表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

魔王のしもべ



次の日の朝…


「そろそろこの場所からもおさらばしないとな」


いつもの笑顔で、リアンは言った。


「そうだな、長居は無用だろう」


「しかし、ゆく当てはあるのか、ルー」


「まぁ、考えがないわけではないが…」


少し陰のある顔で会話を受け流すルー。


「ここからは少し遠いが、本格的な魔物を手なずけて、引き連れるというのはどうだろうか」


「けど、それじゃあ魔王としての正体がわかってしまうんじゃないか?」


「いや、その心配はない。私には魔物を異次元に留めておいて、必要な時だけ戦闘に参加させるという能力がある」


「そりゃすごいな!いったい魔王様は、どこかの未来のネコ型ロボットみたいなことができるんだな」


「なんだ、そのネコなんとかというのは?」


「いや、何でもない気にするな!

…それで、どこへ向かうつもりなんだ?」


「北の断崖地帯に“忘れられた谷”がある。魔物たちが群れをなして生きている“隠れ里”だと聞いたことがある。」


「なるほど、そこから仲間を集めるつもりか。だが“忘れられた”ってくらいだ、行き方も簡単じゃなさそうだな」


「いや、行くだけなら簡単だ。ただ、魔物の数が多い。それが、かの地を人から遠ざけた理由だろう」



◇◇◇◇


忘れられた谷についた2人。


やはり、この辺りも不穏な空気が流れている。


「はやく魔物を従えてくれ」


リアンが冗談交じりに言うが、その声にはどこか焦りが混じっていた。谷を覆う空気は重く、視界は薄い霧に閉ざされている。


「焦るな。力の誇示は、時として敵意を呼ぶ」


ルーは静かに呟き、一息ついた後、低く言霊を唱える。


「──われの前にひれ伏せ、冥府の眷属に従うものたちよ」


唸るような音が谷全体に響いた。


空気が一変し、辺りの魔力がざわめく。


すると霧の奥から、何十もの目がこちらを睨むように光り始めた。ゴブリンとは比較にならないほど強い魔物たちが本能で“気配”に呼応し、這い出してくる。


リアンが無意識に手を剣の柄にかけると、ルーが制した。


「手を出すな。彼らは試しているだけだ。私が、王たりえるのかを」


現れた魔物たちは、確かに威嚇するようにうなり声を上げていたが、誰一体として攻撃には転じなかった。ただ一歩、また一歩と、ゆっくりルーの前に集まり、ついには地に伏した。


リアンが驚いたように息を呑む。


「まるで跪き許しを請うているみたいだな…」


「“悪の本能”が、かつての王を見分けたのだ」


ルーの表情にはどこか痛みも混じっていた。それは誇りというより、かつて背負っていた十字架の重みを感じているかのようだった。


「…だが、これだけでは終わらない」


「え?」


ルーは手を挙げ、谷に集まった魔物たちに告げる。


「私は魔王である。しかし今、私は“ハデス神に背いた者”だ。それでも私に従うのか?」


一瞬、その場が静かになる。


だが次の瞬間、先頭にいた巨大な獣―ヴォルグ=レクシアス(灼熱の災厄竜)が、喉を鳴らして咆哮した。


それに続いて、他の魔物たちも叫ぶように鳴き声を上げ始める。


それは、服従の叫び。


神に背いた王に、なおも忠を捧げる“悪の群れ”の誓いだった。


リアンはその光景を見つめながら、静かに言った。


「すごいな。こんなにも禍々しいのに、なんでだろうな。あんたのことがどこかの国の王様のように見えたよ」


「それは皮肉か?私はまっすぐ生きるには、あまりに多くを殺し過ぎた」


ルーは静かにそう言い、2人は霧の中を進み、谷から出ていくのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ