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レイは、ウィネスタ王国、その城で生まれ育った。レイは王族ではないのだが、レイの両親が城の使用人として働いており、その家族も城の中で部屋を宛がわれていたからだ。


ウィネスタの国王は、以前は身分に拘らない性分で寛容だったという。使用人の子供達にも我が子のように接していたし、王族の子供と使用人の子供が一緒に遊ぶ事も特別な事ではなかった。

その子供達の中で、アザミと特に仲が良かったのがレイだった。


レイの隠された左目は、噂通り、まるで宝石のアメジストのように美しい。

それでも当時は、ただ珍しい色の瞳というだけで、物騒な事を考える者はいなかった。


だが、育った国が違えば、価値観の違いは出てくるもの。隣国が信仰していた宗教に、レイのような瞳を持つ女神がいるらしく、レイはその宗教団体の人間に浚われてしまった。レイを浚った者は、ウィネスタの兵士の追撃により山道で足を踏み外し、レイと共に川に転落。レイはすぐに保護され、命も助かったのだが、その時のショックからか、記憶を失ってしまった。


レイを浚うよう指示したのは、隣国の宗教団体とされているが、実際は隣国の王の指示ではないかと、ウィネスタの国内では未だにその疑いが晴れないでいる。

少なからず溝のあった両国は、これにより更に溝を深め、現在もその溝を深めたままだ。


これにより、城に居てはまたレイに危険が及ぶかもしれないと、兵士の中でも腕の立つダンとリオを護衛につけ、レイは辺境の村、タタスへと身を隠す事となった。




そして時は流れ、隠された筈のレイの存在は国の外へと話が漏れ、その際、何がどう伝わったのか、「どこかの国の王族が隠した、アメジストの瞳という宝石がある」という者もいれば、「瞳から涙のように宝石が出てくる女が居て、その女には高値がつく」と言う者もいる。噂が一人歩きして広まった結果、レイの瞳は勝手に様々な価値を付けられて現在の噂に落ち着きはしたが、それでも賊から狙われる日々は変わらない。


その賊の中に、もしかしたら隣国との間に起きた事件を知る者が居るかもしれない。もしそんな輩の手に落ちたら、それこそレイは、何に利用されるか分かったものではない。




これまで、レイが無事に生きてこられたのも、リオとダンのおかげだ。それを思えば、感謝でしかない。アザミは改めてリオに向き合った。


「よく、レイを守ってくれた。いくら君達の腕が立つとはいえ、危険な役目を押しつけてすまなかった」


アザミが頭を下げれば、リオは「勿体ないお言葉です」と、焦った様子でアザミの前に跪いた。


「ここでは、私はただの遊び人だ。そんな事をされては、私が王子だとバレてしまうよ」

「…アザミ様は、相変わらず無茶をおっしゃいます。ですが、レイを守る任務を押しつけられたとは、私もダンも思った事はありません」


リオは顔を上げ、柔らかに微笑んだ。その表情からは、言葉を繕った様子は見えず、アザミは少し複雑な思いが胸を掠めていくのを感じた。

その気持ちを胸に留めておきたくなくて、誤魔化すようにカップを覗けば、紅茶の中には揺れる自分の顔がある。アザミは眉を僅かに顰め、ぐっとそれを煽った。


「…心強いよ。仕事の途中だったろ?引き止めてすまなかった…私は少し村を見てくるよ」

「でしたら、ご一緒に」

「大丈夫だよ。リオ達はいつも通りに過ごしてくれ」


そうアザミが微笑んで立ち上がると、リオは何か声を掛けようとしたようだったが、アザミはそれを制するように、そっと柔らかな表情をリオに向け、そのまま店を出ていった。



今のレイの人生に、自分はいない。レイが浚われた当時、自分は子供で、ダンやリオのようにレイを守れる力も権力もなく、レイを守る為には、こうしてリオ達に頼り、離れるしか方法がなかった。


だけど、もう子供の頃の自分とは違う。

何も出来なかった、少年ではない。


「…今度は私が、守ってみせるさ」


アザミはそう決意するように呟くと、爽やかに吹く風に誘われるように顔を上げた。ふと視線を巡らせると、のどかな村の向こうに見える丘が目に止まる。ふわふわと、白い雪に覆われたかのようなその丘に、アザミは導かれるように足を向けた。





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