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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第98話 懸念事項

今年の『クロス』採用試験の結果、入隊を許されたのはスピカ・アーテルを含めて三人だけだった。

しかし、不採用となった者の中にも将来有望な若者は沢山いるので、彼等の受け皿として、かねてよりヒカル王が考案していた『クロス』の第二部隊を作ることが決まった。

「採用試験で一定の条件を満たした者には、新設される第二部隊への入隊案内を送付致します。これに関しては、人数の上限を決めず、試験も行いません。既に国王陛下からの許可も頂いております」

第二部隊結成の責任者を任された『クロス』の副隊長ネスは、そう言ってウィリアムに入隊案内を見せた。

「ご苦労様。後は、入隊希望者が多いことを祈るばかりだね」

「はい。黒魔術科の学生はまだまだ数が少ないゆえ、部隊として成立するだけの人数が集まることを願っております」

例年よりも『クロス』の採用試験を受けた者は多かったが、大規模な白魔術師部隊とは比べ物にならないほど人数の差がある。

「本隊は新人に対しても厳しいが、第二部隊は魔術学校の延長線のようなものだと思っていて欲しい。最初は個々の実力に合わせた緩やかな訓練から始めるんだ」

ウィリアムは言う。

「それに、入隊資格を持つ三分の一は女子学生だろう?シャドーレ様は出来る限りフォローしたいと仰せだったが、何しろ多忙な方だから…」

今まで『クロス』の女性隊員はシャドーレだけだったので、新人を教育する女性の先輩がいない。

「はい。そちらに関しても伺っております。シャドーレ様は本隊から『出来る限り真面目な教育係』を選んで第二部隊に送るとおっしゃっていました。…それよりも、問題はスピカ・アーテルでは?」

ネスがそう言うと、ウィリアムの顔が曇る。

結局『クロス』の採用試験を突破することが出来た女子学生はスピカ一人だった。

「私も、彼女のことを心配しているよ」

ウィリアムは直接知らないが『クロス』結成当時のシャドーレのことを思うと、新人の女性隊員が一人であることは大きな懸念事項である。

正式に国王直属の精鋭黒魔術師部隊が結成されたのは、十年以上前の『天界との戦』が終わった直後だった。

その時、副隊長に任命されたシャドーレは『クロス』の紅一点。当然、美しい副隊長を前にして若き隊員達が黙っていられるはずもなく、毎日のように何人もの隊員から言い寄られたと聞いている。

そして、その日々を終わらせたのは隊長を務めていたダークだった。

『ある日、困っている私を見たダーク隊長が今日からシャドーレは俺の恋人だ、と言って下さったのですわ』。

半ば強引に恋人にされた形だが、シャドーレは本気で彼を愛するようになり、ダークもまた一途に彼女を愛していた。

その話を聞いたネスは複雑な表情を浮かべる。

「それは…隊長にとってつらいお話なのではありませんか?」

現在、シャドーレはウィリアムの妻である。

「…確かに、今でもメアリーはダーク隊長のことを思う時があるだろう。でも、それは私だって同じだ。ダーク隊長のことを考えると、今だって悲しいよ」

任務の途中で殉職したダーク隊長。当時、副隊長だったウィリアムは彼から色々な仕事を教わった。

「申し訳ありません。余計なことを言ってしまいました」

「いや、貴方が心配するのも無理はない。…そろそろ話を戻そうか」

「はっ」

特別顧問であるシャドーレはいつでも訓練所に来られるわけではない。つまり、今度はスピカがかつてのシャドーレと同じ立場に置かれるのだ。

「せめてもう一人女子がいれば良かったかもしれないけど…こればかりは仕方ないな」

『クロス』に入隊出来るだけの力を持つ女子学生はスピカしかいなかったのだ。

「勿論、彼女が困ることにならないよう隊員達には釘を刺しておくし、改めてシャドーレ様とも話をする。そういうわけだから、本隊は私に任せて、ネスは第二部隊に専念して欲しい」

「はっ。畏まりました」

ウィリアムの言葉を聞いて、ネスは頭を下げる。

魔術学校の卒業式が迫っていた…。

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