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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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118/125

第111話 いつか必ず

大好きよ、ルーリ。

またいつの日か必ず会いましょう。

「今日は驚きましたが、考えてみればマヤリィ様とジェイ様も『元いた世界』を同じくする方々です。シロマと私の関係に似ていますね」

自由時間を言い渡された後、クラヴィスは例によってシロマの部屋に来ていた。

「はい。私達は同じ身分で流転の國に顕現することが出来ましたが、ご主人様とジェイ様は違ってしまった。そのせいで、公表を躊躇われていたのでしょうね」

シロマはそう言うとクラヴィスに抱きつく。

「今までご主人様が悩まれていたのではないかと思うとつらくなりますが、今日は本当に良かった…!貴方と一緒に祝福出来たことを嬉しく思います」

「はい…!マヤリィ様の幸せは私達の幸せですから…!」

嬉しさのあまり涙を浮かべるシロマをクラヴィスは優しく抱きしめた。

「今頃、ご主人様とジェイ様も一緒に過ごしていらっしゃるのでしょうか?」

「そうですね…。立場上、同じ部屋には住まないとのことでしたが、私達もそれぞれの部屋を与えられていますから、それと似ているかもしれませんよ」

「確かに、クラヴィスと私も部屋を行ったり来たりしていますものね」

二人は恋人同士でありながら、今も互いに丁寧語を使うし、別々の部屋に住んでいる。でも、自由時間になるとどちらかの部屋へ行き、こうして寄り添い合って話をしている。…シロマが魔術訓練に集中する日でなければの話だが。

「クラヴィス、これから第2会議室へ行きませんか?」

幸せな二人の話をしていたらそういう気分になったのか、シロマがクラヴィスを誘う。紛れもなくラブホテルの一室であるあの部屋は、二人が初めて結ばれた場所でもある。

「シロマ…!貴女とならいつだって行きますよ!」

「嬉しいです、クラヴィス…!」

二人はその場でキスを交わすと、すぐに『空間転移』した。

今も皆の前ではウィンプルを被っているシロマだが、クラヴィスと事に及ぶとなれば真っ先に外す。

綺麗に剃髪したシロマの頭は艶かしく、不思議と彼女の女性らしさを際立たせ、彼を誘惑する。

「脱がせて…クラヴィス……」

あっという間に下着姿になったシロマがクラヴィスに迫る。

「早く…。私、我慢出来ません…」

「は、はいっ!」

蕩けるような瞳で見つめられ、クラヴィスは真っ赤になりながらシロマの下着を外しにかかる。

そして、愛撫もそこそこに二人は繋がった。互いの熱を感じながら肌を重ね合わせ、何度もキスを交わした。

「ああ…もっと奥まで入ってきて…」

「壊れちゃいますよ、シロマ…」

「貴方になら…壊されてもいい…」

シロマはいつも激しいセックスを求める。

クラヴィスもそれに応えようと情熱的になる。

第2会議室の大きなベッドの上で、シロマとクラヴィスは時間を忘れて愛し合った。


やがて夕方になり、クラヴィスが自室に戻ると、シロマは下着姿のままウィンプルも被らずに衣装部屋に『転移』する。

最近、セクシーな下着にハマっていたシロマだが、明日の魔術訓練に備えてシンプルで機能的な物を探そうと思ったのだ。

と、その時。

ドアをノックする音がした。

「どうぞ、お入り下さい」

シロマはさっとローブを羽織り、返事をする。

「失礼するわ。…あら、シロマ」

「ご、ご主人様…!」

「ごめんなさいね。着替えている途中だったのでしょう?」

「いえ、大丈夫です…!」

と言いつつ、シロマはローブを羽織ったまま、マヤリィに訊ねる。

「何かお探し物でいらっしゃいますか?」

「ルーリを探しているの。もしかしたらここにいるかもしれないと思ったのだけれど」

マヤリィは言う。

「魔力探知しても分からなくて困っているのよ。どこかで見かけなかったかしら?」

「いえ、自由時間になってからは一度もお会いしておりません。…それにしても、ご主人様の魔力探知に引っかからないとは、どうなさったのでしょうか?」

無意識下で常時発動しているものとは違い、ほんの僅かな魔力を辿って人を探し出すことの出来るマヤリィの精密な『魔力探知』。なのに、ルーリを見つけることが出来ないらしい。

「『念話』も通じないのよ。一体どこで何をして…」

そこまで言ってから、マヤリィはようやく思い当たる。

「まさか『魔力探知阻害』…?」

自分の他にそれを発動出来るのはジェイとタンザナイトである。けれど、今の今までマヤリィはジェイと一緒にいた。

「分かったわ。恐らくはあの部屋ね…」

マヤリィは納得すると、

「ありがとう、シロマ。邪魔したわね」

そう言い残して転移していった。


「入るわよ、ルーリ!」

突然、第7会議室のドアが開かれた。

そこには丸刈り頭のルーリと、彼女の話を聞いていたらしいタンザナイトの姿がある。

「…ナイト。なぜ魔力探知阻害をかけているの?」

マヤリィはルーリの髪型より先にタンザナイトに訊ねた。

「申し訳ありません、母上様。なぜか『流転の羅針盤』が魔術を発動しつづけているようなのです。すぐに対処しなかったことをお詫び申し上げます」

タンザナイトが『悪魔変化』している最中、ルーリが無理やり羅針盤を止めた。恐らくはそのせいで誤作動を起こしているのだが、

(害は及ぼさないし、後で考えればいいか)

と思い、ルーリの話を聞くことを優先してしまったのだ。

「…まぁ、詳しい話は後で聞くわ」

マヤリィはそう言うと、

「ここにいたのね、ルーリ」

変わり果てた彼女に近付く。

「話が途中で終わってしまったから、気になっていたの。…ねぇ、ルーリ?もう少し話をさせてもらえないかしら」

寂しそうな顔でルーリを見る。

「信じて頂戴。貴女を嫌いになったわけじゃないのよ。でも…私はいつの間にか一途な女になっていて、ジェイと結婚したいと思うようになったの」

マヤリィは言う。

「彼はいつだって私だけを見ててくれる。私がルーリと愛し合っていることを知りながら、それでも純粋に私だけを愛してくれたのよ」

ルーリは俯きながら聞いている。

「…けれど、私も貴女を責められないわね。だって、二人を同じように愛していたんだもの。私には恋人が二人いたんだもの」

タンザナイトも聞いている。

「ただ、彼と貴女は違った。貴女は夢魔という都合上、いろんな人と関係を持ったけれど、彼は最初から私しか見てなかった。…本当は、もっと早く彼の想いに応えるべきだったし、もっと早く貴女を私から解き放ってあげるべきだったわ」

「マヤリィ様…。思えば、ジェイが貴女様のお傍を離れたことはありませんでしたね…」

やっとのことでルーリは言う。

「分かっております。貴女様に相応しいのは私ではなくジェイ。…それが分かっているのに、私は未練がましく貴女様を想い、タンザナイトに甘えて泣き続けています。大変愚かしいことですが、今の私は往時のラピスラズリのようですね…」

ルーリとの恋に溺れて職務放棄し、挙げ句の果てに女王を裏切った人造人間ラピスラズリ。

「無論、貴女様を裏切ろうとは微塵も思っておりませんが、今の私には女王陛下の側近など務まらないでしょう。貴女様をお支えする立場でありながら、このような体たらく。本当に申し訳ございません、マヤリィ様…」

そう言いながら、ルーリは涙を流す。

「畏れながら、女王様」

ルーリの様子を見かねたタンザナイトが口を挟む。

「ご無礼を承知でお聞きします。女王様はなぜ今日のことを事前にルーリ様に話されなかったのですか?」

「それは…少し話が長くなるけれど…」

マヤリィは言いづらそうに話を始めた。

「ルーリが私に『魅惑』の許可を求めてきたあの時、私は玉座の間でジェイと一緒にいたの。ずっと魅惑の件で悩んでいたのに、結局ルーリは私の所には来てくれないのだと思ったら、悲しくなってしまったのよ」

「マヤリィ様…」

ルーリもあの時の『念話』を思い出す。

《こちらルーリにございます。マヤリィ様、お許し頂きたいことがあるのですが、今よろしいでしょうか?》

《こちらマヤリィ。許可するも何も、既に『魅惑』が発動しているみたいよ?…好きにして頂戴》

リッカを襲う許しを得ようとしたルーリだが、既に魅惑は発動しており、マヤリィは気付いていた。

「それで…私はつい感情的になってしまったの。そうしたら、ジェイが…」

『「姫、そんな顔しないで下さい。貴女には僕がついてます。絶対に離れないって約束したじゃないですか」』。

珍しく感情が表に出ているマヤリィを見ても動じることなく、ジェイは優しく声をかけたのだ。

「気付いたら、私は彼のことをこう呼んでた。『未来の旦那様』ってね。…でも、未来なんかじゃなかった。その後すぐに気持ちを確かめ合って、ジェイが私の言葉を受け入れてくれたのが嬉しくて、皆にも認めてもらいたくて…。他に何も考えられなくなったの」

マヤリィは話し続ける。

「結局、ルーリに伝えようと思う余裕もなく、私は今日皆の前でこの話をした。…ごめんなさいね、ルーリ。ナイトが言うように、事前に貴女に話すべきだったわ」

「いえ…。私などに謝らないで下さいませ、マヤリィ様」

ルーリは涙声である。

「私が『魅惑封印』の呪いを自分自身にかけてしまった時、それを解いて下さったのは貴女様です。『能力没収』によってジェイから魅惑を取り上げられた時、それを取り返して下さったのは貴女様です。なのに…私は……」

「ルーリ。もう魅惑を制御出来ないことについて悩む必要はないのよ。私との関係が終わった今、貴女の中のサキュバスは解き放たれたの。だから…もう無理をしないで、自由に生きて頂戴」

しかし、ルーリは首を横に振る。

「マヤリィ様…。私は貴女様に振られて生きていけるほど強くはありません。今だって…貴女様を抱きしめたくて仕方ないのです」

泣きながらマヤリィの前に跪くルーリ。

「愛しています、マヤリィ様。もう一度機会を頂けるなら、今度こそ貴女様を裏切るようなことは致しません。私は自由よりも貴女様の愛の束縛が欲しいのです。…どうか、お許し下さいませ」

そう言って頭を下げるルーリを見ながら、マヤリィはなんと声をかけるべきか迷っていた。

(ルーリ…。そんなこと言わないで…)

自分との関係が終わっても、ルーリには他にも愛する人がいるから大丈夫だと思っていた。そもそも、彼女は夢魔なのだから、縛り付ける方が間違っている。マヤリィはルーリが浮気を繰り返すたびにそう思うようになっていた。

しかし、ルーリが本当に愛していたのはマヤリィただ一人だったらしい。

「…無理よ、ルーリ」

マヤリィはしばらく黙っていたが、やがて憂いを帯びた声で告げる。

「私達はもう恋人ではないの。今の私は…ジェイの妻になったも同然なのよ」

流転の國に婚姻届は存在しないが、マヤリィの言葉がどういう意味かは分かる。

「そう…でございますよね……」

ルーリはもう取り乱すことはしなかった。

だが、彼女が絶望していることはタンザナイトにも伝わった。

(ルーリ…。私は今、貴女の為に何が出来るのかしら)

本人も言う通り、今のルーリには女王の側近を務めることは出来ないだろう。

それどころか、魔術師としての活動にも支障をきたすかもしれない。

マヤリィに振られたルーリの心の傷は深い。

(ルーリ…。全部、私のせいね…)

と、その時。マヤリィの脳裏にいつか聞いた言葉が甦る。

『「ルーリは貴女の恋人である以前に、流転の國の女王に絶対の忠誠を誓っている配下の一人。僕も含め、本来ならば不平不満を言える立場ではありません」』。

マヤリィは以前もルーリのことで悩んでいた。そんな時にジェイが言った言葉だ。

(そうね…。私は流転の國の女王なのだから、冷静さを欠いてはいけないわ…!)

そして、マヤリィは聞く。

「ルーリ、聞かせて頂戴。これから貴女はそのナイフをどうするつもりかしら?」

「っ……」

マヤリィの言葉に絶望したルーリが密かにアイテムボックスから取り出し隠していたナイフ。『透明化』をかけているのに、なぜか見破られてしまった。

「私が気付かないとでも思っていたの?」

「…。マヤリィ様の目を誤魔化せるはずはありませんね…」

ルーリはそう言うと、透明化を解いてナイフを床に置いた。

「申し訳ございません、マヤリィ様。私は…」

「ルーリ様、まさか自死なさるおつもりだったのですか?」

タンザナイトがルーリの言葉を遮る。

「貴女様が女王様を傷付けるなんてことは有り得ません。そうですよね?」

「…ああ。その通りだ、タンザナイト」

ルーリは素直に頷く。

どちらにせよ、悲しみの感情を抱くタンザナイト。

「きっと私はもうマヤリィ様のお役に立てない。ならば…」

「それ以上言わないで!」

今度はマヤリィがルーリの言葉を遮る。

「貴女ってひとは…どこまで私を翻弄すれば気が済むのかしら」

そう言うと、マヤリィはルーリの身体を強く抱きしめる。

「マヤリィ様…!?」

ルーリは驚くが、悲しみに満ちた瞳を見て、何も言えなくなる。

「どうか許して頂戴、ルーリ。結局、私にはこれしか出来ないの…!」

「…。畏まりました、マヤリィ様」

ルーリには、これからマヤリィが何をしようとしているか分かった。

今の自分を救う為に、マヤリィが何をしようとしているか分かった。

(どういうこと…?)

タンザナイトはまだ状況が掴めないが、ルーリは優しい声でマヤリィにささやく。

「マヤリィ様、最後にもう一度言わせて下さいませ。私は心から貴女様を愛しております。いつか私が目覚めた時は…また抱きしめて頂けますか?」

「ええ、勿論よ。私だってルーリを愛しているの。出来たらこんな魔術はかけたくないのだけれど…」

(母上様、まさか……)

タンザナイトは気付いた。今からマヤリィが何をするのか。

「大好きよ、ルーリ。またいつの日か必ず会いましょう。貴女が私を忘れても、私は貴女を忘れない。約束するわ」

「マヤリィ様…ありがとうございます…!」

ルーリはマヤリィの美しい微笑みを見て、ゆっくりと目を閉じる。

そして次の瞬間。

意識を失ったルーリは力なくマヤリィに寄りかかった。

「ルーリ様!?」

タンザナイトが慌ててルーリに駆け寄る。

「ルーリ様!!」

必死に呼びかけるが、ルーリは動かない。

「…女王様。今、何の禁術をかけたのですか?」

珍しく鋭い視線をマヤリィに向ける。

しかし、マヤリィは冷たく言い放った。

「答えが分かっているのに聞かないで頂戴」

「女王様…!」

タンザナイトは珍しく怒りの感情を覚えるが、すぐにそれは悲しみに変わった。

ルーリを抱えたまま、マヤリィが静かに涙を流しているのだ。

「私の大切なルーリ。今は悲しみも苦しみも私のことも、全て忘れてゆっくり眠りなさい…」

マヤリィは愛おしそうにルーリを見つめながら、その唇にキスをする。

そして、耳元で優しくささやいた。

「いつか貴女が目覚めたら…きっとまたウェーブヘアに出来るはずよ」

『記憶』を操作する禁術の副作用は『昏睡状態』。

マヤリィは他に何も思い付かず、ルーリをこれ以上苦しめない為に『忘却』魔術をかけ、彼女を長い眠りに就かせました。


今回の忘却魔術は長期間に渡ります。

ルーリが目覚めた時、何を覚えているのか、何を忘れているのか、今はマヤリィにさえ分かりません。

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