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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第116話 恐怖の書状

「無理よ!無理に決まってるわ!!」

珍しくマヤリィが取り乱している。

「一体どうしたら良いの…!?」

そんな彼女をジェイが優しく抱き寄せる。

「大丈夫ですよ、姫。…よろしければ、僕にもそれを見せてもらえますか?」

「ええ、勿論よ。これを読んだのが私の部屋で良かったわ…」

今朝、桜色の都から書状が届いた。

その時は会議が終わったばかりでまだ皆も玉座の間にいたのだが、マヤリィはなんとなく嫌な予感がしてそのまま解散にしたのだ。

そして、ジェイを連れて自分の部屋に『転移』し、書状を読んで今に至る。

マヤリィの反応を見たジェイは何事かと思ったが、そこには驚くべきことが書かれていた。

「タンザナイトを桜色の都の王妃に…!?」

ヒカル王のストレートな文章には、さすがのジェイも引いた。

「なぜそういうことになったんでしょうか??」

「分からない…。何も分からないわ…」

マヤリィは冷静さを失い、ソファに身を投げ出す。

「確かに都を訪れた時のナイトは『よそゆき顔』だった。まさか、ヒカル殿はそれだけでナイトに恋したと言うのかしら…?」

前回都に行った時のことを一生懸命思い出そうとするマヤリィ。

「…そういえば、愛する男性はいるのか、ってナイトに聞いていた記憶があるわ」

その後、違う話に気を取られて忘れていたが、既にヒカルはナイトをそういう風に見ていたのだ。

「タンザナイトに恋をしたのは突撃女子だけじゃなかったということですか…」

思いがけない展開にジェイも呆れる。

「ナイトを桜色の都の王妃にするなんて有り得ない。…けれど、こういう時はどうやって断れば良いのかしら?」

マヤリィは頭を抱える。ヒカル殿はシャドーレみたいな女性が好みだったはずなのに…。

…いえ、マヤリィ様。お忘れかと思いますが貴女も恋愛対象に入っていましたよ。

「ヒカル様を傷付けずにお断りするとなると、なかなか難しいですね…」

ジェイも頭が痛くなる。

流転の國の女王の一言で全てが片付き、それによって桜色の都との関係が悪くなることもないだろうが、気がかりなのは若き国王の心情である。

タンザナイトは渡さず、ヒカル王を傷付けない。そんな断り方があるだろうか…?

マヤリィは悩む。

皆に相談した方が良い?

いや、クラヴィスはヒカル王が絡むと面倒な時がある。

誰にも相談せず淡々と断るべき?

いや、ヒカル王を落胆させるのはやはり可哀想だ。

こんな書状を送ってきた以上、シャドーレもこのことを知っているだろうし、何なら積極的に後押ししている可能性もある。

「本当に、どうしたら良いの…?」

困り果てたマヤリィはついにソファに寝っ転がる。もう何も考えずに寝たい。

しかし、マヤリィは寝られなかった。

突然、閃いたのだ。

「ジェイ、ちょっと行ってくるわ!」

「姫!?どこに行くんですか??」

「ヒカル殿に遠慮なく物申せるとしたら…彼女しかいないでしょう?」

「あっ…リッカ殿ですか!」

マヤリィは頷くと、すぐに玉座の間に転移し、リッカを呼び出した。


「マヤリィ様、お呼びでございましょうか?」

「ええ。よく来てくれたわ、リッカ」

「はっ」

玉座の間に呼び出されたリッカはマヤリィの前に跪く。

二人の他には誰もいない。

一体ここで何を命じられるのだろう。

リッカはマヤリィの顔を見る。

(私は何をやらかしたのであろうか…)

しかし、心配は無用だった。

マヤリィはいつになく困った様子でリッカを見つめると、話を何もかもすっ飛ばして懇願する。

「お願いよ、リッカ。貴女しかいないの。どうかタンザナイトを助けて頂戴」

「えっ…?」

リッカは状況が呑み込めないが、かろうじて聞く。

「畏れながら、マヤリィ様。タンザナイトの身に何が起きたのでございますか?」

「あっ…」

その言葉でマヤリィは少し冷静になるが、

「ごめんなさい。貴女にはまだ見せていなかったわね。私が説明するより早いと思うからとにかく読んで頂戴」

早口でそう言いながらリッカに書状を押し付ける。

「か、畏まりました、マヤリィ様」

リッカは一礼して書状を受け取り、読み始める。

そして…

「あの馬鹿者が!何をとち狂ったことを申しておるのだ!?タンザナイトを妃に迎えたいなど、よくもまあ恥ずかしげもなく言えたものだ」

マヤリィ様よりも遥かに凄い勢いで取り乱している…というか本気で怒ってますね、リッカさん。

リッカは書状を握りしめ、その場に跪く。

「マヤリィ様。此度は誠に申し訳ございませんでした。貴女様を悩ませた愚か者に代わりまして、深くお詫び申し上げます」

「い、いいのよ…。貴女が謝る必要なんてどこにもないわ…」

物凄い剣幕で怒るリッカを見たマヤリィはちょっと怖くなっていたが、さらに怖い顔を見ることになった。

「いいえ!あの者は私の血縁者にございます。身内の恥は私の恥も同じ。流転の國の女王陛下にこのような文を寄越したとあっては、見過ごすわけには参りません。…マヤリィ様、どうかお願い致します。あの身の程知らずに今一度 礼儀というものを叩き込んで参りますゆえ、私を桜色の都に行かせて下さいませ!」

「え、ええ…。許すわ…。タンザナイトはこの私のお気に入りだから、ヒカル殿にあげるわけにはいかないって、伝えて頂戴…」

さすがのマヤリィも声が震えている。

「はっ!畏まりました、マヤリィ様。では、すぐにでも桜色の都の王宮に怒鳴り込みに……いえ、その前に私から返事を書くことをお許し下さいませ」

「え、ええ…。よろしく頼むわね…」

というわけで、久々にリッカの使い魔であるオジロワシが登場した。

「では、頼んだぞ。可及的速やかにヒカルに届けて帰って参れ」

リッカが厳かな声で命じると、オジロワシは飛び立った。

(…ところで、返事にはなんて書いたのかしら?)

少し落ち着いたマヤリィは気になったが、リッカが怖いので聞くことはしなかった。


その後、桜色の都の王宮では…。

「陛下!大変にございます!!たった今、オジロワシの使い魔が書状を持って参りました!!」

「オジロワシ…?まさか叔母上が…!?」

ヒカルは狼狽える。

このタイミングでリッカから書状が来たということはつまり…。

【桜色の都の国王を務める愚か者に告ぐ。お前に直接伝えたいことがあるゆえ、今日中に王宮へ参る。尚、これは私の一存であり、マヤリィ様に命じられたことではない。 リッカ】

力強い毛筆で書かれたその文章は、読むだけでヒカルを震え上がらせた。

「リッカ様は達筆にございますね」

侍従は暢気に感心しているが、それどころではない。

「頼む。シャドーレを呼んで欲しい」

ヒカル王は慌ててシャドーレを呼びに行かせる。

が、預かってきた言伝は残酷なものだった。

「レイヴンズクロフト公爵夫人ですが、今日は早朝からエアネ離宮の警備に行かれたとのことにございます。前々からツキヨ様とお約束されていたと聞きました。…陛下、ご存知ありませんでしたか?」

(そんな前のこと覚えてないよ…!)

ヒカルは泣きたくなるが、ツキヨとの約束となればシャドーレを呼び戻すことは出来ない。

リッカの文には『今日中』とあった。

(怖いな……)

ヒカルは震える手で書状を折り畳むと、オジロワシが帰って行った方向を見つめるのだった。

リッカ様からの手紙全文


桜色の都の国王を務める愚か者に告ぐ。お前に直接伝えたいことがあるゆえ、今日中に王宮へ参る。尚、これは私の一存であり、マヤリィ様に命じられたことではない。 リッカ


追伸 覚悟しておけ。

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