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08 前編05:蒼き先駆者と赤き勝利の鐘




 絶海の孤島の中心から何か黒い物体がズルズルと伸びてきている。

 山の中心からなので噴火まで伴ってきていた。本当に地の底から出てきているようだ。

 噴火の影響で津波の原因が発生する。陸地に着く頃でも最大1メートル前後となるだろう。騒ぎになるし、多少の被害も出るので最大10センチメートルにまで軽減しておく。


「凄い量だな」


 後から後から押し出されてきているように見える。既にハーク達の現在位置の半分に迫る勢いだ。つまり長さ20キロメートルを超えたということである。


「本体はあんなもんじゃあないぞ」


「本体?」


『何かアレ、重力を無視してないッスか?』


 虎丸の言う通りであった。

 黒い物体群は、ハーク達のように何かしらを噴出して高度を上昇させている気配は無い。本当に、ただただ後ろから押し出される力だけでいつまでも上昇してきていた。


 普通ならば、どこかで勢いが重力に負け、返っていく筈なのである。

 押し出す力が尋常でないほどに強ければ、そうではないこともある。実際、地球の歴史の中で、火山の噴火による噴煙頂部の高度が成層圏以上に達した事例は何度かあった。

 しかし、それほどの巨大な力がかかれば付近の海洋や大地に深刻な影響が及ぼして然るべきだ。それが最大1メートル程度の津波とは、影響の規模が些か小さ過ぎた。となれば、尋常ではない上昇の要因は別にある。


「いや、あれは軽すぎるんだ。質量がほぼ無いに等しいぞ」


 一つ一つが細かすぎる。空気中を漂う埃よりも小さい。細かすぎて最早微細だ。色もついているだけマシだった。寄り集まることで黒く見えている。


「……ん? 寄り集まっている? まさかあれは闇の精霊か?」


「そうだ。そして、それが操る有機的物体群だ」


 話している間に真っ黒なそれがハーク達と同じ高さにまで達する。陽光を受けた様はまるでヘドロのようだ。色々な物質が混ざりに混ざりってしまっているからだろう。

 動くヘドロが幾つかに分裂する。

 ぐにゃぐにゃと形を変え、総勢30を超える大蛇や狼の姿となった。


「……なんだ? 終末戦争でも模しているつもりか?」


「かも知れないな」


 黒いヘドロのようなもので形成された化物群がハーク達のもとに近づいてくる。

 だが、一定のところまで近寄った時点でバチッ、と強く弾かれた。中には化物の姿を維持できずに、バラけてしまったものもいる。


「ん? ああ、虎丸の防御障壁か」


 ここは成層圏だ。防護服も無く肌をさらし続けるのは難しい。代わりに虎丸が大気を生産し、その大気が外に逃げていってしまわないよう障壁を張ったのである。言わば結界のようなものだが、敵への侵入阻止のためではなかった。


「あ~~~、強過ぎたッスかねェ? これ以上弱くするのは難しいッス」


「要らんよ。奴ら強制的に入ってくるつもりだ。……ん?」


 敵は一度黒い化物の形状を解いて元の不定形となり、自らをドリルのように変形させて障壁に小さな小さな穴を穿つ。そこから侵入し、障壁内部で再び狼や大蛇の形態をとる。

 ところで最後にハークが疑問の声を出したのは、虎丸の言葉が念話ではなかったからだった。横目で見ると例の可憐な少女の姿となっている。ちゃんと服は着ていた。


「おお。虎丸殿の人化した姿もまた、随分と可愛らしいものだな。その姿で戦うつもりかね?」


「うむ! ご主人、まずはオイラに任せて欲しいッス!」


 解り易くやる気が視える。多少の注意喚起を行おうとも思ったが、他者の意欲を挫くのはハークの好みではない。まずはやらせてみる。


「解った。先手を任せよう」


「了解ッス!」


 形成の終わった1体目の化物が早速襲いかかってきた。

 虎丸はハークとヴォルレウスの前に立ち塞がるような位置へと移動する。




   ◇ ◇ ◇




 一方、地上でも黒い物体が地の底から宇宙に向かって飛び出していくという異常事態を目撃していた者がいた。

 今や最古龍中の最古龍、アレクサンドリア=ルクソールにキール=ブレーメンである。

 彼らは広い海洋とその内部を調査していた。


『なんじゃあ、今のは!? 何の前触れもなく噴火しおったぞ!?』


 アレクサンドリアは火を大の得意属性とする龍である。それだけに炎や爆発の気配に敏感だった。

 そんな彼女が事前に全く感知できなかったというのは、それだけで相当な異常だと考えられる。


『むうっ! あの高さでは、ワシは勿論のこと、ガナハですら追いつけんぞ!』


 キールはアレクサンドリアとは逆で水、つまりは海に最も適応した最古龍である。酸素どころか大気すら周囲に無い状況でも活動可能ではあるが、飛行能力は最古龍の中で最も低い。

 過去最高到達高度は、空龍と呼ばれる通り龍族最高の飛行能力を持つガナハ=フサキの半分にも及ばなかった。


 しかし、そのガナハであっても成層圏以上の高さにまでは達したことはない。

 理由は当然。それ程の高度にまで上がる必要性が無いからだ。そこまで上がらなくとも他に飛行を邪魔する生命体は高度的にいなくなり、下から見上げたって肉眼ではほぼ豆粒以下のサイズである。


『アレクサンドリア! キール!』


 キールとアレクサンドリアの2柱がガナハのことを思い起こした次の瞬間、そのガナハから念話が入る。

 ただし念話は実際に声をかけるのと違って、頭の中に直接響くのでどの方向からなのかすぐには判別がつかない。結局見つけたのは、勘の鋭い方、アレクサンドリアの方であった。


『あそこじゃ、キール』


 アレクサンドリアの紅の鱗に覆われた指が示す方角にアズハの純白な姿もあった。


『キール爺、アレクサンドリア。何があった?』


『おう、アズハ。実はな……』


『待った、アズハ、キール。全員来るぞ』


 事情を説明しようとしたキールをアレクサンドリアが止める。


『全員?』


『海洋にいた全員だ。ヴァージニアまで来るぞ』


 アレクサンドリアの言葉通り、10分後にはヴァージニア、ボルドー、ブルガリアが現着していた。


『何があったの!?』


 代表するようにブルガリアが言った。


『その言い草であると、ブルガリアたちは実際の光景を見ていないか。ガナハたちもか?』


『ウン。海洋の異常を感知して、ここまで来たよ』


『ヴァージニアは陸に居た筈であろう? よく感知できたな』


『ブルガリアたちが報せてくれたの。急いで飛んできたわ』


『そういうことか。まず、起きたことを説明するが、妾たちも実際に何が起きたのかはよく解らん』


『アレクサンドリアとキールが?』


 ブルガリアが思わず驚き半分、疑い半分な眼差しを向ける。彼女たちにとってこの2柱にエルザルドを加えた最古龍中の最古龍には、知らぬ事など無いと思っていたからだ。


『そんな眼をするな。本当のことよ。突然に絶海の孤島の火山が前触れもなく噴火したと思ったら、その中より黒い何かが次々と天空を目指して飛び出てきおった。異様な光景じゃ』


『黒い何か?』


『何かは本当に解らん。じゃが、邪悪な気配を感じた。このまま捨て置くことはできん』


『しかし、高過ぎる。ワシらではあんなところまで行けん。ガナハはどうだ?』


『キール、ボクでも無理だよ。あの半分も行ったことない。ところでさ、ボクらの方も報告。ヴァージニアの息子さん、ヴォルレウスの隠れ場所を見つけたかも』


『本当!?』


『すごいじゃん!』


『けど、特殊な方法で姿を隠されているみたい。大体の位置は掴めたから、皆で探せば必ず見つけられると思う。ただ、肝心の本体は……』


『あっち』


 言い淀んだガナハの代わりにアズハが真上を指差した。


『まさか……あの黒い何らかの物体は、ヴォルレウスを追いかけてあんな空にまで昇っていったのか!?』


『ワシらも昇る必要があるのう。どうにかしてあそこまで』


 全員がキールの視線を追い、真上を見上げた。


『でもどうやって!? ガナハでも無理なんでしょ!?』


『大丈夫だ。ワシに良い考えがある』


 ブルガリアはキールから『可能性感知ポテンシャル・センシング』発動の気配を感じ取った。





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