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共闘

――かつて――


聖都の北の山岳地帯に、魔物の大群が現れたという報せがあった。


被害は近隣の村々に及び、討伐に向かった聖騎士団の一部隊も消息を絶った。


事態を重く見た聖都は、副団長であったミュリエル・オルディアを指揮官として、直接討伐隊を派遣することを決定する。


だがその直前、奇妙な報告が入った。


「討伐隊が向かう道中に、たった一人で魔物をなぎ倒しながら進んでいる男がいる」と。


その名は――リアン=アルフォード。かつて“聖都の至宝”と呼ばれた勇者。



◇◇◇◇



「おいおい、誰か来たのかと思えば、聖騎士様のお出ましか?」


山中の谷間で、剣を肩に担いだリアンは、血に濡れたマントをはためかせて振り向いた。


ミュリエルは馬を降り、眉一つ動かさずに言った。


「聖騎士団副団長、ミュリエル・オルディア。あなたがリアン=アルフォードか」


「いかにも。名乗ってもらえるとは光栄だな、お堅い騎士様にしては礼儀正しいものだね」


「あなたの行動は、危険極まりない独断先行。だが、成果は認めざるを得ない」


「褒められて悪い気はしないな。…で、何の用だ?」


「これより、この谷を封鎖し、魔物の巣を制圧する。あなたの技量は認める。協力してもらえるか?」


リアンは一瞬、目を見開いた。まさか聖騎士団が、自分のような放浪者に「共闘」を申し出るとは思っていなかったのだ。


「面白い。あんたの剣、ちょっと見せてもらおうか」


「こちらも、勇者様の実力を見せてほしい」



◇◇◇◇



戦いは熾烈だった。


魔物の巣はかつての冥王軍の残党が築いた拠点であり、瘴気に包まれた空間に、魔獣が徘徊していた。


ミュリエルとリアンは、次々と魔物を斬り伏せていく。


「背後、来るぞ!」「任せた!」


「お前、無茶がすぎるぞ!」


「こっちの方が慣れてるんでね!」


互いの呼吸は次第に合い、最後には、双頭の魔獣を二人が同時に斬り裂き、討伐を果たした。


 


◇◇◇◇



夜が明け、山の瘴気が晴れていく。


ミュリエルは無言で立ち尽くしていた。


リアンが肩をすくめて近づく。


「よくやったな、騎士様。いや、“ミュリエル”でいいか?」


「好きにしろ。」


「今日のあんた、悪くなかったぜ」


リアンは笑い、踵を返して夜明けの山を下っていった。


ミュリエルは、その背中をしばらく見送った後、静かに呟いた。


「自由な男だ……だが、背中を預けるのに、不安はなかった」


 


それは、聖騎士と勇者が交差した、たった一度の共闘の記憶。


数年後、聖都の地下でふたたび再会する日が来るとは、当時の二人はまだ知らなかった。

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