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貴方の為に

作者: 日高春

 梅雨も終わり、茹だるような暑さが顔を出し始めた頃、貴方に出会った事を今でも鮮明に覚えている。


 初めてのデートは水族館に行った。

 夏には水族館に行きたいという貴方の小さくて可愛い夢が一つ叶った事を私はとても嬉しく思った。

「室内だから暑くなくて良いね」なんて貴方は言っていたけれど、本当は海に行きたかった事も知っている。


 二回目のデートは映画を観に行った。

 流行りの恋愛映画を観ながら二人で同じポップコーンを食べたのが懐かしい。

「なかなか面白い映画だったね」と貴方は言っていたけれど、本当はつまらなさそうにしていた事も知っている。


 三回目のデートは遊園地に行った。

 最近新しくなったアトラクション目当てに行ったけれど、雨が降って乗れなかったのも良い想い出だと思う。

「乗れなくて残念だね」と貴方は言っていたけれど、本当は怖いから乗れなくて良かったと思っていた事も知っている。


 私は、貴方のことを何でも知っている。

 好きな食べ物も嫌いな食べ物も、好きな芸能人も嫌いな芸能人も、屋内よりも屋外が好きなところも、洋食より和食が好きなところも、純愛映画よりアクション映画が好きなところも、動画より写真が好きなところも、人が多い場所よりも人が少ない場所の方が好きなところも、夏よりも冬が好きなところも。


 何でも知っている。つもりだった。


 茹だるような暑さや蝉の声にも慣れてきた頃、貴方からの連絡で私は目を覚ました。

「ごめん、今日行けなくなった」

 という無機質な文面が私の携帯を光らせる。


 十回目の記念すべきデートの日にも関わらず、貴方は別の予定を入れていた。

 とても悲しかったが、仕方のない事だと思い込ませて、携帯を枕元に置いた。


 もう一度携帯が光った。

「夜の十時に会おう」

 今日は会えないと思っていたので、私はとても嬉しかった。

 ロングヘアよりショートヘアの方が好みと言っていた貴方のために、美容院に行ってから貴方に会う事にした。


 いつも通っている美容院の予約が取れなかったので、最寄駅から三駅離れた所の美容院を予約した。丁度、貴方の最寄駅。


 美容院が終わり少し時間があったので、貴方が欲しがっていたバッグをプレゼントしようと思い、駅近くのショッピングモール方向に歩いていた途中見覚えのある顔を見つけた。


 私は、貴方の事を何も知らなかった。

 仲良く歩く二人組。忘れもしない私が初めてプレゼントした貴方が欲しいと言った限定の白シャツ。何度も見た右耳の黒いピアス。そして、見たことの無い表情の貴方を見つけた。


 咄嗟に身を隠してしまった。


 何かの見間違いと思い込ませ、私はショッピングモールに向かう。貴方へのプレゼントを用意する為に。



 夜十時。貴方の家のインターホンを押す。

 いつものように笑顔で私を出迎えてくれた。

 扉が閉じると同時に、私を強く抱きしめてくれる。

 短くなった私の髪の毛や床に落ちた荷物に興味など無く唇を重ね、下着を脱がされ夜の風で揺れるカーテンを横目にベットへ向かう。

 貴方の匂いでいっぱいの布団に押し倒され、優しく身体に触れられる。貴方の優しさ、温もりをこんなに感じる事ができる私は幸せ者だ。  


 そして、貴方が私に覆い被さって耳元で囁く愛の言葉。

 それがこの時間の終わりの合図。


 私は、玄関へと向かい荷物を拾い上げ、貴方のもとへと戻った。

 貴方はベットの上で仰向けになり、携帯を触っている。


 貴方の名前を呼ぶ。

 貴方は驚いた顔をして私を見つめる。

 私は貴方に覆い被さった。

 そして耳元で愛の言葉を囁く。



 それが貴方との時間の終わりの合図。



 生温かい貴方の温もりが私に伝わってくる。

 貴方の温もりを感じる。

 貴方の名前を呼びながら、何度も何度も貴方に覆い被り、温もりを感じた。


 だんだんと温もりが感じられなくなっていく。

 暑さを忘れたように貴方は冷たくなった。


 冬を迎える事ができなかった貴方が可哀想だったので、少しでも冬を感じれるように冷蔵庫に入れてあげた。




 一番貴方を知っているのは私。

 そう思い込ませて貴方の頭に口付けをした。

 短くなった髪の私の顔をプレゼントする為に用意したナイフで首を切った。




 私が一番近くで貴方を守れるように。



閲覧頂きありがとうございます。

久しぶりに物語を書いてみました。

今後もよろしくお願いします。

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