行った。
その少し前…。
王宮前にいきなり魔法陣が出現した。
そして、中から美しい女性が現れたかと思うと、ちょうどそこを通りかかった者に言った。
「陛下に伝えて頂戴。流転の國のマヤリィが来た、とね」
「はっ!」
今日首脳会談だったっけ?と思いつつ、彼は慌てて取り次ぎに行く。
まもなくマヤリィは貴賓室に案内されたが、肝心のヒカルはなかなか姿を見せない。
「おい、陛下はどこにいらっしゃるんだ?」
「存じ上げません。シャドーレ様とご一緒なのでは?」
「とにかく早く見つけろ。流転の國の主様がお待ちなんだ」
王宮の慌ただしい様子を感じながら、
「なんだか悪いことしたわね…。貴方はヒカル殿がどこにいるか分からないの?」
一緒に転移した使い魔に訊ねるが、鳩は首を傾げた。
その後、事情を聞いたシャドーレがヒカルを呼びに戻ったことで、ようやく二人は対面することが出来た。
「突然来てごめんなさいね。…貴方の使い魔、返すわ」
マヤリィがそう言うと、白い鳩はヒカルの肩に飛び移った。
「返事を書くより顔を見て話したかったの。この間の一件についてとても気にしているようだったから」
「はい。いきなりあのような書状をお送りしてマヤリィ様を悩ませてしまったこと、大変申し訳なく思っております。タンザナイト殿は…貴女様のお気に入りの配下だと伺いました…」
ヒカルは俯きがちに話す。
「ええ。私は将来的にナイトを側近にしようと考えているの。…けれど、本来ならば貴方の申し出を受け入れるべきだったのかもしれないわね」
流転の國と桜色の都は友好国。
結婚適齢期(?)の国王が隣国の娘を妃に迎えたいと思っても不思議ではない。
「…だとしても、私は性急すぎました。結果は同じでも、もっと段階を踏んでいれば貴女様を悩ませることもなかったと思います」
予想以上にヒカルは落ち込んでいた。
「ヒカル殿。こう言ってはなんだけれど、この一件はもう終わったことよ。今日、私は貴方に気にしないでって言いに来たの」
マヤリィは言う。
「貴方の話を断ったのは完全にこちら側の都合だし、これ以上気に病んで欲しくないのよ」
「マヤリィ様…」
「私が言いたかったのはそれだけ。…皆を慌てさせてしまって悪かったわ」
マヤリィはそう言って席を立とうとした。
しかし、ヒカルは縋るような目でマヤリィを見る。
「マヤリィ様…。未練がましい男と思われるでしょうが、お聞かせ下さい。私は…もうタンザナイト殿には会えないのですか?」
「会いたいの?」
「はい…。出来ることなら…」
「会った所で、貴方の願いを聞いてあげることは出来ないわよ?」
「はい…。分かっております…」
ヒカルは俯く。失恋の痛手は想像以上に深刻だ。
(…これはどうしたものかしら)
マヤリィは考えたが、ヒカルがあまりに可哀想なのですぐに断ることも出来ず、とりあえず保留にしようと決める。…相変わらず優柔不断な女王である。
「…分かったわ、ヒカル殿。流転の國に戻ったらタンザナイトに聞くだけ聞いてみるわね。必ず桜色の都に連れてくるという保証は出来ないけれど、それでも良いかしら?」
「はい…!ありがとうございます…!」
一縷の望みが繋がり、ヒカルは少し明るい顔になる。
それを確認したマヤリィは、今度こそ席を立つ。
「では、今日はこれで失礼するわ」
「はい…!流転の國の皆様にどうぞよろしくお伝え下さい…!」
ヒカルはそう言うと、深く頭を下げるのだった。
「今、帰ったわ。…あら?誰もいないの?」
流転の國に帰還したマヤリィは玉座の間に誰もいないのを見て不思議に思う。
「すぐ戻るって言ったのに…ジェイはどこかしら…」
そう呟きながら『念話』を送ろうとした途端、急激な魔力の高まりを感じた。しかも、それが誰の魔力だか分からない。
(っ…。何が起きているの!?)
念話どころではないと感じたマヤリィは『魔力探知』を発動し、皆を見つけ出そうとした。しかし、魔力を辿ることが出来ない。
(落ち着いて、もう一度……)
感覚を研ぎ澄ませ、何度も魔力を辿ったが、結果として探知したのは二つだけだった。
一つはジェイの魔力。
そして、もう一つは………。




