追及
薄暗い廊下に、金属音が響き渡った。
扉が蹴破られ、聖騎士団参謀室の重厚な扉が派手に吹き飛ぶ。
「動くな!」とリアンが叫び、剣を構える。だが、部屋の中には誰もいなかった。
三人は一瞬、信じられないという顔を見合わせた。
ルー――黒衣の魔王は、静かに部屋を見回しながら呟く。
「……匂うな。血でも人でもない、瘴気の残り香だ」
「魔物……?」ミュリエルの声に、ルーは頷く。
床に、黒ずんだ粘液のような痕が点々と続いていた。それはまるで、何かが引きずられていった跡のようだ。
リアンが剣先でその痕をなぞり、低く言う。
「こいつを辿れば、黒幕の尻尾を掴めるかもしれん」
三人は顔を見合わせ、無言で頷き合うと、痕跡を追って廊下を進んだ。
瘴気は、聖堂の奥――封印区域へと続いていた。
空気は淀み、蝋燭の炎が音もなく揺らめく。
やがて、暗闇の中に巨大な影が立ち現れた。
「久しいな、人間ども」
その声は地の底から響くようだった。
姿を現したのは、漆黒の鱗を持つ獣――魔王直属の配下獣。
その背後には、一人の男――聖騎士団参謀がいた。
「まさか……貴様が魔王の手の者とはな」ミュリエルが吐き捨てる。
参謀は怯えた様子もなく、薄く笑った。
「手の者? いや、私は最初からこちら側だ。聖騎士団など、魔王のための仮面に過ぎん」
その瞬間、ルーの目がわずかに細まった。
「面白い。ならば貴様は、俺の知らぬ“誰かの命令”で動いているということだな」
参謀は驚きに目を見開き、次の瞬間、口を開こうとした――。
「我が主の名は――」
――パァンッ。
乾いた破裂音が響き、参謀の頭部が弾け飛んだ。
血飛沫が壁に散り、リアンが思わず一歩後ずさる。
その背後で、ドゥダメルが笑った。
「遠隔操作式の爆裂魔法……口封じか……誰かが上から糸を引いているな」ルーの声は低く、冷たかった。
ミュリエルは震える拳を握りしめる。
「まるで、聖都そのものが“魔の手”に取り込まれているようだな……」
ルーはゆっくりとドゥダメルに視線を戻した。
「――ならば、お前に聞き出すしかない。この状況を支配する者の名をな」
瘴気が爆ぜ、闇がうねる。
次の瞬間、剣と咆哮が交錯し、封印区域全体が地鳴りのように震えた――。




