手始め
沈黙の森へと入った2人、そこは確かに静謐で人気のない森だった。
「なんだか気味が悪いだろ」
「俺は冥府出身だからな。ここよりずいぶん気味の悪いところに住んでいたから、むしろこの方が落ち着くな」
森に入ってどれくらいの時間が経っただろうか。
木々の間を縫い、少し抜けたところに、見るからに怪しい洞窟が見えてきた。
「ここだな」
ルーはつぶやく。
「なんだというだ」
「まぁ、見ていてくれ」
ルーは構わず洞窟に入っていった。
洞窟を進んで数分。
「静かに」
ルーが言った。
そこには、ゴブリンの大家族が夕餉の支度をしている光景が広がっていた。
「これはこれは、だいぶ大所帯じゃないか。こんなにいたら、さすがに面倒だな…」
…と、息をつく間もなくルーが前方に踊り出る。
一斉に振り返るゴブリン一族。
いくら弱小ゴブリン相手とは言え、数はある。リアンは少し動揺し、ルーを引き留めようとするが遅すぎた。
「ルー!何をしている!」
声だけで追いすがるリアン。
しかし、ゴブリンたちはこちらを警戒するどころか、なんとひざまずいてこちらに頭を下げているではないか。
「……やはりな」
ルーは冷静に言った。
「!?」
驚くリアン。
「こやつらは、つまるところ悪の眷属に従えられる者たち。その悪を統べるハデス様のもとにあった私には、経緯はどうあれ、私の威光に自然と従えられてしまうのだろう」
「…そういうものなのか?」
「この様を見れば、わかるだろう?」
納得のいかないリアンではあったが、目の前の光景を見れば、うなずくしかない。
「いや、最初は不安だったのだ。私はすでにハデスにあだ成す存在、もしやすべての眷属やその従物に敵対しているかも知れないとな」
「そうか…だが事実は違ったというわけだ」
「もうよい、自由にするがよい」
各々安心したように活動し始めるゴブリン一家。
「これで、この先の行動はたやすくなったな」
2人はお互いうなずきあう。
「今日はもう遅い、宿で休もう」
2人は、ニブルヘイムの宿に戻り、ひとときの休息を得ることになったのだった。




