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序章 第1話 【ボクシング世界戦前日の記者会見場】

 昨日までの曇天が嘘のように、東京の空が澄み渡っていた。

 徐々に気温の上昇を感じ始めてきた五月中旬の人気スポットお台場エリアの海沿い。

 今や観光地としても有名な東京お台場の海岸を歩いていると、まるで春の終わりから夏の始まりを告げているかのような普段は穏やかで静かな海が、時折り吹いてくる南風に煽られて波が大きく揺れ動くたびに、波光が乱反射しながら眩しい光線を発していた。

 そのお台場から『ゆりかもめ』で十五分。

 長い間、東京の台所と謳われた築地から移転した豊洲市場がある。

 現在は世界の観光客が集まる場所となったその豊洲市場と築地場外は、共に美味しい食事とお土産品が楽しめる大人気の観光地となっている。

 多くの人が美味しいお寿司や天ぷら、鰻、蕎麦、ラーメンなどといった伝統的な日本の食文化を堪能した後、『ゆりかもめ』に乗車して「新豊洲駅」で降り、駅から歩いて約八分。

 ここにはスポーツや音楽、そして格闘技の一大拠点、有明コロシアムがある。

 本来はこの場所周辺でゆっくりとした時間が過ごせるのだが、今日と明日の二日間だけは、世界中の若者にとってそれを許さない程の大切なイベントが予定されていた。そして今まさに世界中のスポーツメディアが発信しようとしている記者会見がこの場所でもうすぐ行われようとしていた。

 日本はおろか世界中のボクシングファンが注目するまでになった、共に二十歳の若きプロボクサー、ベンタこと東弁太一とうべんたかかずと、海斗こと分銅海斗ぶんどうかいと

 二人が共にアメリカに渡り世界ランカーだった北米チャンピオンをそれぞれ倒した日から約三か月が経った。

 この試合を認定した世界最高のボクシング団体【WBA】の経営幹部が、乱立するボクシング団体の現状を憂慮し、有り得ないような戦略を練り始めた。

 歴史ある老舗としての権威の復権と認知度を高める為、事業展開の抜本的な見直しと更なる活性化を図りながら世界戦における主体的な興行を実現する目的で、他のボクシング団体にはない新たな世界的スターを育てたいと考えていたWBAが、ランキングに入ったばかりの若い二人のボクサーに注目し、世界タイトル戦のカードを用意してきた。

 日本ボクシング界が生んだ二人の二十歳の若者が、同じジムから同時に世界に挑むという世界を見渡してもあまり例のない歴史的なカードを、WBAが発表したのはつい三か月ほど前だった。

 当然の事ながら対戦する選手は現世界チャンピオンであるため、それぞれがビックマネー得るための相手を模索する中、WBA本部が両ジムとの交渉に積極的に参画し、所属するマネジメント会社やスポンサー、ジム同士の交渉を円滑にすすめ満額回答で事前に合意を得た後だった。

 場所は日本人ボクサー歴代最高傑作と言われた井上尚弥選手の世界戦でも有名になった有明コロシアムだ。前回ジムの先輩、田上瞬のWBA世界スーパーバンタム級戦も行われた場所だった。

 全世界にリアルタイムで放送され、インターネットでも同時配信される。

 対戦相手は一か月前から日本に滞在し、コンディションを整えて万全の体制で望んでいた。

 そして世界が驚いたWBAの世界戦の発表からあっという間に三か月が経過し、試合前日となった。

 有明コロシアムには多くの報道陣や関係者が集まり、テレビカメラに囲まれ、デジタル一眼レフのカメラから放たれる無数のフラッシュライトを浴びながら、全世界が注目する明日の決戦に向けて、前日計量が行われた。

 まずはウェルター級。

 挑戦者、分銅海斗。一四六ポンド二分の一。

 チャンピオン、ロベルト・アルバレス、一四七ポンドリミット。

 海斗、アルバレス共にクリアで、ガッツポーズをつくってアピールした。

 次にスーパーミドル級。

 挑戦者、東弁太一。 一六七ポンド二分の一。

 チャンピオン、カルロス・ソト、一六八ポンドリミット。

 ベンタ、ソト共にクリアで、ガッツポーズをつくってアピールした。

 次に、それぞれのジムの会長、トレーナー出席のもと、記者会見が始まった。

 集まった記者の質問が、二十歳のベンタと海斗に集中したため、アルバレス、ソト二人のチャンピオンサイドが、不機嫌な態度を取り始めた。ソトは仕方がないなと呆れた表情をして苦笑いをしたが、アルバレスの方は若い海斗を挑発する発言をし始めた。WBA本部役員の指示で、進行係と司会者が何とか場をとりなし事なきを得た格好になったが、全世界にその様子が放送されていた。

 最後は、海斗とアルバレス、ベンタとソトの四人の選手がお互いに向かい合って両手を構え、紳士的な態度で記念写真を撮り、お互いの健闘を誓い合った。

明日の夜、有明コロシアムで行われるプロボクシングWBA世界ウェルター級タイトルマッチと、スーパーミドル級のタイトルマッチ。

 世界が注目する二十歳の日本人ボクサー、東弁太一と分銅海斗。

 明日どんな戦いを繰り広げるのか、そしてどんな結果が待ち受けているのか、誰一人知る由もなかった。

 この物語は、二人が出会う今から五年以上前にさかのぼることになる。

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