第101話 お前を守りたい
ルーリ様、今日はずっと一緒にいて欲しいんです。
マヤリィとタンザナイトが流転の國に帰還すると、玉座の間で待機していたルーリが迎えた。
「ルーリ、今帰ったわ。最高権力者代理の役目、ご苦労だったわね」
「はっ。勿体ないお言葉にございます、マヤリィ様。ご帰還をお待ち申し上げておりました」
ルーリはそう言って頭を下げる。何の問題もなく代理任務が終わり、マヤリィとタンザナイトが帰ってきたことを嬉しく思っている。
「只今戻りました、ルーリ様」
「お帰り、タンザナイト。桜色の都は楽しかったか?」
しかし、ナイトの表情は珍しく曇っている。
「ナイト、大丈夫か?何があったんだ?」
すると、タンザナイトは黙ってルーリに抱きつく。
ルーリは心配そうにナイトを抱き留めながら、マヤリィに説明を求めようとする。
が、
《今は何も聞かないであげて頂戴》
マヤリィの哀しそうな声を聞いて頷いた。
「ナイト、私が傍にいるからもう何も心配しなくていいぞ」
「ルーリ様ぁ…!」
性別を間違えられるのはいつものことなのでどうでもいいが、タンザナイトは突撃女子が怖かった。
あの後、盛大に(手加減した)黒魔術を披露して逆に彼女を怖がらせてきたが、未知の生物に出遭った衝撃は予想以上に大きかった。
ルーリは愛おしそうにナイトの髪を撫でながら言う。
「泣いてもいいのに」
「泣きたいところですが、涙が出ないんです」
「もしかして、そういう設計なのか?」
「いえ、違うと思うんですけど…」
そんな話をしつつ、ナイトはいつまでもルーリの傍を離れなかった。
(何があったか知らないが、どこのどいつがナイトにこんな顔させやがったんだ?いつか会ったらただじゃおかねぇ)
ルーリさん、絶世の美女が言う台詞じゃないよ。
スピカさん、シャドーレ様よりも遥かに怖い人の恨みを買ってますよ。
「ルーリ様…?」
気付けば『悪魔変化』しかけていたルーリをナイトが見つめている。
「すまない、何でもないんだ」
ルーリは(怖がらせてしまったかな…)と反省するが、タンザナイトは怖がる素振りも見せず、少し落ち着いた様子で言った。
「ルーリ様、約束です。僕の部屋に来て下さい」
「本当にいいんだよな…?」
「はい。今日は…朝までずっと一緒にいて欲しいんです」
ルーリもタンザナイトも、大幅に魔力や体力を消耗しない限りは睡眠を必要としない。
「分かった。お前と一緒に過ごせるなんて、私は幸せだよ」
ナイトはその言葉に微笑むと、ルーリを連れて自室に『転移』した。
「お前、疲れているんじゃないか…?」
転移を発動したはいいが、ナイトの顔色が悪い。
「大丈夫ですよ。桜色の都では簡単な黒魔術しか使いませんでしたから…」
しかし、その声は弱々しい。
(疲れた顔もマヤリィ様そっくりだな…)
ルーリはそう思うと、
「たまには横になれ。今測ってみたが、かなり体力が落ちているぞ?」
熱を計るように体力値を『鑑定』し、ナイトを抱き上げてベッドに寝かせた。
「すみません、ルーリ様…」
「大丈夫だ。私がついているから、何も心配しないで休め」
「ありがとうございます…」
ナイトはそう言うと、やがて眠りに就いた。その首元には、神秘的な宝石が輝いている。
(お前が私より強くなったことは知ってる。でも、私はお前を守りたいんだ…)
ルーリは死んだように眠るナイトを見守りながら、いつまでもベッドの傍らに座っていた。




