死地2
ルシファー・ノクス――かつて冥王と呼ばれた魔王は、ただ一人で死地へと赴いていた。
聖都上層部から与えられた任務は「瘴気の巣窟の殲滅」。だが彼は理解していた。これは任務の名を借りた追放、すなわち処刑に等しい。戻れる可能性はほぼ皆無。
だがその眼には恐れよりも冷たい決意が宿っていた。
崖下に広がる瘴気の荒野で、巨躯の怪物が唸り声をあげる。無数の瘴気獣が群れ、牙を剥いて襲いかかる。
ルシファーは黒き魔力を解き放ち、影の刃を振るった。数体を瞬時に葬るが、終わりのない群勢に包囲され、やがて体力を削られていく。
ひときわ大きな瘴気獣が現れる。しかも5体。これまでの獣とはわけが違う。
「……なるほど。これが奴らの望んだ結末か」
皮肉を噛みしめた瞬間、瘴気獣の一撃が来る。そこをうまくかわすルー。
…しかし、さらに5体同時の攻撃が…来るっ!
数体に攻撃をかわしつつ、反転し、黒魔法で攻撃する。
だがしかし、背後からの一撃を避けきれず、肩口に深い爪痕を刻まれた。
血が滴り、膝が揺らぐ。獣が飛びかかる――その刹那。
「――下がれ、ルー!」
鋭い声とともに白銀の刃が閃いた。瘴気獣の首が宙を舞う。振り返ったルーの目に映ったのは、リアンの姿だった。
「なぜ……ここに」
「話は後だ!ここは二人で何とかするぞ!」
短い言葉に、疑念と安堵が交錯する。
二人は背を預け合い、かつてのように呼吸を合わせて戦う。影と光、魔と剣が交わり、嵐のごとき連携が生まれた。
大きな瘴気獣の4体は次々と倒れ、最後の巨獣が呻き声を上げて崩れ落ちた。荒野には静寂が戻る。
荒い呼吸の中、ルーは血を拭いながら問う。
「……助けに来ただけではあるまい」
リアンは頷き、低く告げる。
「聖騎士団の参謀――やつは魔王軍と通じている。お前を死地に送り込んだのも、瘴気獣を操る連中の指示に従ったからだ」
その言葉は、疑惑を確信へと変えた。ルーの脳裏に、冷笑を浮かべる参謀の顔が浮かぶ。
「やはり……奴らの思惑通り、駒として利用されていたか」
黒き瞳が深淵のように光を宿す。そこに迷いはない。
「――参謀を討つ。奴が仕組んだ全ての策を、この手で終わらせる」
夜風が吹き抜け、血と瘴気の匂いを運んでいった。
復讐の炎は静かに、しかし確実に燃え上がる。




