第8話『戦火の胎動』
これは、ゲームで築いた“城”と“仲間”をそのまま引き連れて、異世界に降り立った一人の男の物語――。
五感同期型VRMMORPG『エクリプス・オンライン』の最終夜。
玉座に座していたギルドマスターは、世界の終わりと共に新たな現実を迎える。
「ようこそお戻りになられました、我が主よ」
異世界で目覚めた彼の名は、“マグナス”。
深淵を呼ぶ魔王として、そしてかつて人間であった者として、
支配と守護、二つの選択肢の狭間で揺れる覇道が今、幕を開ける――。
王都レグナードに重々しい鐘の音が響き渡った。それは王国全土に非常を告げる、国家総動員の号令であった。玉座の間には、数え切れぬほどの重臣や将兵たちが集められている。立ち上がった国王は高齢ながらその身を大きく見せ、澄んだ声で勅令を発した。その顔にはいつもの温厚さはなく、歴戦の勇将にも比肩する威厳と覚悟が漲っている。「全兵力を結集せよ。今こそ、我がレグナードの存亡を賭ける時が来たのだ!」
「ははっ!」大広間にひれ伏す将兵たちが一斉に応じ、床が揺れるほどの号声が轟いた。国王は玉座から身を乗り出し、若き将軍へと視線を向ける。「ロイ将軍、軍備の状況はどうか」
呼びかけられた男は、二十代半ばほどの若き将軍である。ロイ・バークウッド──鍛え上げられた体躯を鎧に包み、燃えるような眼差しを国王に向けている。彼は一歩前に進み、右拳を胸甲に当てて敬礼した。「はっ。我ら王国軍は既に総動員態勢に入っております。徴兵令により各地から有志を招集し、王都と周辺諸都市にて編成中にございます。現役の王国騎士団と近衛兵、諸侯の私兵も合わせれば、まもなく数万規模の兵力が結集いたしましょう」
国王は満足げにうなずき、次に隣の老臣に目を向けた。「補給長官コルネリウス、兵站は万全か」
白髪交じりの壮年男性が恭しく一礼した。補給・兵站を統括するコルネリウス卿である。豪奢な衣服の上から勲章の輝くチェーンを肩にかけ、分厚い帳簿を脇に抱えていた。彼は静かながら力強い声で報告を始める。「ははっ。現在、王国中から武具・物資の徴発を進めております。王都の鍛冶工房では、早くも炉火が唸りを上げております。屈強な鍛冶職人たちがハンマーを振るい、次々と剣や槍、甲冑が鍛え上げられており、地方から集った鋳造師や革職人、弓職人たちも加わっております。工房の熱気は夜を徹して冷めることがなく、甲高い金属音と火花が街区に迸っております。王国魔術師団や教会付属の錬金術師たちも総動員し、武具への魔法付与や治療薬の錬成に奔走中でございます。倉庫には携行食料や医薬品が山と積まれ、街道には各地から徴発した馬車が荷を満載して続々と集まっております。幸い教会や商人ギルドの協力も得られ、戦時に必要な医薬・魔法具の調達も順調に進んでおります」
戦勝祈願の祈りは王都の至る所で捧げられた。壮麗な大聖堂では毎夜蝋燭が灯され、老若男女が神像の前にひれ伏して祈念を捧げている。「女神よ、導きたまえ…」と聖歌隊の合唱が高らかに響き、怯える民草の心にわずかな安寧をもたらしていた。兵士として徴募された青年たちも、出立前夜には家族と教会を訪れ、固く抱き合って勝利と無事の再会を誓い合うのだった。
続いて軍略司令官クラウスが一歩前に進み出た。痩躯の中年男性で、鋭い眼光の奥に知略の光を宿す。王都防衛の立案者であり、全軍の作戦参謀を務める男だ。王は問いかける。「クラウス、諸侯との連携と戦略立案はどうなっている?」
「はっ。王国内の全領主に動員令状を発し、既にそれぞれ兵を率いて集結中でございます。北境のベルガード公は五千の軍勢を纏めつつあり、南方辺境伯も援軍の派遣を約束しております。また周辺諸国にも急報を送り、同盟各国に参戦を要請いたしました。聖戦の名の下に、隣国フェルマー国からは聖騎士団の派遣が内定し、さらに他の諸王家とも交渉を続けております」クラウスは一息に述べると、声を落として続けた。「…もっとも、一部の国々は慎重姿勢を崩さず、現段階では静観する構えのようですが…」
国王は重くうなずいた。「よい。各方面との連携を怠るな。魔王軍はいずれ侵攻を開始しよう。防衛線の構築も急ぐのだ」と命じた後、玉座の間を見渡して宣言した。「光炎教会には既に聖戦の布告を要請してある。神々のご加護の下、我らは正義の旗のもとに団結するのだ!」
すると、列席していた一人の高位聖職者が静かに前に進み出た。光炎教会の大司教ベルナールである。白銀の聖衣に身を包み、太陽と聖火を象った黄金の法冠を戴いたその姿は、この戦時会議にあってもひときわ異彩を放っていた。ベルナールは厳かに聖典を掲げ、響き渡る声で宣言する。「今ここに、我らは神に誓おう!光明たる女神の御名の下に、この戦いを聖戦と定める!すべての民と兵は神の僕として団結し、魔王という闇を討たんがために立ち上がるのだ!」
大司教の高らかな宣言に、玉座の間の人々は沸き立った。「神の御加護を!」と叫ぶ声、武器を打ち鳴らす音、祈りの歌を口ずさむ声——張り詰めていた空気は一転し、熱に浮かされたような熱狂が広がってゆく。人々の顔には闘志と信仰による高揚が宿り、恐怖に曇っていた表情は次第に力強い決意へと変わっていった。ベルナール大司教は満足げにうなずくと、両腕を広げて民衆への呼びかけを締めくくった。「恐れることはない!女神は常に我らと共にあらん!この聖戦に殉じし勇者と聖女セシリアの魂もまた、天より我らを見守っているであろう!ゆえに今こそ立て、信仰と正義の剣を執るのだ!」
こうしてレグナード王国は未曾有の国家総動員体制へと突入した。その日のうちにも王都から烽火が上がり、数多の伝令騎士たちが各地へ馬を飛ばしていった。城壁の上には王国旗と聖戦の白旗が掲げられ、市中には戦支度を告げる布告が貼り出される。広場では王の勅令を読み上げる甲高い声が響き渡り、集まった市民たちは緊迫した面持ちでそれに耳を傾けていた。「すべての健常な男子は王国軍に参加し、郷土と家族を守るために武器を取るべし」——その言葉に、若者たちは決意を秘めてうなずきあう。老兵は錆びた兜を引っ張り出し、少年は父の槍を握りしめた。女達は涙をぐっと堪え、差し出された徴兵名簿に震える手で名を書き記す夫や息子の姿を見守った。
王都の鋳造所や工房では昼夜を問わず武器防具を生産し、諸侯から提供された馬や荷車、金穀が続々と運び込まれていく。屈強な職人たちは「一振りでも多くの剣を」と歯を食いしばりながら槌を振り下ろし、飛び散る火花が闇を照らした。王国魔術師団と教会付属の錬金術師たちも動員され、武具への魔法付与や治癒薬の調合に追われている。各地から徴発された糧秣や物資が次々と集積され、兵站隊が懸命に仕分けと搬送にあたっていた。
一方、王国各地の領主たちも次々と呼応していた。北方のベルガード公爵は伝令を受け取るや自ら先陣に立つことを決め、老練な騎士団長として城館の中庭で出陣の訓示を行った。「魔王の蛮行を決して我が領土に通すな!」掲げられた公爵旗の下、集結した五千の兵が鬨の声を上げる。南方辺境伯も飛脚を急がせ、国境守備隊の増強と主力軍の王都派遣を手配していた。西方の森に囲まれた諸侯領からも、続々と旗印を掲げた私兵団が街道を進み始める。普段はそれぞれに独立心が強い諸侯も、この時ばかりは一致団結していた。人間同士の軋轢など、迫り来る魔の脅威の前では些細な問題に過ぎない。誰もが理解していたのだ——今は人類全ての存亡が懸かっているのだと。たとえ勇者が不在でも、人々は自らの意地と誇りに懸けて闘う覚悟を固めていた。一人ひとりの胸に、小さな勇火が灯る。それは暗黒に抗おうとする人間の矜持の炎であった。
漆黒の魔城の一室には、不気味な静寂が満ちていた。黒曜石の壁には禍々しい紋様が刻まれ、空気には濃密な魔力の気が淀んでいる。青白い魔導灯が妖しく揺らめく円卓の周りに、異形の影が集っている。魔王マグナスが、自らの腹心たちを招集し、戦略会議——通称“黒の議会”を開催していたのだ。静まり返る室内で、マグナスは高位魔族の威圧的な気配を纏いながらゆっくりと口を開いた。
「……人間どもは、どう動いた?」
マグナスの右隣に控えていた美貌の副官、ルシエラが一礼して答えた。「陛下の予測通り、人間どもは王国を挙げての総動員体制に移行した模様です。各地の諸侯も兵を集め始め、教会は我ら討伐の“聖戦”を布告したとのことです」
マグナスの紅い瞳が細まり、嘲るような笑みが浮かんだ。「聖戦、か…。ならば存分に神に祈るがいい。奴らに救いがあるものか…」
黒衣の骸骨魔術師ゼルガドが静かにうなずいた。古めかしい宝珠杖を支えに立つその姿から、低くしわがれた声が響く。「王国軍の総兵力は、おおよそ五万規模に達するかと推察されます。加えて周辺諸国にも援軍を要請している様子。既に東方のフェルマー王国は聖騎士団の派遣を決定した模様にございます」 ゼルガドは赤い瞳を輝かせながら続ける。「とはいえ、一枚岩とはいかぬようで。いくつかの国は静観の構えを見せております。調略の余地あり、と見るべきでしょう」彼の頭蓋の奥で不気味な光がゆらめいた。
対照的に、白銀の鱗を身にまとう巨躯の戦士ドラガンは忌々しげに鼻を鳴らした。「人間風情が五万だと?数だけは揃えたものだ…」鋭い牙の覗く口元に嘲りを浮かべる。「だが烏合の衆に過ぎん。我が屈強なる軍勢の敵ではあるまい。死霊の軍団も魔獣の群れも、奴らの陣を蹂躙する準備は整っている」
実際、城の地下墳墓には無数の骸骨兵や死者の亡霊が待機しており、周囲の瘴気渦巻く森には魔狼やオーガ、翼竜など魔獣の群れが解き放たれる時を待っていた。
ルシエラは冷静な表情を崩さずにうなずいた。「確かに、我らが擁する戦力は一騎当千の強者ばかり。正面から戦えば、人間の大軍といえどその損耗は計り知れないでしょう」青い瞳に自信の色を湛え、静かに言葉を継ぐ。「むしろ厄介なのは人間側の士気と団結。その源たる教会の“聖戦”という大義…そして勇者の存在でした」彼女の唇にかすかな笑みが浮かぶ。「だが勇者はもはや我らの手中にある。人間共は頼みの綱を失い、さぞや焦燥していよう」
マグナスは静かに玉座に身を預けたまま、配下たちを見渡した。「人間どもの士気を挫く策が必要だな。連中が完全に結束し戦力を集中させる前に、揺さぶりをかける」
ゼルガドがうなずき、杖を軽く掲げた。「我が幻術の出番と見えますな。奴らが眠りにつく頃合い、悪夢を送り込んで士気を削ぎましょう。また、幻影をもって虚偽の情報を流し、人間側の指揮系統に混乱を誘う策もございます」
優雅な執事姿のヴィクターが一歩進み出る。「私めにお任せを。密偵を潜入させ、奴らの盟友とやらに揺さぶりをかけましょう。中立を保とうとしている国々には、陛下からの『和平の使者』を送り込むのも一策かと存じます」彼は口元に微笑を浮かべ、恭しく一礼してみせた。「人間の欲望と恐怖を刺激すれば、戦わずして離反させることも可能でしょう」
マグナスは厳かにうなずいた。「よい。各自、抜かりなく動け。人間どもに我らの恐ろしさを思い知らせてやるのだ」低く響く声に、配下たちは一斉に跪いて応えた。「ははっ!」 配下たちが恭順の意を示し、次々と玉座の間を辞してゆく。再び静寂が満ちた室内に、マグナスは一人残った。ゆらめく魔導灯の光に、その表情は読み取れない。内心では僅かな疼きがあった。(結局、戦いは避けられなかったか……)かつて平穏を望んだ自分の思いを噛み殺し、彼はゆっくりと目を閉じる。(守るためには、滅ぼすしかない。ならば……やり遂げるまでだ)。その時、遠く漆黒の尖塔の外で雷鳴がとどろいた。戦火の胎動を告げるかのように、夜空に閃光が走る。マグナ・ドミニオンの深奥で下された魔王の号令は、今や暗雲渦巻く世界に新たな戦火の幕開けを告げようとしていた。
その頃——。レグナード王国が戦備を整える裏側で、魔王の影は密かに周辺諸国へと伸びていた。
遠く離れた小国ベルクス公国の王宮。月明かりも差さぬ密議の間に、二つの人影が向かい合っていた。一人は痩身の老公爵ガルヴァイン。もう一人は黒いフードを目深に被った見知らぬ男である。燭台の炎がちらちらと揺れ、壁に禍々しい影を落としている。ガルヴァイン公の額には汗がにじんでいた。「……つまり、我が国に降伏勧告というわけか?」震える声で老公爵が問いかける。
黒フードの男はすっと静かに頭を振った。「いいえ、公爵閣下。降伏ではなく、和平のご提案を持参いたしました。我が主——魔王マグナス陛下は、貴国と無益な血を流す意図はお持ちではない。ただし……」男はスッと細い笑みを浮かべる。「陛下の寛容に背き、もし貴国が人間側に加勢するようなことがあれば、その限りではありませんが」
ガルヴァイン公は喉を鳴らし、震える手で口元を拭った。魔王の脅威は十分すぎるほど理解している。何しろ討伐に赴いた勇者一行が消息を絶ったという噂は既にこの耳にも届いていたのだ。「…仮に、そちらの和平を受け入れた場合、我が国にはどのような保証がある?」老公爵は辛うじて絞り出すように尋ねた。
「陛下の御保証を約しましょう」男は恭しく頭を垂れた。「貴国が中立を維持される限り、魔王軍は一切これを侵さず。また戦後には、貴公には新たな秩序の中で然るべき地位が与えられるでしょう。もちろん、同盟を結び共に栄える道も残されております」穏やかな声音には、不思議な説得力が宿っていた。 老公爵の脳裏で様々な思惑がせめぎ合った。隣国レグナードとの長年の友好、しかし一方で自国の安危……そして勇者なき今、人間側に勝機はあるのか?幾度か瞬きを繰り返した後、ガルヴァイン公は深く息を吐いた。「…よかろう。陛下には、我がベルクスは中立を貫くとお伝え願いたい」絞り出すような声でそう答えていた。
その夜、同様の密使が他の幾つかの宮廷にも訪れていた。魔王の影は遠国の王家にまで及び、冷たい恐怖の囁きが各国首脳の胸に種を蒔いてゆく。聖戦の盟約はひび割れ、人間側の絆には早くも綻びが生じ始めていた。
レグナード王国・王城の作戦室にも、暗い報せが届いていた。参謀クラウスは手元の書簡を睨みつけ、悔しげに舌打ちする。「ベルクス公国からの書簡です。“貴国への援軍派遣は困難、事情ご賢察願いたい”…だと」
若きロイ将軍が拳で卓を打った。「臆病者め…!今さら尻込みするとは」と吐き捨てる。だがクラウスは冷静に首を振った。「おそらく、魔王側が何らかの圧力をかけたのでしょう。各国の足並みが乱れているのは偶然ではありません」
国王は渋面を作りつつも、毅然と宣言した。「よい。盟友の助力が得られぬならば、なおのこと我らが立たねばならぬだけだ。我がレグナードの誇りを示す時が来たのだ!」
ちょうどその時、衛士が駆け込んできた。「国王陛下!隣国フェルマーより聖騎士団が到着しました!」その報告に場の空気がわずかに明るむ。国王は満足げにうなずいた。「よく来てくれた。彼らにも感謝せねばなるまいな」
そして数日後——。王国軍本隊は王都を出陣し、魔王領との境界近くへ進軍を開始した。勇者亡き今、指揮を執るのはロイ将軍である。数万の兵団が街道を埋め、空には連絡用の風竜が舞い飛ぶ。諸侯の旗印と聖戦の軍旗が林立し、鋼の鎧が揺れるたび一斉に陽光を反射した。獅子の紋章を掲げる王国軍の先鋒に、フェルマー聖騎士団の白銀の軍勢が加わる。大部隊の行軍に大地は鳴動し、兵士たちの士気は高かった。 やがて魔王の黒城より一日ほど手前の平野に軍勢が到達すると、陣地の構築が開始された。兵士たちは手際よく天幕を張り、簡易な胸壁や逆茂木を巡らせる。連日の行軍にも関わらず、その表情には疲労を抑えた緊張と高揚が浮かんでいた。「必ず勝てるさ」「女神がついているとも」——互いに言葉を掛け合い、士気を鼓舞する声があちこちで聞こえる。
夜半、陣営には幾百もの篝火が揺らめき、疲れた兵らが束の間の休息を取っていた。若い槍兵のアルトは見張りの持ち場につき、漆黒の闇を睨んでいた。静かすぎる夜だった。遥か彼方、魔王の黒城が聳える方角には不気味な赤黒い雲がかかっている。まるで空が腐り落ちたかのような異様な光が、夜空の一角を薄ぼんやりと染めていた。遠くで梟の不気味な鳴き声が響く他は、風もなく森はひっそりと息を潜めている。
アルトは思わず喉を鳴らした。昼間は心強かった仲間たちの笑顔も、この暗闇の中では頼りなく思える。聞けば、昨夜は悪夢にうなされた兵もいたという。敵の妖術ではないかと噂する者もいた。アルトは柄を握る手に力を込め、胸の内で祈りを繰り返した。「女神よ、どうか我らをお守りください……」。白銀の聖印が首元でかすかに揺れた。アルトは昼間ベルナール大司教が語った「恐れるな!」という言葉を思い起こし、自らに言い聞かせる。
と、その時だった。遥か彼方の森の奥で、ボゥ…という低い唸りのような音が響いたように思えた。アルトははっとして耳を澄ます。先程まで無音だった闇の向こうに、何かが蠢いている……?草木のざわめきと共に、不気味な遠吠えが夜気を震わせた。陣営の馬が鼻先を鳴らし、不安げにいななく。アルトの背筋に冷たい汗が伝った。
「敵襲か!?」別の見張りが声を上げた。闇の向こうで揺れる無数の赤点——まるで眼光のようにも見える。「合図を送れ!」遠く指揮所から甲高い声が響き、次の瞬間、警鐘が打ち鳴らされた。アルトは息を呑む。ついに来るべき時が来たのだ。漆黒の闇の彼方、何千もの蠢く気配が大地を覆い尽くそうとしていた…。干からびた骨が触れ合う不協和音や、獣の唸りにも似た地鳴りが断続的に聞こえてくる。彼は震える心を必死に奮い立たせ、亡き勇者に代わる覚悟で握る槍へと祈りを込める。「負けるものか…!」 こうして、人と魔の大戦の幕開けとなる夜が更けていく。戦火の胎動は目前に迫り、人々は己の意地と運命を賭けて常闇に立ち向かおうとしていた——。
最後までお読みいただきありがとうございます!
「ゲーム×異世界×魔王」という構図の中で、
主人公・マグナスがどのように“王としての答え”を出していくかを描いていきます。
本作は重厚でダークな展開が中心となりますが、配下NPCとのやり取りや、
魔王であることの“光と影”にも焦点を当てながら進めてまいります。
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今後ともどうぞよろしくお願いいたします