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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第100話 混沌

マヤリィとタンザナイトが桜色の都に『長距離転移』すると、いつものようにヒカルが出迎えてくれた。

「お待ちしておりました、マヤリィ様。今日はタンザナイト殿が一緒なのですね」

「ご無沙汰しております、陛下。お会い出来て光栄にございます」

そう言ってタンザナイトが頭を下げる。

ヒカルの傍には侍従が控えているが、彼女の姿は見当たらない。

「会談の後でシャドーレの黒魔術を見たいと思っていたのだけれど、今日は忙しいのかしら?」

マヤリィが聞く。正確には、黒魔術書を読み解いたタンザナイトの魔術を見て欲しいのだが。

「いえ、遅れて来ることになっています。ちょうど今、王立魔術学校の卒業式が行われているところなのです」

「魔術学校の卒業式ですって?」

「はい。実は、今年の卒業生の中にシャドーレから実力を認められて『クロス』への入隊を許された初の女子学生がおりまして、卒業式が終わり次第ここへ挨拶に来ることになっています」

ヒカルは言う。

「マヤリィ様、突然で大変申し訳ないのですが、彼女の黒魔術も見てやって頂けないでしょうか?シャドーレが個人的に『クロス』の新人を私に紹介することなど滅多にないので、よほどの実力の持ち主だと思います」

「あら、それは期待して良さそうね」

マヤリィは微笑む。

「そういうことなら構わないわよ。『クロス』第二の女性魔術師に挨拶させてもらうことにしましょう。ねぇ、タンザナイト?」

「はっ。出来ましたら、わたくしの黒魔術もご覧になって頂きたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

それを聞いたヒカルは驚く。

「タンザナイト殿は…黒魔術も使えるのですか?」

「はっ。わたくしの専門は書物解析魔術にございますゆえ、黒魔術書を読み解けば黒魔術を発動することが可能です」

「ということは、黒魔術書の解析を終えたということですね…」

そう言いながら、ヒカルは初めてタンザナイトが都を訪れた際に披露した『複合魔術』を思い出す。あれは本当に怖かった…。

「…では、ヒカル殿。シャドーレが来るまでの間にこちらの仕事は済ませておきましょうか」

マヤリィは首脳会談が面倒…もとい疲れるので、早く始めて早く終わらせたいと思う。

「分かりました。それでは、早速…」

ヒカルもこの後のことが気になって落ち着かないので、早々と会談を開始するのだった。


「…来ませんね。お待たせしてしまって申し訳ありません、マヤリィ様」

「気にしないで頂戴。きっと、式が終わった後にも色々あるのよ」

「はい…そのようですね…」

待ち時間でなければ落ち着いて話も出来るのだが、いつ来るか分からないとあってはヒカルも困ってしまった。

そこへ、

「畏れながら、陛下。よろしければ、先に訓練所を使わせて頂けませんか?シャドーレ様に良い所をお見せしたいので、少々練習などを…」

タンザナイトがそう言ってヒカルの目を見る。

優しげな声に遠慮がちな上目遣い。ナイトのよそゆき顔はヒカルの心を揺さぶった。

「そ、それは良い考えですね…!ぜひ、使って下さい…!」

「ありがとうございます、陛下」

ナイトは畳み掛けるように可愛らしい微笑みを見せる。

(か、可愛い……)

年上好きのヒカルだが、流転の國の夢魔でさえ虜にするナイトを前にしては胸の鼓動を抑えられない。

そんなわけで、訓練所に着くまでの間にナイトとの会話を試みる。

「…ところで、タンザナイト殿には、す…好きなお方などは…おられるのですか?」

そして突然、こういう質問が始まる。

「好きなお方にございますか?」

「は、はい…。流転の國に貴女の愛する男性はいらっしゃるのでしょうか…?」

「いえ、おりません」

こういう話になると、いつものような応対になるタンザナイト。

「そ、そうですか…。突然すみません…」

「お気になさらず。わたくしは人を愛するとはどういうことか、いまだに分からないのです」

勿論、マヤリィのことは愛しているが、恋愛方面となると分からない。

「そ、そうなのですね…」

ヒカルは少し気まずくなるが、その様子に構わずタンザナイトは訊ねる。

「陛下は何方様を愛していらっしゃるのですか?」

「えっ…?」

「もしくは…恋と呼ぶべきなのでしょうか?」

「そ、それは…」

今まさに傍を歩いているタンザナイトに惚れてしまったのだが、いきなりそんなことは言えない。

ヒカルが口篭っていると、

「以前わたくしはある人から言われたことがあります。『どうせ貴女は誰のことも愛せない』と…」

ナイトの方から話し始めた。

「特に気に留めもしなかったのですが、今考えると彼女の言ったことは正しかったのかもしれませんね」

「待って頂戴、ナイト」

その話に敏感に反応したのはヒカルではなくマヤリィだった。

「誰が貴女にそんなことを言ったの?」

「申し訳ありません、女王様。余計なことを言ってしまいました」

「謝れとは言っていないわ。一体誰が貴女に……」

そこまで言いかけて、マヤリィは気付いた。

(あの出来損ないの人造人間が…!)

「マヤリィ様…?」

いつにないマヤリィの様子を見て、ヒカルは恐る恐る声をかける。

直後、マヤリィは我に返った。

「あら、ごめんなさいね。何でもないの。気にしないで頂戴」

「は、はい…!」

無意識のうちに魔力を放出していたのか、その場にはピリピリとした空気が漂っていた。マヤリィの魔力圧は本人も気付かぬうちに周囲に恐怖を感じさせることがある。

だが、それはすぐに消えた。

訓練所に到着したのだ。

「こちらが訓練所にございますか…!」

流転の國と比べればどうしても見劣りしてしまうが、それでも桜色の都最高峰の設備が整った訓練所だ。

「タンザナイト殿、今日はこちらで魔術を見せて下さい」

「畏まりました、陛下」

以前都を訪れた際、タンザナイトは訓練所ではなくシャドーレが『結界』を張った中庭で魔術を披露した為、ここに来たのは初めてである。

と、その時。

「タイミングが悪いですね…」

ヒカルの使い魔である白い鳩が飛んできてシャドーレの到着を知らせた。

「すみません、マヤリィ様。たった今、シャドーレが『クロス』の新人を連れて来たそうです」

「あら、そうなの?では、先に挨拶させてもらおうかしら」

マヤリィはそう言うと『空間転移』の魔法陣を展開する。

「マヤリィ様、それは空間転移魔術ですか…?」

「ええ。時短になるでしょう?」

…そういう問題なのか。

マヤリィは最初から使えば良かったと思いつつ、

「ナイト、行ってくるわね」

《訓練所を壊したら駄目よ?》

「はっ。行ってらっしゃいませ」

《手加減の準備は出来ております》

口に出す言葉と出さない言葉。

二人は『念話』を織り込んで会話する。

「ヒカル殿、行くわよ」

「は、はいっ!」

転移に慣れていないヒカルは戸惑いながらマヤリィの傍に寄る。

次の瞬間、二人は王宮の前に立っており、そこにはシャドーレと魔術学校の制服を着た女性の姿があった。

シャドーレはその場に跪くと、

「マヤリィ様、陛下、大変お待たせして申し訳ございませんでした。此度は『クロス』の新しい隊員を紹介させて頂く機会を下さり感謝致します」

そう言って深く頭を下げた。続いて、隣の女性も跪く。マヤリィは緊張した様子の二人を見て、微笑みながら挨拶する。

「ごきげんよう、シャドーレ。会えて嬉しいわ。それに、そちらの黒魔術師さんもね」

「はっ!お初にお目にかかります…!」

マヤリィは気品にあふれた佇まいで美しい笑みを浮かべている。

彼女は少しの間見とれていたが、シャドーレに促されて真面目な顔で挨拶する。

「私はスピカ・アーテルと申します。流転の國の女王様、お会い出来て大変光栄に存じます…!」

「初めまして、スピカさん。ご存知の通り、私が流転の國の女王。名はマヤリィよ。今日はシャドーレが認めたという貴女の実力をゆっくり見せてもらうわね」

「はっ!女王陛下のご期待にお応え出来ますよう、全力を尽くさせて頂きます!」


その頃、タンザナイトは一人訓練所で『流転の羅針盤』を手に取って見ていた。

(僕が余計なことを言ったばかりに女王様の気分を害してしまった…。無駄話なんてするべきじゃなかった)

いや、タンザナイトさん。途中までは陛下にとって物凄く大切な話をしていたんですよ。

(まぁ、今考えていても仕方ない。後で改めて謝ろう)

ナイトは素早く気持ちを切り替えると、シャドーレに見てもらいたい黒魔術を試しに発動してみることにした。

宙には黒魔術書が浮かんでいる。それは、かつてラピスラズリが読んでいた本だ。

「…僕は書物の魔術師。恋は知らなくとも女王様の御為ならばどんな魔術だって使ってみせます」

そして、タンザナイトは魔法陣を展開する。

「『多重展開』!!」

周囲に次々と魔法陣が現れ、その一つ一つに魔力が宿っていく。

「発動せよ、流転の…」

そう言いかけた瞬間、マヤリィの『転移』によってヒカル、シャドーレ、スピカが一緒に現れた。

(女王様…!)

とりあえずタンザナイトは魔術の発動を取りやめ、多重展開した魔法陣から消していく。

「シャドーレ様、あのお方は…!?」

離れた所からナイトの姿を見て、スピカが興奮した様子で訊ねる。

「流転の國からいらした『書物の魔術師』タンザナイト様ですわ。マヤリィ様の配下の中で最年少と伺いました」

(あれは黒魔術の術式…。スピカが反応するのも当然ですわね)

シャドーレはついに黒魔術書を解析したかと感心しながらナイトを見ている。

が、スピカは違う意味で興奮していた。

美しい魔法陣の中央に立ち、周囲には不思議なマジックアイテムと魔術書が浮いている。

白い背広に白いビジネスシューズ。ライトブラウンの髪、しなやかな指先、洗練された立ち姿。

「タンザナイト様、とおっしゃるのですか…!」

スピカは今にも駆け出したい気持ちを抑えて、タンザナイトがこちらに来るのを待つ。

そんな彼女をシャドーレが心配そうに見る。

「スピカ、顔が赤いですわよ?」

「えっ…」

ヒカルも彼女の顔を見る。

「大丈夫ですか?緊張しているのでは?」

「は、はい…」

(全然、大丈夫じゃないです…!)

そして、タンザナイトと至近距離で顔を合わせるや否や、スピカは言った。

「初めまして、タンザナイト様。私はスピカ・アーテルと申します。…あの、よろしければ私と付き合って頂けないでしょうか?」

「えっ…?」→マヤリィ

「えっ?」→シャドーレ

「えっ!?」→ヒカル

「陛下の御前で大変申し訳ございません!されど…私は恋に落ちました。貴方様に一目惚れしてしまったのです…!」

(一目惚れって何だっけ…)

当のナイトはわけが分からず困惑する。

(恋に落ちた?付き合う?…僕と??)

スピカの言葉を分析しても意味不明なので、とりあえず挨拶をすることにしたが、

「初めまして、スピカ・アーテル様。…えっと、今のお言葉は…?」

全然自己紹介にならない。

「言葉通りにございます。私は貴方様が好きです。私の恋人になって下さいませ!!」

「落ち着きなさい、スピカ」

呆気に取られていた三人のうち、最初に彼女を制止したのはシャドーレだった。

「貴女、自分が何を言っているか分かっているの?」

「はい。大変な我儘を申していることは百も承知にございます。されど…」

そう言って熱っぽくタンザナイトを見つめる。

「どうしようもなく彼を好きになってしまったのです!…シャドーレ様、このような姿をお見せして申し訳ございません!!」

「…………」

暫しの沈黙の後。

「タンザナイト、こちらに来て頂戴」

「はっ」

マヤリィに呼ばれ、ナイトは逃げるようにスピカの傍を離れる。

《母上様、申し訳ありません。このような事態は想定外にございます》

《大丈夫よ、ナイト。貴女が謝る必要なんてないわ》

本気で動揺しているナイトに優しく語りかけると、マヤリィはスピカに告げる。

「…貴女、何か勘違いしているようだけれど、タンザナイトは女の子よ?」

「えっ…?」

「最初は同性愛者なのかと思ったわ。でも、貴女はこの子を『彼』と呼んだわね?」

「は、はい…」

「貴女もシャドーレの傍にいるなら分かるでしょう?ナイトもこういった服を着て、髪を短くしているけれど、女性なのよ」

「そう…でございましたか…」

スピカはレズビアンでもバイ・セクシャルでもない。

とんでもない勘違いをした上に初対面の(しかもマヤリィの配下)相手に交際を申し込み困らせてしまった。…事もあろうに陛下の御前で。

(私…どうしたら良いの……?)

スピカは呆然としたまま俯く。

(やっと大人しくなった…)

事態が沈静化したことを悟ったタンザナイトは、少しだけスピカに歩み寄る。

「スピカ・アーテル様。改めて自己紹介をさせて下さい。わたくしは流転の國の女王マヤリィ様の配下にして『流転の羅針盤』を賜りし書物の魔術師タンザナイト。本日はシャドーレ様にわたくしの黒魔術をご覧になって頂きたく参上致しました。どうぞよろしくお願い申し上げます」

タンザナイトは甘く柔らかな声できちんとした挨拶の言葉を述べると、可愛らしい微笑みを浮かべながら優美な物腰でお辞儀した。

遠目では見間違えて近くでも錯覚していたが、目の前の魔術師は確かに女性だ。

スピカが違う意味で見とれている間に、

《ナイト、私の後ろに来なさい》

《はい》

マヤリィはナイトを守るように自分の後ろへ隠すと、スピカに冷たい視線を向ける。恐ろしい魔力が訓練所に広がっていく。

「言っておくけれど、私の配下に気安く近付かないで頂戴。…次はないわよ?」

静かな声でマヤリィがそう言った時、空気が凍り付いた。

端から見ればとても怒っているようには見えないのに、いまだかつて味わったことのない恐怖を感じてスピカは硬直する。

ヒカルもシャドーレも何も言えずにいる中、かろうじてスピカはその場にひれ伏し、決死の思いで謝罪した。

「女王陛下、此度は誠に申し訳ありませんでした。二度とこのようなご無礼を働くことは致しません。どうかお許し下さいませ…!」

その後、

《母上様、訓練所に罅が入りそうです》

というナイトの念話でようやく魔力を解いたマヤリィであった。


そして、二人が流転の國に帰った後、スピカは当然ながら厳しい叱責を受けた。…シャドーレから。

「陛下の御前ですから、今はこれくらいにしておきましょう。とはいえ、まだまだ言わなければならないことは沢山ありますの。今のうちに覚悟しておきなさい。私、これでもかなり怒っていますのよ?」

シャドーレは怖い顔でスピカに宣告する。

実際に会ったのは二回目だが、今のスピカは既に『クロス』の隊員。

シャドーレは監督不行き届きをヒカルに謝罪する。

「ヒカル様、部下の非礼を深くお詫び申し上げます。全てはあのような行為を止められなかった私の責任にございますわ。こののち、私は如何なる処罰でもお受け致しますゆえ、どうかこの者をお許し下さいませ」

そう言ってシャドーレはヒカルの前にひれ伏す。

「頭を上げて下さい、シャドーレ。私の言葉を聞きなさい、スピカ」

ヒカルは穏やかな声で語りかける。

「確かに、今日の出来事に関しては大いに驚かされました。流転の國の主様の御前で、初めてお会いする配下の方にあのような接し方をしたのは良くなかったと私も思います。…されど、王立魔術学校を首席で卒業した貴女は、勉強漬けの日々を送り、プライベートな時間まで魔術の習得に充てていた。だからと言って同情するわけではありませんが、恋をする余裕も友人と遊ぶ時間もなかったのでは?」

話しながら脳裏に浮かぶのは、この上なく魅力的なタンザナイトの姿だ。

「そして今日、貴女は学生という身分から解放され、タイミングが良かったのか悪かったのか定かではありませんが、タンザナイト殿という素晴らしい魔術師に出逢ってしまった。…こうして思いを巡らせていると、私は一概に貴女を咎める気にはなれないのですよ」

桜色の都の国王ヒカル御年19歳。様々な困難を乗り越えるうちに達観の境地に辿り着いたか?

「シャドーレ、貴女の部下に対する思いはよく分かりました。その責任感の強さは全く変わっていませんね」

起きてしまった問題から目を背けず真っ向から向き合い、常に自分が全責任を負うという覚悟はツキヨが国王だった時代と何も変わらない。

これはヒカルが即位する前の話だが、国を揺るがす大問題が起きた時、命がけでツキヨ王を守ろうとしたのは当時『クロス』の副隊長を務めていたシャドーレだけだった。

そして今、シャドーレは失態を犯した部下の罪を被ろうとしている。

「いえ、部下の罪は上司である私の罪にございますわ。これは当然のことかと存じます」

言っていることはもっともだが、こういう場合どんな罰を与えれば良いのかヒカルには分からない。

マヤリィと同じで、配下を処罰しなければならないのはつらい。

そもそも、これって何罪なの?

ヒカルは悩んだ結果、

「これから私は独り言を言います」

不思議な宣言をする。二人は黙り込む。

「今日、私は流転の國との首脳会談に臨んだ。流転の國の女王マヤリィ様はいつもと変わりないお美しさと聡明さで、話し合いを円滑に進めて下さった。…お陰で会談は滞りなく終了したが、今日マヤリィ様と一緒に来られた魔術師の方が誰だったか思い出せない。えっと…誰だったかな…」

(陛下…まさかこの一件を完全に『なかったこと』にされるおつもりですの?)

ヒカルの『独り言』の意味に気付くシャドーレ。

「まぁ、いいことにしましょう。今日は訓練所も使わなかったし、マヤリィ様もいつもより早くお帰りになられたから」

「陛下…!」

先に声をかけたのはスピカだった。

「今のお言葉は……」

「あ。私の独り言、聞いていましたか?」

「畏れながら、陛下。私も聞いてしまいましたわ」

シャドーレも言う。

「そうでしたか。…では、聞かなかったことにして下さい」

それまで穏やかに話していたヒカルは急に語調を強める。

「スピカ、私の独り言は忘れて下さい。…いいですね?」

「はっ!か、畏まりました、陛下…」

「では、先に帰りなさい。私はシャドーレと話がしたい」

「はっ!で、では…失礼致します…!」

スピカはそう言うと、深く頭を下げ、王宮を後にした。

(つまり…どういうことなの?)

色々ありすぎてスピカは混乱している。

「…さて、シャドーレ。貴女になら伝わったかと思いますが」

「はっ。陛下の慈悲深きお心に深謝致しますわ。私はこれ以上スピカを叱るつもりはございません」

「ありがとう。それを聞いて安心しました」

ヒカルはそう言って微笑むと、

「…ここだけの話ですが、私もタンザナイト殿に惹かれているのです」

シャドーレしかいないのに小声で話す。

「しかし、タンザナイト殿はマヤリィ様の大切な配下ですし、私には彼女のように突撃する勇気がありません」

「突撃せずとも…想いを伝えられたらよろしいのではないでしょうか?」

思いがけず、現実的な答えが返ってきた。

シャドーレはヒカル王の将来を見据えている。

「タンザナイト様ならば、年齢的にも陛下と釣り合いますわ。マヤリィ様にお願いして、あのお方を桜色の都の王妃に迎えられたら、それはそれは素晴らしいことにございますわね」

「は、はい…。そうですね…」

年齢差に阻まれて公爵令嬢を妃に迎えられなかった若き国王は今、同い年の隣国の魔術師に恋をしている。

「本当にそれが叶ったら…嬉しいな…」

ナイトの可愛らしい微笑みを思い出し、ヒカルは頬を染める。

だが、その微笑みは精巧に作られた『よそゆき顔』に過ぎないのだ…。

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