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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第118話 すぐに戻るから

「マヤリィ様。此度は大変お騒がせ致しまして、誠に申し訳ございませんでした」

流転の國に帰還したリッカは改めてマヤリィに謝罪した。

しかし、マヤリィは微笑みながら言う。

「いえ、謝らないで頂戴。貴女のお陰で私は助かったんだもの。私だけでなく、タンザナイトもね」

「はっ。有り難きお言葉にございます、マヤリィ様」

都にいた時とは打って変わってリッカは恭しく頭を下げる。

「タンザナイトがマヤリィ様のお気に入りであると申した所、ヒカルは大人しくなりました。以後、このようなことは起きないと断言致します」

「それなら安心ね。…あの書状からはヒカル殿が真剣にナイトのことを想ってくれているのが伝わってきたから無下に断るわけにもいかないし、かと言ってナイトを手放すなんて考えられないし、本当にどうしようと思ったけれど、貴女がいてくれて良かったわ。ありがとう、リッカ」

「勿体ないお言葉にございます、マヤリィ様。貴女様にそう言って頂けてリッカは嬉しいです」

マヤリィの言葉を聞いたリッカはようやく安心した。

「それにしても、王宮に滞在すると聞いた時は驚いたよ。…ヒカル様に引き留められたの?」

その場に同席しているジェイが聞く。

「ああ。マヤリィ様を悩ませてしまった罪悪感に苛まれ、とても立ち直れそうにないと泣くのでな、さすがの私も可哀想になってしばらく傍にいてやると言ったのだ」

多少誇張されてはいるが、だいたい合っている。

そして、再びマヤリィに向き直り、

「畏れながら、マヤリィ様。此度の一件のせいで、この先タンザナイトが都に行きづらくなってしまったのではないでしょうか?」

リッカはタンザナイトの心配をする。

「そうね…。それに関しては私も考えていたけれど、ナイトが一番会いたかった魔術師はここにいるから、もう都に行かなくても良いって思っているかもしれないわ」

「マヤリィ様、その魔術師とは、まさか……」

「ええ。貴女のことよ、リッカ。ジェイとクラヴィスの報告を受けた時から、あの子は強大な魔力を持つ桜色の都の氷系統魔術師に興味を持っていたの」

言われてみれば、思い当たることは沢山ある。

「そういえば…タンザナイトは私が魔術を教えることを条件にドレス姿を見せてくれました。本当は嫌だったのかと思うと、今更ながら悪いことをしたと反省しております」

ルーリに唆されてドレスを着たタンザナイトを見たいと思ってしまったリッカ。その交換条件として、タンザナイトはリッカに氷系統魔術を伝授して下さいと頼み、許可を求められたマヤリィは一ヶ月滞在して欲しいと言ったのだ。結果、マヤリィの思い通りになって良かったのだが、リッカはドレスの件に関して申し訳なく思っていたらしい。

「確かにドレスは嫌だったみたいだけれど、今はもう気にしていないみたいだから、貴女もあの時のことは忘れて頂戴。ナイトは私と違って根に持つタイプではないから大丈夫よ」

(私と違って、って聞こえたぞ?)

リッカはマヤリィの言葉の端を捉えて戸惑うが、真面目な顔で頭を下げる。

「畏まりました、マヤリィ様。タンザナイトが気にしていないのであれば、私も二度とこの話は致しません」

「ええ。そうして頂戴」

「はっ」

と言いつつ、ナイトの麗しいドレス姿を忘れることは出来そうにない。

(私が一人で思い出すくらいならいいか…)

『記憶の記録』という魔術を知らないリッカはそう思った。

(そういえば、私はいまだに見ていないわね…)

改めて話題に上ると、見てみたくなるマヤリィであった。

と、そこへ。

ヒカル王の使い魔である白い鳩が飛んできた。

「えっ?また書状??」

ジェイは何事かと思うが、

「申し訳ありません、マヤリィ様。ヒカルからの謝罪文にございます。私が預かって参る予定だったのですが、なかなか完成しない上に私が先に追い出されてしまいましたゆえ、こんなにも遅くなってしまいました」

リッカはそう説明する。

「…もう、分かってくれたならそんなに気にしなくていいのに」

マヤリィは書状を受け取ると、

(また返事考えなきゃいけないじゃない…)

と思いながら開く。

…女王よ、それでいいのか?

いつもより分厚い気がするヒカルからの書状は、謝罪と後悔と反省の文章で埋め尽くされていた。これは返事が大変そうだ。

「…姫、ヒカル殿は大丈夫ですか?」

「ええ。たぶん……」

途中から読むのが面倒…もとい大変になってきたわ…と思うマヤリィであった。

「ジェイ、貴方も読んでみて頂戴」

挙句の果てにはジェイに渡してしまう。

「畏れながら、マヤリィ様。ヒカルはきちんとした謝罪文が書けているでしょうか?」

リッカは失礼なことを書いていないかと心配する。

「ええ。心配しなくても大丈夫よ。字は綺麗だし、ヒカル殿の誠実さが伝わってきたわ。…ねぇ、ジェイ?」

「はい。常々思いますが、ヒカル様は綺麗な字を書かれますよね。…もしかして、リッカが教えたの?」

ジェイが訊ねると、リッカは頷いた。

「字を習ったはいいが、どうにも下手でな。教育係は当てにならぬゆえ、私が直接教えてやることにしたのだ」

リッカ姉様の指導は厳しそうだ。

「そうだったのね。ヒカル殿は良い先生に恵まれたわ」

マヤリィはこの間ちらっと見たリッカの力強い達筆を思い出して微笑む。

「とんでもございません。ヒカルはマヤリィ様から書状が届くたび、美しい筆跡に見とれていると申しておりました」

滞在中にリッカも見せてもらったが、マヤリィの直筆は本当に美しかった。

「あら、そうなの?」

「はっ。紙が傷まないよう専用のファイルに収められております」

「そこまでしなくていいのに」

マヤリィは苦笑するが、リッカは真面目な顔をしている。

「…けれど、今回は返事を書かないつもりよ」

「えっ?」

「私にはこんな長大な文章は書けそうもないから、直接会いに行こうと思うの」

手紙の内容を見るに、ヒカルは色々な意味でショックを受けている。

今後のことも考えると、直接会って話をしておきたいとマヤリィは思った。

「大丈夫よ、リッカ。難しい話は何もないわ。ただ、ヒカル殿の顔を見て話したいのよ」

心配そうな顔をするリッカにマヤリィはそう言うと、

「貴方もその方が良いと思うでしょう?」

ジェイに同意を求める。

「はい。おっしゃる通りかと」

こういう時のジェイは側近の顔をする。

「…ですが、ルーリが動けない今、僕が流転の國を離れるわけにはいきません。誰を連れて行きますか?」

マヤリィは桜色の都を訪れる際、いつも配下の中から一人を選んで同行させる。

が、

「今回は一人で行くわ。この件に関して知っているのは私達だけだもの」

タンザナイトにさえ事情を話していないという都合上、円滑に話を進めるには一人で行った方が早い。

「心配しないで頂戴。ヒカル殿の顔を見たらすぐに戻ってくるから」

マヤリィはそう言いながら『長距離転移』の魔法陣を出現させる。

「では、少しの間 流転の國を任せたわよ。皆には終日自由時間にするよう伝えて頂戴」

「はっ。畏まりました、マヤリィ様」

早く話を終わらせたいらしく、マヤリィは白い鳩を連れてすぐに桜色の都へ長距離転移した。

「リッカ、僕達はここで待機しよう。皆には今から念話を送るよ」

「承知した」

そして、ジェイが皆に念話を送ろうとしたその時、玉座の間にタンザナイトが現れた。

「タンザナイト、何かあったの?」

ジェイは直前で念話の発動を取りやめ、珍しく困惑の表情を浮かべるナイトに聞いた。

しかし、ナイトは逆に訊ねる。

「女王様はどちらにいらっしゃいますか?お聞きしたいことがあるのですが、念話が繋がらなくて…」

「マヤリィ様なら、つい今しがた桜色の都に転移なさった所だ。…タンザナイト、一体何があったと言うのだ?」

リッカの言葉を聞いたナイトはますます困惑した様子で言う。

「ルルー殿がどこにもいないのです。一緒に訓練所へ行く予定だったのですが、念話も通じず『魔力探知』にも引っかかりません。女王様もご不在となれば、彼女はどこにいるのでしょう…」

「…なんだか嫌な予感がするね」

ジェイが言う。リッカも頷く。

「こういう場合は早く見つけ出した方が良い。シロマやクラヴィスにも連絡するから、手分けして探そう」

そして、先ほどとは違う内容の念話を送ることになった。

《こちらジェイ。ルルーが行方不明になった。念の為、探し出して様子を見て欲しい。頼んだよ》

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