紋章
――現在――
翌朝、都で行方不明の子供が出たとの噂が立つ。
聖都の中心部、市場付近を捜索していた騎士団から報告を受けるミュリエル。
「市場の一角にこんなものが落ちていました」
それは、謎の紋章の入ったペンダントだった。
「これは…!」
驚くミュリエル。その紋章は、冥王の紋だった。この聖都でこんなものを見るのは初めてだった。
(どうしてこんなものが……)
不安を隠しきれない様子だが、しかし、強い調子でこう言った。
「これは今都で流行っているペンダントにすぎん!ほかに怪しいものは無かったかよく探せ!」
そこに丁度通りかかったリアンとルー。
「どうしたんだ、ミュリエル、すごい怖い顔をしているぞ」
「いや、ちょっとな…」
とっさのことに動揺を隠しきれないミュリエル。
しかし、ルーにはすべてが理解できたようだ。
「なるほど、貴殿の持っているペンダント…そうか、そういうことか…」
「どうしたんだ、ルー?」
不思議そうに伺うリアンだが、そこでミュリエルが一刀両断する。
「何でもない!今都で行方不明者が出ていてな、それで調査に向かっているところだ」
何かを察するルー。
「そういうことなら、私たちは同行することは遠慮させていただこう…」
納得がいかないリアンであったが、その場はそれで収まったのであった。
◇◇◇◇
聖堂裏の路地に立つルー。その足元の石畳は黒く焼き焦げ、その隙間から特有の魔力が漏れ出していた。
「……間違いない。これは、術式の残滓…」
石畳の隙間に手をかざすルー。
そこには、かつて冥王であったものにしかわからない、呪詛の痕跡があった。
「こんなものを、聖都で使った奴がいるとはな…」
「どういうことだ、ルー」
リアンは言う。
「いや、冥府特有の匂いがしてな。それでその痕跡を調べて見ると面白いことが分かった」
「何が分かった?」
「冥府の幹部が、人間をさらっている」
こともなげに言うルー。
「なんだと!!」
子供の失踪、騎士団の沈黙、不気味な紋章。その全てを結ぶ、何かが蠢き始めていた。