地上界の町
ここは地上界、ニブルヘイム。地上界でもいくらか冥府に近い寂れた町だ。
そう、魔王ルシファーはあの<黄泉の谷>で何者かの攻撃により、次元の狭間に落ち込み、ここニブルヘイムにたどり着いたのである。
魔王を助けてくれたリアンは、目的もなくここニブルヘイムへ“放浪”していた。
幸運にも助けられたルシファー。だが、その素性は隠さなければ身に危険が及ぶ。
当面は、素性を隠して行動することとなった。
「しかし、なぜまたこんな辺境に来ることになったんだ」
「いや、まぁことの成り行きだよ」
「ここは冥府にも近いぞ」
「……ここには、かつて俺と一緒に冒険していた仲間の墓があるんだ…」
「……ほう…」
リアンは、かつて冥府の神ハデスを屠るために、冒険者として仲間とともに行動していた。
冥府は地上界の人間の手の及ばぬ魔境である。
闘って倒れてた者がいても、そこではその亡骸を持ち帰る余裕のある者はいない。
「ここには、仲間の墓はあるけれど、土の中はからっぽなんだ……。でも、誰かがそいつの面倒を見てやらないと、後味が悪いだろ」
「……そう、そうかも知れんな」
ばつが悪そうに、ルシファーは下を向く。
遠くに見える墓所には、たくさんの墓標がある。しかし、その多くは風化しており、ここ数年手が付けられた形跡がない。
「死んだ者は、確かにそこには存在しない。けれど、もし仮に魂というものが存在するなら、その魂は人から忘れ去られたときにその存在を許されなくなる。
…地上界にはそんな言い伝えがあるのさ。だから、俺は絶対あいつのことは忘れない。そう決めたんだ。」
リアンは一度目をつむり、そして遠い目をして言った。それは、過去の英霊を追慕する、彼なりの優しさだったかも知れない。
「ところでルシファー、君の名は何かと目立つ。何か他の名前で呼んだ方が良くないか?」
「そうだな、ルシファーとは冥府の大幹部の名、高名といっても過言ではなかろう」
「うーん……そうだな、なんか少しかわいげのある名前が良いよなー。
……そうだ!“ルー”はどうかな!?」
「“ルー”か、…私らしくない名だな。しかし、それもまた趣があるやも知れぬ」
「よし、じゃあ改めてよろしくな!ルー!それと、言葉遣いももっと砕けた感じにしてくれよ!」
「……お、おう…」
ルーは少し頬を赤らめ、しかし頑張ってそう言ってうなずいた。