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チーター

「な、なんだ!?」


 黒い煙は、ナイトの身体の中へ流れ込んでいるようだった。


「うぐ……ぐぅぅぅあああああっ!」


 ナイトは苦しそうにもがき始める。煙が入り込んで行くのに比例して、身体が膨れ上がっていた。


 鎧にヒビが入り、割れる。露出した肌は、まるで爬虫類のような鱗で覆われていて、明らかに人ではないナニかに変身していた。


「な、なにあれ……もしかして、進化……?」


 勇希が戸惑いの呟きを漏らす。確かにナイトの変化はグレートグリズリーの見せた進化のそれに酷似していた。いや、それよりもっと──。


 ナイトの身体は5mほどまで膨らんで、顔は爬虫類のように前に突き出し、大きな口には牙が並んでいた。全身黒い鱗で包まれており、手には鋭い爪。尻尾も生えている。


 二足歩行で佇むその姿は、まるで怪獣。


「ギャァァァァァアアア!」


 グリズリーとは違う、空気を震わすような雄たけびを上げてから、怪獣のように変身したナイトは爬虫類特有の黄色い眼を俺たちへ向ける。


「マ、マルフジさん! 怪獣になっちゃいましたよ! ど、どうしたら……」


「放っとくわけにもいかないだろ! なんとかして倒すぞ! 勇希、もっと回復薬を――」


 怯えて俺の背中に縋りつく勇希へ振り返ったその時、ふと人影が視界に入った。


 誰だ。と、意識が新たに現れた人物に集中するが、なぜかその人物像が頭の中に入ってこない。


 人間が立っているのは認識できるのだが、男か女か、若いのか老いているのかすら判別できなかった。それなのに、どうしてか違和感を覚えない。


 まるで記憶のフィルターにロックがかかっているような、不思議な感覚。


 辛うじて認識できる口元が動いた。


「はい、そこまで。ストーップ」


 謎の人物が言った。声も加工されているのか、どちらとも取れる中性的な声音だった。


 すると、ナイトの動きがピタリと停止する。湖から出てこようと片足を上げたその姿勢で、まるで時間が止まったかのように。


「いやぁ、ウチの客が迷惑をかけたな。こっちで回収して説教しとくから、それで許してくれ」


「回収……? お前、何者だ」


「しがないバイヤーさ」


 バイヤー、と名乗った人物が一歩近づいてくる。それに俺は拳を固めて臨戦態勢を取った。


「待て、争うつもりはない。そいつを回収に来ただけだって言ってるだろう。邪魔しなけりゃ何もしないさ」


 言いながらバイヤーは俺たちの横を素通りし、ナイトへ近づいて行く。


 奴の足は水に沈むことなく、まるで地面の上を歩くかのように歩を進め、固まったまま動かないナイトへ手を伸ばした。


「チートオン、異空間収納」


 バイヤーが告げると、ナイトの頭上の空間に穴が空く。穴が下降するとナイトの身体を触れた部分から消失させていく。


 異空間収納、という言葉から察するにどこかへ収納しているのだろう。


「マ、マルフジさん。いいんですか、見てるだけで。あれって例の……」


「しっ、何も言うな」


 俺は勇希を制止して言葉を止める。


 奴がPD技術流出の件に関わっているのは間違いないが、あまりにも得体が知れなさすぎる。


 敵意がないのであれば、ここは無闇に刺激しない方がいいだろう。


 そうしている間にナイトの回収が終わったのか、空間に空いた穴を閉じてバイヤーは振り返った。


「全く、困るぜ。利用規約にも配信で見せるなって書いてあるんだがな。ま、こんな低脳な人間が読むはずもないか」


 ハハハ、と笑うバイヤーに、俺は少しでも情報を引き出そうと話しかける。


「バイヤー、ってことは何かを売ってるんだよな? さっきのチート……それが関係してるのか?」


「興味があるか? あんたになら売ってやってもいいが、ここじゃ駄目だ。現実にでも戻ったらここへ連絡してくれよ」


 ピッ、バイヤーが何かを投げる。俺は反射的に受け取ると、それは名刺のようだった。


「あんたならいつでも大歓迎だぜ」


「……俺はお前みたいなのに歓迎される覚えはないんだがな」


「あんたのことは個人的に気に入ってるんだ」


 こんなヤバそうなのに気に入られている覚えなんて、考えてもまるで思い当たらない。


 無名仮面として話題なったからか? 自分の知らない場所で、自分のことが認知されているってのは、気味の悪いモノがある。


 狙いはわからないが、わざわざ連絡先を渡してくれたのは好都合だ。奴は俺がPD技術流出の件に関わっていることは知らないからの行動だろう。


 勇希の発言を止めて下手に出ていてよかった。これはかなり有益な情報になるかもしれない。


「あんたも色々と大変だろ。現実逃避がしたいんなら、いつでも力を貸すぜ」


「――っ!? オマエ……」


 俺の動揺を見透かしたように、バイヤーの唯一判別可能な口元の端が上がった気がした。


「チートオン、転移ゲート」


 しかし、俺が何か行動を起こすよりも早くバイヤーは目の前に門を出現させ、そこへ入って行ってしまった。


 追いかけることもできず、俺たちは門が消えていくのを呆然と見つめていることしか出来なかった。

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