第95話 報告の書状
「お呼びでございましょうか、陛下」
「…来ましたね、シャドーレ。実は、先ほど流転の國のマヤリィ様から書状が届きました」
ここは桜色の都の王宮。突然マヤリィから書状が届き、それに目を通したヒカル王はすぐにシャドーレを呼び出したのだ。
「マヤリィ様からの書状…?まさか流転の國で何かあったのですか?」
浮かない顔のヒカルを見てシャドーレは心配に思う。
「いえ、特に何もありませんが、叔母上のことで連絡を下さいました。…もうレイン離宮には戻られないとのことです」
「リッカ様がレイン離宮に戻られない…?どういうことですの?」
シャドーレは不思議そうな顔をする。
離宮に戻る予定だったリッカが、マヤリィの提案を受けて流転の國に立ち寄ることになったのはシャドーレも知っている。だが、それは一ヶ月以上前の話。とっくにレイン離宮に戻っているとばかり思っていた。
「あの後、叔母上はずっと流転の國に滞在していたようです。そして『此度、リッカ殿を正式に流転の國にお迎えすることに致しました』と、ここに」
そう言ってヒカルはシャドーレに書状を見せる。
「つまり、リッカ様は流転の國に永住なさるということでしょうか?」
「はい。そのようですね…」
「それは嬉しいことにございますわね、陛下」
シャドーレは明るい声で言う。
「流転の國は素晴らしい所ですわ。マヤリィ様が一緒にいて下さるとなれば、リッカ様もさぞかしお心強いことでしょう。…貴方様は何を悩んでおいでですの?」
「いえ、悩んではいませんが…。また叔母上が我儘を言ったのではないかと思って心配しているのです。マヤリィ様にご迷惑をおかけしていないと良いのですが」
しかし、シャドーレは首を横に振る。
「大丈夫ですわよ、陛下。マヤリィ様は何かお考えがあってリッカ様に永住を勧められたのだと思います。流転の國はどんなにお願い申し上げたところで、マヤリィ様が認めて下さらなければ決して入ることの出来ない國にございますゆえ、此度のことはリッカ様の我儘などではないと断言致しますわ」
「そ、そうなのですか…?」
「はい。確かにマヤリィ様は優しく美しく可愛らしい御方にございますが、同時に底知れぬ恐ろしさをお持ちでいらっしゃいます。そのような御方に我儘を申し上げるなど、リッカ様に限らず誰にも出来ないことと存じます」
シャドーレは言う。
「流転の國の女王陛下は世界さえ支配出来る力を持っていらっしゃいます。…あの御方だけは敵に回したくないですわね」
「は、はい…。勿論です……」
ヒカルは無用の心配をしてしまったことを反省する。叔母上が我儘を言って申し訳ありません、とか返事に書く前でよかった…。
「では、マヤリィ様へのお返事は…」
気を取り直して返事の手紙をしたためようとするヒカルだが、
「マヤリィ様の直筆、久方振りに拝見致しましたが、相変わらずお美しいですわね…」
シャドーレがマヤリィの美文字に見とれて書状を返してくれないので、困ってしまった。
「シャドーレ、今から返事を書くのでもう一度読ませて下さい。その書状は後で貴女に差し上げますから…!」
ヒカルはシャドーレにそう約束して、ようやく書状を読ませてもらい、返事を書くのだった。
…お疲れ様です。
ほとんど繋がりがなくなっているとはいえ、リッカは桜色の都の国王の叔母です。
マヤリィにとって、ルーリとの茶番で言った台詞は本意ではないので、この先も流転の國で過ごしてもらうことに関しては当然ヒカルに報告する必要があると思いました。
…さすがに自分の配下にするとは書きませんでしたが。




