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ウィネスタという国にある辺境の村、タタス。山々に囲まれ農地が広がる穏やかなこの村に、大層美しい“アメジストの瞳”という秘宝を隠し持つ、老婆がいるという。

それは、王宮の宝とも匹敵する程の代物らしく、噂を聞きつけた盗賊達がこの村を訪れるのも、よくある事だった。


そして、村にやって来た盗賊達は、大抵、村の外れにある小さな酒場を訪れ、騒ぎを起こし、有益な情報を得ようとする。


この日もそうだった。




「さっさと情報を寄越せ!この女がどうなっても良いのか!?」


スキンヘッドに屈強な腕、盗賊の男は女性を人質に取り、大声を張り上げた。


人質に取られているのは、この酒場で働く店員、レイだ。金色の長い髪を後ろに結い、背は高く華奢で、丈の長いワンピースを着ている。左目には眼帯を付け、金色の長い前髪でそれを隠すように覆っているが、それでも彼女の美しさは隠せないようだ。だが、その美しい顔立ちも、この時ばかりは恐れに歪んでいる。盗賊に背後から体を抱えられ、首元にはナイフを突きつけられているのだ、レイは恐れから、指一つ動かせない様子だった。


「その子には手を出さないでくれ!」


そう叫ぶのは、この店の店主、ダンだ。肩幅はがっしりとして、がたいの良い男性だが、その腰は引けており、いつもは穏やかなその表情も、この時ばかりは悲痛に歪んでいた。ダンの傍らには、赤く長い髪を後ろで一つにまとめた女性がいる。ダンの妻、リオだ。彼女もまた、いつもは気立て良く笑うその顔に、涙を浮かべていた。


「だったらさっさと吐け!」


盗賊の男が近くのテーブルを蹴飛ばすと、それを合図として、後ろに控えていた仲間の盗賊達が面白がるように奇声を上げ、店の中で暴れ始めた。手にはナイフや銃を持ち、側にあったテーブルや椅子を蹴倒しながら、盗賊達はダンとリオ目掛けて襲いかかろうとしている。


「アンタも少しは助けを求めたらどうだ?その眼帯にどんな傷を隠してる、さぞ痛めつけられたんだろうな」


盗賊の男は、レイの眼帯に何を想像したのか、その様を愉快そうに見つめ、レイの顎をナイフの刃先で上向けさせた。彼がきっと、この盗賊団の(かしら)なのだろう。レイの顔を覗き込む顔は愉悦に歪み、どのようにレイが助けを乞うのか面白がっているようだった。

レイは怯えきった表情を浮かべていたが、その男と目が合うと、怯えていた表情をその顔から消した。助けを乞うどころか、その美しい瞳をそっと眇て睨み上げれば、男の表情が僅かに強ばった。殺気立ったレイの右目に、思わずといった様子で息を飲んだのが分かる。


ただの、酒場の女じゃない。

そう思った一瞬が、命取りだった。


男がそれに気づいた時には、ナイフを持つ手が払われた後で、そのまま踊るようにレイと体制が入れ替わると、彼は腕を捻り上げられ、頭を床に押しつけられていた。


一体、何が起きたのか。


華奢な女の力とは思えない、床に倒された太い腕がぴくりとも動かせず、盗賊の頭である男の顔がみるみる内に青ざめていく。


「相手が悪かったな」


聞こえたレイの声に、男は驚き、そして察した。長いスカートを捲り上げ、彼女はその足を、床に突っ伏した男の顔の横に投げ出し、そのまま思いきり床を踏みつけた。ナイフを突き付けられたお返しだろうか、ひ、と震える男の声を聞き、彼女である筈の美しい唇が弧を描いた。


女のものだと思っていたその声も、その足も、今はどう見ても、女のそれとは違う。

どこからどう見ても女だと思っていた店員が、今はどこからどう見ても男にしか見えない。そしてその困惑は、周囲から上がる悲鳴により更に増す事となった。


図体だけの弱腰の男だと思っていたダンに、か弱いと思っていたリオを前に、屈強な男達が次々とひれ伏していく。


あんぐりと口を開けたのは盗賊の頭で、その顔を覗き込み、女だと思われていた酒場の店員、レイは天使のように微笑んだ。


「おかげさまで店はボロボロだ。俺としては、アンタ達をこのまま憲兵に引き渡しても良いんだけど、一つ望みを聞いてくれるなら、考えてやっても良いよ」


盗賊の頭がその望みを受け入れるのは、時間の問題だった。





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