黒い勇者の誕生
話は簡単だった。
つまるところ、リリスはハデス様の「女」になってしまったのだ。
帰城後に、リリスの部屋からハデス様への熱い恋文が見つかった。
私は絶望した。
「あんなに愛を注いできたのに、どうしてなんだ、リリス!」
しかし、それよりも何よりも苦しかったのは、あの敬愛するハデス様のご乱心だ。
ハデス様は確かに女好きではある。しかし、まさか部下の女に手を出すほど女に飢えているわけではない。
事ここに至って思い至るのはひとつの疑念だ。
数か月前、私は魔王城の修繕工事の許可をハデス様に取り計らう業務に就いていた。
ハデス様はこういった
「ご苦労であるルシファー、なにか褒美は欲しいか?」
私は言った。
「めっそうもない、日ごろのねぎらいの言葉だけで十分でございます」
いつもであれば
「そうか、大儀である」
こう来るはずだった。
しかし、この日のハデス様はいつもと違った。
「なに!この私の好意を無にするというか!思い上がりも甚だしいぞルシファー!」
こう来たのである。
その日は何とかその場を凌いだ私だったが、ある思いが心に浮かぶ。
(ハデス様は、もしや私のことを疎ましく思い始めている・・・?)
ハデス様の直属の幹部部下は私を含めて4人。
日ごろ何度となく行われてきたパワハラは数々。
そんなパワハラは軽くいなしてきた私。それなりの矜持もあった。
しかし、そんなハデス様からそれなりの寵愛を受けてきた私ではあったが、ついにその寵愛も終わりの時を迎えていたのかも知れなかった。
◇◇◇◇
「ああ、どうしてですか、ハデス様!」
私は苦悩した。しかし、その心の奥底には厄介なことに嫉妬という黒い炎が渦巻いていた。
(もう私のことなどどうでもいいどころか、女をも使って私に対する当てつけをするのか・・・)
その黒い炎は、時を経るごとに大きくなっていった。
ハデス様に対する敬愛の情と、嫉妬心からくる軽蔑でせめぎあう心。
その心にとどめを刺したのは、ハデス様が突然発した討伐命令だった。
私は謀反の疑いにより討伐対象となったのだ。
ずっと抱いていた嫉妬という黒い炎は、私にささやく
(ルシファー、お前はハデスに捨てられたのだ。最愛の妻にまで裏切られ、このまま落ち忍んでいいのか?)
(いや、このままでいいわけがない!なんとしてでもあの女を、そして私のこれまでの栄誉を取り戻さずにはいられるものか!)
ルシファーの心は決まった。
「ハデス討伐、やむなし」
ここに、新たに一人の黒い勇者が誕生したのであった・・・