⑩憧れの人
もう都には帰らないと決めているステラ。
将来は都の黒魔術師になると言うシャドウ。
そんな子供達を見ながら葛藤するリュート。
彼等を救うのは桜色の都か、それとも…?
「やっぱ兄さんはこの状況を変えるべきだと思ってんの?」
シャドーレとクラヴィスが帰った後、ステラはリュートに訊ねた。
「あたしは都に帰りたいなんて思わないし、兄さん達のこともチビ達のことも好きだよ?でも…解決しなきゃなんない問題なのかなぁ」
机の上に座り、足をゆらゆら動かしながら腕を組む。
「ステラ…。正直な話、どうするべきなのかは僕にも分からないんだ。ただ、懸念しているのは君の身体のことだよ。…子供が増えれば君は必ず魔術をかけてくれるからね」
子供達の精神を支えるステラの白魔術。それを発動する為には多くの魔力を必要とする。
「だって、苦しませたくないじゃん?あたしの力が及ばずに死んでいった子達もいるけど…せめて今生きてる皆にはつらい思いを抱えて欲しくないんだよ」
ステラはそう言いながら涙を流す。
彼女は精神強化系の白魔術は得意だが、重症の子供を助けられるほどの回復魔法は使えない。
「それに、置き去りにされた子を見つけたらほっとけないでしょ?だから……」
その時、ステラが激しく咳き込む。
「ステラ、大丈夫か?…水を持ってくるよ」
しかし、彼女は首を横に振る。
「行っちゃやだ。あたしは平気だから、もうちょっとここにいて…」
自分の身体を酷使して魔術の発動を続けるステラ。元気に振る舞ってはいても、こうしてたびたび咳き込み、身体は痩せ細っている。
(もっと早く国境線に踏み込むべきだったのか、それとも、桜色の都から遠く離れるべきだったのか…)
リュートは悩む。都に帰りたいとは思わないステラのような子もいれば、シャドウのようにいつか都の黒魔術師になりたいと言う子もいる。
「悲しいけどさ、桜色の都に解決出来る問題とは思えないな。国の端っこに住んでる田舎者の暮らしなんて、国王に分かるわけないじゃん?」
ステラは話を最初に戻す。
「…それとも、宙色の大魔術師様ならあたし達を救ってくれるの…?」
宙色の大魔術師様。それはこの世界に存在する全ての魔術を司る御方であり、流転の國を統べる女王様でもある。
ステラにとっては伝説に等しい存在だったが、先ほどの『お客様』は流転の國の主に代わって来たと言っていた。
「ステラ、君は流転の國の主様にお会いしたいか?」
リュートが聞く。不自由で閉鎖的な桜色の都で育ってきたステラは、流転の國に憧れている。
が、
「な、何言ってんの?あたしなんかが会えるわけないじゃん!兄さん、つまんないこと言わないでよ!」
素直になれないステラ。
「クラヴィス様にお会い出来ただけでも凄いことだし…。ってか、第一印象ヤバかったよね…」
何も知らずに部屋に飛び込み、いつもの調子で喋ったことを後悔している。
「気にするな。その程度で君を見下すような心の狭い御方ではないよ」
「だけどさ…」
「ステラ。もう一度聞くよ。流転の國の主様にお会いしたいか?」
何か言いかけたステラの言葉を遮り、リュートは同じ問いかけをする。
「そりゃあ…お会いしたいに決まってるじゃん!宙色の大魔術師様はあたしの憧れの人なんだよ…?」
ステラはそう言って俯く。
その時、部屋の中に人の気配を感じる。
「誰っ!?」
「ふふ、貴女の魔力値は報告以上に高そうね…」
気付けば、ステラの目の前に一人の女性が立っていた。
「初めまして、ステラさん。私は流転の國の女王マヤリィ。私も…貴女に会いたかったわ」
美しい微笑みを浮かべ、女王は少女に話しかける。
その耳には、宙色に輝く耳飾りが揺れていた。
クラヴィスから報告を受けたマヤリィは『高い魔力を持つ14歳の白魔術師』に興味を持ち、すぐに王都から砂の王国まで長距離転移してきたのでした。
それにしてもマヤリィ様、会いたいって言ってもらえるのを待ってたんですか…?




