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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第97話 ごきげんよう

男女の区別なく…というヒカル王の言葉通り、面接を受けに来た女子学生は例年よりも多かった。

面接官のシャドーレは実技試験の結果を確認しつつ、数値では測れない部分を見定めたいと思うのだった。


そして、いざ面接が始まると、学生は最初の試練にぶつかる。

部屋に入った瞬間、輝くばかりの美貌を持つ最上位黒魔術師と対面することになるのだ。

「ごきげんよう。『クロス』の面接へようこそ」

シャドーレがそう言って微笑むと、大抵の学生は彼女に見とれて硬直する。

「よ、よろしくお願いします…!」

まず、ここで篩にかけられる。

「失礼ですが…貴女様はレイヴンズクロフト公爵夫人でいらっしゃいますか…?」

本人を前にしてシャドーレ様、と馴れ馴れしく呼ぶわけにもいかず、学生は驚いた様子でそう聞いた。『クロス』の特別顧問が面接官をやるなど誰一人として予想していなかった。

「ええ。特別顧問を務めているシャドーレ・メアリー・レイヴンズクロフトと申しますわ。…早速ですけれど、面接を始めても良いかしら?」

「はいっ!よろしくお願いします!」

その後、落ち着いて話せるかどうかが合否を決めると言っても過言ではない。

桜色の都を代表する黒魔術師を前にして、緊張感は倍増する。特に狙ったわけではないのに、案外こういう所に人柄が現れる。

そんな中、スーツ姿で面接に臨む女子学生がいた。

在学中ということもあり制服を着てくる学生が多いのだが、彼女は第一印象を学校のレベルで決められたくないと思ったのかもしれない。

「ごきげんよう。『クロス』の面接へようこそ」

「ごきげんよう、レイヴンズクロフト公爵夫人。本日はよろしくお願い申し上げます」

彼女は予想外の面接官を前にしても動じることなく、落ち着いた様子で品良く挨拶をした。

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ。…では、早速始めましょうか」

シャドーレがそう言うと、両隣に座っている隊長と副隊長が頷いた。

最初に名乗らせないのは、身分や家柄による差別を避ける為であり、シャドーレの手元にある実技試験のデータの氏名欄も隠されている。

あくまでも公平に、という国王の通達を受けて、こういった配慮をすることになったのだ。

「最初に、貴女の研究論文のテーマとその内容について簡単に話してもらえるかしら?」

シャドーレは面接官らしく難しい質問もするが、後半は人柄を見る為の世間話が中心になっていく。

「ところで、最近は短髪の女子学生がいると陛下から伺ったのだけれど、貴女もその一人ね?」

『以前は当然のようにロングヘアの娘しかいませんでしたが、最近は短い髪が流行していると聞いています』と言ったヒカルの言葉を思い出す。

目の前の彼女はショートボブだった。顎のあたりで前下がりに切り揃えた赤い髪が印象的だ。

「はい。私は研究論文を提出した翌日に断髪致しました。畏れながら、公爵夫人に憧れております」

それまではずっと真面目な顔で受け答えしてきた彼女だが、シャドーレの顔を見て少しだけ頬を染めた。

「あら、それは光栄ですわ。…けれど、いまだに我が国では髪は女の命と言います。自分の髪が惜しくはありませんでしたの?」

「はい。家族からは止められましたが、私は長い髪に未練などありませんでしたので、迷わず鋏を入れました。結局、理髪店に連れて行かれることになってしまいましたが」

「ふふ、いきなりセルフカットとは大胆ですわね。その髪型、似合っていますわよ?」

シャドーレがそう言って微笑むと、彼女もつられて微笑んだ。

気の強そうな娘だが、かえってその方が『クロス』に向いているかもしれないとウィリアム隊長は思った。

その時、突然シャドーレが両隣に座っている隊長と副隊長に耳打ちする。

「えっ?シャドーレ様…?」

「少し失礼致しますわ」

副隊長が困惑している間にシャドーレはその場から立ち上がって魔術具を取り出した。

そして、彼女の元へ歩み寄り、一言。

「立ちなさい」

「はいっ!」

彼女はすぐに立ち上がる。

目の前には公爵夫人が立っている。

(こんなに背が高いなんて…!)

彼女も背は高い方だが、身長190cmのシャドーレを前にしては見上げるしかない。

(本物のシャドーレ様が…近い…!)

今まで必死に平静を装っていたのに、至近距離で公爵夫人の美貌を目にしては集中力も途切れそうになる。

(綺麗なプラチナブロンド…真っ白な肌…。なんて神秘的な瞳の色なの…!?)

彼女がシャドーレから目を離せずにいると、突然マジックアイテムを差し出された。

「これを持ってご覧なさい」

「はい…!」

長い槍の形をしたマジックアイテムを受け取る。

シャドーレは片手で持っていたが、いざ渡されると物凄く重い。

「これは『暗黒のティーザー』。黒魔術発動の手助けをしてくれるとともに、槍の穂先を使って物理攻撃も出来るマジックアイテムですの」

「物理攻撃にございますか…?」

彼女は魔術具を持つだけで精一杯である。こんなにも長くて重い槍を使って物理攻撃をするなんて自分にはとても無理だと思った。

「ええ。『クロス』では魔力を使った攻撃だけでなく、物理攻撃の訓練も行っています」

シャドーレはそう言うと、手を差し出してマジックアイテムを受け取る。

やはり、軽々と扱っている。この華奢な身体のどこにそんな力が隠されているというのだろう。

「『クロス』で活動する為には、魔術師としての実力だけでなく、厳しい訓練に耐えられるだけの体力や精神力が必要となりますわ。…貴女、その覚悟はあるかしら?」

体力値。彼女にとって一番自信のない部分である。

恐らく、実技試験のデータにも反映されているだろう。

それでも、力を込めて彼女は言いきった。

「はい!今は頼りないかもしれませんが、必要とあらば筋力の鍛錬に励み、体力値の限界を超えてみせます。私は自分に与えられた黒魔術の力を愛する桜色の都を守る為に使いたい、その一心でここまで参りました。覚悟は決まっております」

その瞬間、シャドーレは母親のことを思い出す。

『本気で黒魔術を使うのは人を守る時よ』。

初めて自分に魔術を教えてくれた亡き母の言葉を思い出す。

(貴女も…きちんと黒魔術の使い方を心得ているのね)

シャドーレは真剣な眼差しの女子学生を見て、大きく頷く。

「ありがとう。貴女の言葉は然と受け取りましたわ」

そして、

「最後に名前を教えてもらえるかしら?」

面接終了の合図だ。

「はい。王立魔術学校黒魔術科より参りました、スピカ・アーテルと申します。本日はありがとうございました」

スピカはそう言って深くお辞儀する。

「お疲れ様でした」

隊長と副隊長は立ち上がり、学生を見送ろうとする。

その時、

「スピカ・アーテル」

特別顧問は彼女の名を呼び、優しく微笑みかける。

「次は訓練所でお会いしましょう。貴女の卒業を楽しみにしていますわ」

結成から10年以上の時を経て『クロス』第2の女性魔術師が誕生した瞬間だった。

『クロス』の面接。

最初の試練は麗しいシャドーレ様のご挨拶に動じないこと…?


終始落ち着いた様子だったスピカ嬢も、至近距離でシャドーレを見た時は危うく集中力が途切れかけたとか。


最後の挨拶まで学校名を明かしませんでしたが、彼女が通う王立魔術学校は桜色の都の最難関。そして、シャドーレの母校です。

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