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どうしてだろうか、アザミが酒場にやって来た時のように、彼の申し出を突っぱねる事が出来そうもない。

心が騒いで落ち着かない、アザミは、記憶を失った自分でも構わないというのか、だけど、でも。


レイは、自分でも自分がどうしたいのか、分からなくなっていた。答えを出さなければとぐるぐるする頭の中では、知らない筈の記憶の断片が過り、重ねて混乱を生んでいく。その当時の自分は、何を望んでいたのだろう、どんな未来を思い描いていたのだろう、こんな日を夢見ていたのだろうか。けれど、今の自分は。


アザミは、そんなレイの戸惑いを察しながらも、そっとレイの手を取った。レイはびくりと反応してしまったが、アザミはそれを敢えて気に留めず、それでも優しくその手を握った。


「君の為でもある。その瞳のせいで、また危ない目に遭うかもしれない。その瞳の事を知らずとも、この間のような事が起きるかもしれない。そろそろここを離れるべきだ、ダン達も共に」

「…離れても、まだこの村に宝があると信じて、別の盗賊がやって来るかもしれない。あいつら何をするか…村の人達に危害を加えるかもしれない」

「守るよう尽くすよ、私が見回りに来ても良い」

「…なんで、そんなしてくれんの」


レイは、アザミの傷ついた肩に目を向ける。傷を負ってまで守ってくれる理由が、レイには理解出来なかった。本当に、自分にそんな価値があるのだろうか、今だって、危険しか生み出さないというのに。

アザミは、触れたレイの手を見つめ、そっと目を細めた。


「君はずっと私の支えだった。兄弟の中で出来の悪い私を励まし、私は私で良いのだと手を引いてくれたのが、君だった」


懐かしそうに語るアザミの中に、確実にレイはいる。でも、レイだけが何も知らない。どうしてこんなにも、疎外感のようなものを感じてしまうのだろう、アザミは今の自分も見てくれるのだろうが、レイはそれでも、アザミの胸に飛び込む事は出来なかった。


「…でも、アンタそのうち結婚するじゃん。星結いの儀って、そういう日だろ。俺は、無理だ、男だし、見た目はこんなだけど」


言いながら、胸がどんどん苦しくなる。逃げ出したいのに離れたくなくて、触れられた手に自然と力が入ってしまう。そんなレイの気持ちを感じとってか、アザミはそれでも柔らかに微笑んだ。


「星祭りの夜に、もう一度ここへ来る。その時、返事を聞かせて欲しい」

「は?星結いがあるのに出来る訳ねぇだろ」

「その辺は心配無用だ、私の心は、既に君に預けてしまったからね」


そう微笑むアザミに、レイはどきりと胸を跳ねさせた。甘やかな瞳に、心を預けたくなってしまう、その手を引き寄せて、その胸に甘えてしまいたくなる。けれど、レイはその衝動を懸命に抑え、アザミの手から離れると立ち上がり、くるりと背を向けた。


「さっさと戻るぞ!俺まで怒られたくないからな!アンタは城に帰るんだから!」


レイは自分に言い聞かせるようにそう言い放つと、アザミを待たずに先に歩き出した。「待ってくれ」と、アザミの声が追いかけてきたが、その声に振り返る事はしなかった。

このまま振り返ってしまえば、また迷ってしまう。それに、どきりとしたのだって、きっと真っ直ぐなアザミの瞳に惑わされたからだ。レイは心の中で必死に自分にそう言い聞かせて、最後までアザミの顔を見る事はなかった。






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