痕跡
翌日、ルーとリアンは失踪事件の背後を探るため、聖都の周囲をさらに調査していた。
「冥府の幹部が人をさらうには……この地に通じた者の手引きが必要だ」
思案気に顔をうつ向かせるルー。
「内部に、協力者がいるというのか?」
リアンの顔が険しくなる。
「そうだ。都の土地勘があり、さらに騎士団の動きに関しても通じている者がいる」
ルーはその場で詠唱を始めた。
「これから使い魔を出してそのものを追跡する。何らかの痕跡があるはずだ」
ルーは使い魔である闇カラスの“アスナ”を放った。
その瞳は赤く、知性と悪意の混じった光を宿していた。
「行け!」
闇カラスは、ルーとリアンの方を一瞥すると、ふわりと羽をはためかせ飛び立っていった。
「追跡には時間がかかるが、痕跡は確かにある。奴は市場から聖堂裏へ、さらに南門方面へ逃げた」
「その先には…商人街があるな。入り組んだ通りと倉庫、うってつけの隠れ場所だ」
「それに…ここから先は私の感覚だけでは追いきれぬ。人間の気配に紛れてしまう」
「だったら俺が行く。お前の使い魔が何か掴んだら、すぐに知らせてくれ」
リアンの目は真剣だ。その目には、子供を救いたいという純粋な使命感が宿っていた。
「…リアン、無茶はするなよ。相手はおそらく手ごわい」
「分かってる。だけど、子供たちを見捨てるわけにはいかない」
そして、再びルーは虚空を見つめた。使い魔の視界が、意識の中に流れ込んでくる。
市場、路地、屋根、煙突、そして
一瞬、黒いフードの影が通り過ぎた。
「見つけたぞ」
その囁きには、静かな決意がこもっていた。